第2話 淡い日常生活
職員室から出ると僕の目の前には健と未来が立っていた。
「どうしたんだ?」
僕は2人が何で職員室の前にいるのか尋ねる。2人は僕の問いかけに対して笑っているだけであった、何にも答えてくれない。どうしてだ。
「何だよ。僕を笑いにきたのか」
僕は2人に対して睨みつける。すると、ようやく2人は口を開いた。
「そんなんじゃないぞ。ほら、一緒に帰ろうと思って待っていたんだよ」
健は言った。その言葉には嘘はなさそうだ。
「最近、みんなで帰ってないでしょう。だから、中学校のことみたいにみんなで帰りたいねと思って待っていたの」
未来もそれに続いて言う。未来の言葉も本音みたいだ。
僕は2人の言葉を聞いた後、頷いた。
「まあ、たまにはそういうのもいいか」
未来の言うとおりだ。高校に入ってからはみんなで一緒に帰るということもなくなってしまった。
健はサッカー部で2年生のエースとして活躍している。前に健がスタメンとして出ると聞いて試合の応援のために未来と一緒に行ったとき、僕はその雄姿に驚いてしまった。まさか、健がここまでサッカーがうまかったとは思わなかったのだ。それほど、すごいものであった。特に、決勝点を決めたあのシュートは僕がもしも女子であったならば惚れていたほどの恰好よさであった。
一方で、未来はこの学校─正華院学園の生徒会執行部会長をしている。生徒会長という役職についている未来はその美貌もあり、全校生徒から厚く信頼されている。信頼だけではなく男子を中心にした護衛隊なるものや女子を中心としたファンクラブまで存在しており男女問わずその人気は尋常なものではない。
そして、僕は2年間帰宅部所属の皆勤賞。自称帰宅部のエースだ。特に長所という長所はなく、ザ・一般人。平凡。何もとりえのない。と言った言葉が似合う人生を送っている。健と未来とは大違いだ。
「じゃあ、帰ろうぜ」
健がそう言うと僕達は職員室から離れて玄関へと向かって歩いていく。ただ、帰るまでの途中に多くの生徒と会うのだがそれらの生徒はみんな健と未来の名前を呼んで手を振ったり話しかけたりする。それほどの人気だ。一応、僕もいるはずなのだが完全にあいつ誰? 的な状況だ。
「はぁ~」
その様子についに耐えきれなくなった僕はため息をつく。
そのため息を聞いた2人はどうして僕がため息をついているのか理由が分からなかったらしく理由を聞いてくる。
「どうしたの?」
ただ、その言葉は僕をいらっとさせた。勝ち組は本当にいいですよね。僕みたいなスクールカーストにおいてとてつもなく微妙な位置の辺りにいる人間なんかの気持ちをスクールカースト最上位に位置している健と未来には理解できませんよね。そして、僕としては最高のボッチとして生きているクラスカースト最下位の人間たちも尊敬できる。
「やべっ。涙が勝手に」
自分でそんな悲観的なことを考えていると目から汁が涙が勝手にあふれてきた。本当に悲しい人生だ。僕は何なんだろう。そんな風に思ってしまった。
「あれだよ、未来。和之は自分の存在感の薄さに悲観しているんだよ」
健が余計なことを言う。ただし、実際問題本当のことなんだが。
「別にそんなに存在感が薄いというわけじゃないと思うけど……」
未来が何かごにょごにょと言った。しかし、その声はとても小さすぎて僕には全く聞こえなかった。一体何を言ったのだろうか。その中身がとても気になるところである。
「確かに未来の言うとおりだな」
健が未来の言葉に頷く。どうやら健には今の未来の言葉が聞こえたみたいだ。どうしてあんな小さい声が聞こえたのだろうか。とても不思議だ。僕ってもしかして難聴なのか。病気だったら早く病院に行かないとと心配になるぐらいのレベルであった。心配性であるためあとで一応病院に行っておくかと密かに決意をした。
「ところで、何が未来の言う通りなんだ」
僕は健に尋ねる。僕1人だけこの話が分かっていないのが癪だからだ。
未来は僕の言葉を聞くとなぜかビクンと体が震えた。健はその様子を見て笑っている。
「はぁ~。それマジで言っているのか?」
「それって?」
「……朴念仁……」
僕にはさらに謎が増えた。一体健は何のことを言っているのだろうか。健は僕が本当に分からないことを知るとなぜか笑い出した。未来は顔を真っ赤にして何かつぶやいていたが僕にはそれは分からなかった。
「?」
結局その後も2人は何のことを言っているのか答えてはくれなかった。これって仲間はずれじゃないかな?
