第20話 商会
ついにこの日が来た。
俺はハイールたちに会社の仕組みについて教えた。ハイールたちにとっては会社という仕組みは初めて知るもの。わかり辛くて何を言っているのかわからないと言っていた。そもそも株って何? から始まった。そもそもここが中世だとしたら紙幣が出回っていないはずだ。紙にお金の価値があるはずがない。そりゃあ、そうだ。今の世界でも経済的に不況になれば紙幣がただの紙くずになることだってあり得るのだ。今も紙幣に本当の意味でお金的価値があるわけがない。ただ、それを俺が今、中世の世界に持ち込もうとしているのだ。
新たな試みだ。成功するかどうかわからない。でも、成功させなくてはいけない。俺が未来を助けるためにも。
ここから一番近い町についてもハイールから聞いている。当初俺が目指していた街よりも小さいが、それでも商売が盛んだという町があるそうだ。そこに行くことにした。
「で、その町の名前を何というんだ?」
「ああ、その町の名前はギルガーと言うぞ」
ギルガーという町に向けて出発したのだった。
◇◇◇
─ギルガー
町に着いた。
ああ、確かにこれはハイールの言うとおりだ。この街はかなり栄えていた。
ちなみにどうでもいいが、ここに来たのは俺と盗賊団全員だ。盗賊団の者どもにはザ・盗賊団と主張するような格好をするなと言い、どこか近くにいるような村人のような格好をさせた。これは、話したら長くなるが、どうやら昔ハイールが近くの村人の服を追いはぎした時にそのままアジトにおきっぱにしていたものらしい。本来はそんな行為を認めるわけにはいかないが、俺には時間がない。あのクソ国王を倒すためであれば多少の倫理的な事柄など無視しても仕方ないんだ。
「ハイール、さてここの街の商会ってどこにあるんだ?」
「さあ、俺はこの町出身じゃないし。そうだ、ジャック。お前この町出身だっただろ」
「あいさ」
ハイールにジャックと呼ばれた下っ端が来た。ジャッキは俺があやとりを教えて2番目にはまった奴だ。2番目にはまった奴なのであまりこいつの印象はない。やはり2番目ってどこの世界においても印象というものがないんだな。ああ、かわいそうに永遠の二番手の緑の……って、関係ないことはどうでもいいとして。さて、ジャックに聞いてみる。
「商会の場所なら知ってますぜえ。こっちです」
ジャックはそう言うとギルガの街で一番大きいという通りをどんどんと進んでいく。町の中心に向かうにつれて人の数が多くなり行きかう人の格好も様々なものになっていく。そして、大通りを少し進んだところでジャックが止まる。
「ここですぜえ」
そう言うと、大きく商会所と書かれた看板が掲げられた何とも豪華な建物があった。元の現代世界で言うと市役所の建物の様なものが建っていた。建物自体も周辺の建物と比較しても比べものにならない大きさを持っている。
商会ということだけあって金があるということか。やはりこの世界においても金が力を持つのだな。なんてあのくず国王のことを思い浮かべながら商会の中に入る。
商会の中に入って一番先に向かったのは一番手前に見えた受付だ。俺が想像していた受付とは違いに机の前に女性が立っているというシンプルな構成だった。何が想像とは違うかというと机というかホテルとかの受付嬢のようなものを想像していたからだ。まあ、机がぼろかっただけが想像とは違ったことだ。女性の受付はホテルの受付嬢の様に見た目が良く俺がもしも未来にぞっこんでなければ惚れていただろうと思う美しさだ。現に、俺の横にいたハイールの鼻が伸びている。
「おい、ハイール……」
俺が細い目でハイールを見るとハイールはごほんごほんとわざとらしく咳をしてどこか空を急に見だした。あ、完全に誤魔化していると思ったがそれほど追及する気も起きなかったし、どうでもよかったことにする。
さて、俺は受付嬢に聞く。
「すみません。ギルドについての説明を受けたいのですがいいですか?」
「あっ、はい。ありがとうございます。あなた様は商会に参加される希望がありますか」
「はい。参加したいと思っています」
「それでは、こちらの書類に参加する方の代表者の名前だけでいいので名前と参加する商会ギルドに丸を付けてください」
そう言って受付嬢が俺に書類を渡してきた。
俺はハイールたちとその書類を書く。代表者名はとりあえずハイールでいいだろう。だって、この盗賊団のボスはハイールなのだから。
他にも必須事項が何個かあり適当にまあまあのことを書いてい置いて次から次へと項目を書き進んでいった。しかし、最後の項目にぶち当たり悩んだ。
その項目というのが、どの商会ギルドに参加するかということだ。そこに書かれていたのが、それぞれ品種ごと・分類ごとに商会ギルドがあるのでどの商会ギルドに参加するのかの希望欄だった。具体的には下の様に書いてあった。
・食料系商会ギルド
・塩
・野菜
・肉
etc...
・衣服系商会ギルド
・服
・靴
etc...
こんな感じに書かれていた。さて、分類がこの2つだけだった。食料か衣服だということだ。では、あやとりは何になるのか。まず、食べ物ではない。当たり前だ。では、衣服か? 確かに編めばセーターとかにできるがちょっと無理な解釈ではないか?
つまりここの商会には俺達が望むものがないということなのか。俺は一応の確認を取ってみる。そして、受付嬢はそのようなものは存在しませんと回答した。また、そもそも遊戯というものはお金にはならないから商人が集まるということがないとまで言われた。つまりこの世界において遊戯とはおそらく俺達の世界で言う昭和の遊びみたいなものを想像しているので、携帯ゲーム機、カードゲームなどがまったくないと考えていいはずだ。だったら、あやとりをやるのもいいが、他のことにも挑戦してみる。俺は、ハイールたちにさらなる入れ知恵を与えるのだった。