ただ、その後は先ほどのことがなかったかのようにどうでもいいおしゃべりをした。おしゃべりをして帰った。僕達3人の家はラノベなのか漫画なのか分からないが隣り合っている。うちの北隣の家は未来の家であり、南隣の家は健の家である。ものすごい奇跡というかいたずらである。だから、帰ることになれば必然的に家の玄関までは帰ることとなる。
もちろん、久々に3人で変えるのであるから素直に家に帰ることはしない。家の目の前には小さな公園がある。本当に小さな公園である。ブランコと水道とベンチしかない小さな公園だ。昔はよく、そこで遊んだものだった。
「はぁ~」
この年で公園で遊ぶなんてもうないと思っていた。そして、健と未来とも一緒に遊ぶとは思ってもいなかった。
それなのに2人のすごさに圧倒されて公園でもついため息が出てしまう。公園に来たら純粋に何も考えずに騒いでいた昔の自分がとても恋しい。
「また、ため息かよ」
健が言う。
「本当だよ。幸せどっかに飛んで行っちゃうよ」
未来も続けて言う。
しかし、未来の言うことには同感だ。幸せが逃げて行っちゃうかもしれない。迷信だが、結構僕はこういうのを信じるんだ。といっても、占いは信じないが……いや、星座占いの1位と12位は信じるか。……何てどうでもいいや。占いから関係あるが今はどうでもいいことを考えてしまった。
「まぁ、ため息をついたのは悪かった。やっぱり、いろいろと考えちゃうんだよな」
「和之。お前は少し自分に対して自信がなさすぎじゃないか? もっと自分に自信を持てよ。なぁあ、未来もそう思うよな?」
「ええ、私も健の言うとおりだと思うよ。和之はもっと自分に自信を持っていいと思うよ」
健と未来が僕に対してアドバイスを言ってくる。僕に対してはうれしいことだが、ただ人間そんな簡単にポジティブになることはできない。もっと自分に自信をといきなり言われたことで変わるのは難しい。そう難しいのだ。自分でもこういうことにはネガティブさを感じているのでそこのとこの自覚はおそらく健や未来以上だ。
「……自信か」
僕は呟く。
僕はとりあえず自信をつけるように振る舞おうと2人に見せる。空元気? 少し意味は違うかもしれないが多分今の僕はそれに当たるだろう。
「「……」」
あれ? 2人を不安にさせないために呟いたはずなのになぜか2人は黙ってしまった。おかしいな。何がダメだったのだろうか? 僕には理解できない。やっぱり空元気であったのがばれていたのかな。僕は急に不安になった。
「あの~2人とも? どうかしたの?」
僕はおそるおそる2人に尋ねてみる。2人は僕の話をまったく聞いていないのか無反応であった。返事がないただの○○のようだというネタが思い浮かんだが口には出さない。
「健! 未来!」
僕が怒鳴って2人の名前を呼ぶと2人は急にハッとしたかのように我に返った。怒鳴らなければ2人の意識はこっちの世界に帰ってくることはなかっただろう。
「ああ、和之。どうした?」
「ええ、そんな怒鳴って」
健、未来の順に僕に答える。完全に僕が怒っているわけが分からないようだ。僕はその言葉を聞いて完全に僕自身がさっき言った言葉をスルーされていたことを察する。僕の話ってそんなにどうでもよかったことなのと傷ついた。けれども2人の様子を見て何だかそれとは違う感じがした。
あと、何かやけに夕方なのに明るい気がする。あっ、それは今関係ない話か。
「2人が人の話を聞いていないでずっと黙っているからでしょ。どうかしたの?」
僕は2人に問い返す。
ただ、2人は何か言いたそうであったが何も言わずにいた。しかし、2人はお互いの顔を確認してから何も言わなかった代わりに僕の方を指で指した。
僕はその指が自分に向けられているものと最初は思ったがすぐに違うということに気が付いた。では、何を2人は指しているのか。僕は2人の指が指しているだろう後ろの方を振り向いた。
「えっ!? これは……」
そこで僕が、僕達が見たものは────