第19話 ギルド、会社
翌日。
俺は盗賊団にあやとりで商売をしようと提案してみた。
ハイールは最初困惑していた。俺なんかが商売をやって成功できるか。ハイールは弱気だった。他の盗賊たちも弱気だった。それもそうだ。この盗賊団はいわゆる落ちこぼれの連中が集まってできたものだ。ドロップアウトした連中が自分たちの居場所を作るために集まっただけだ。それだけに劣等生という認識を本人たちはほかの誰もよりもしている。いきなりこういったことをしようと言ってもうまくいくわけないとか、成功しないとか思うだろう。
こういった自信のない人たちをどうやれば自信を持たせることができるのだろうか。親父が教員だったからそういったことをしっかりと聞いておくべきだったな。
「ハイール、俺の提案に乗ってくれないか? 大丈夫だ。俺も一緒にやる。俺は確信したんだ。お前らがあやとりにはまっているのを見てこれは絶対に流行するって。大丈夫だ。もし成功したら、俺は一部売上金をもらうがそのあとは全部ハイールたちの自由だ。何なら、会社でも作るか?」
「お、おい、カズユキ。カイシャって何だ?」
「あっ!?」
俺は、今ハイールたちを説得しようと思っていた言葉の中で使わない方が良かった言葉があると、ハイールのその言葉を聞いて思った。会社。そう言えば、この言葉が生まれるのは俺達の世界でも産業革命以後の近代だ。この世界は近代以前中世社会そのものだ。中世社会において会社に当たるのは商業者組合といったところか。そのあたりのことをすっかり忘れていた。
「ギルドならわかるか?」
「ああ、ギルドはわかるが……ギルドっていろいろと許可が必要なんじゃないのか?」
許可。そのあたりの細かいところまではさすがに知らない。そもそも俺はこの世界のルールについて詳しくはないのだから。だが、あやとりというのはこの世界にはないものだ。ハイールはこんなの初めてだと言っていた。ハイールが落ちこぼれでもし世間知らずだとしてもほかにも何人か盗賊がいる。こいつら全員が全く知らないということはないだろう。あやとりの専売的特権ならいけるかもしれない。
「許可はどうかわからんが、あやとりというのは俺が編み出したものだ。特権的なものとして今まで誰もやったことがないのだからギルドの設立も許されるだろう」
「そうなのか?」
「ああ。どうにかしてみる。だから、やってみようぜっ」
俺は畳み掛けるようにハイールに迫る。ここぞというところで押せばどうにか折れてくれるはずだ。さあ、もっとだ。もっと畳み掛ける。
「いける。どうにかするからな、なあ?」
「そうとは言ってもなあ」
ハイールは未だに悩んでいた。仕方ない。俺は手段を変える。
「ザク。ちょっといいか?」
俺は近くにいた盗賊の下っ端ザクを呼びかける。ザクは俺が捕まった時に逃げないように最初に監視役をした人物でありかつ最初にあやとりを教えのめりこんだ奴だ。
「なんだい、カズユキ?」
「ザク、ちょっといい商売話があるんだけど乗らないか?」
「商売話?」
俺はザクを誘う。ハイールがダメならザクに頼む。ザクならきっとこの案に載ってくれるはずだ。すると、俺がザクに頼み込んだことに危機感を抱いた男が動いた。
「ま、待ってくれカズユキ。やっぱり俺がやる。俺はその案に乗るぞ」
部下のザクに持って行かれてもしも成功したら自分がボスとしての威厳を持てなくなってしまう。きっとハイールの頭の中では今そんなことが考えられたのだろう。
「いや、いいんだって。無理して俺の話を聞かなくても。だって、さっき断っただろ」
俺は、ハイールを突き放すように言う。ハイールは俺の言葉を聞いて顔から汗が尋常じゃないぐらい出てきた。俺の話に乗っておけばよかった。今になって後悔したのだろう。まあ、俺も新しく変なものについてはいきなりやれと言われてもまず疑う。だから、ハイールの考えもわからんでもない。よく考えて悩んだのだろう。で、俺が今無理やり答えをすぐに出してもらうために焦らせた。それだけの話だ。
「や、やっぱりさ。考え直したらちょっと興味を持った。だから、俺にやらせてくれ、カズユキ」
俺はハイールのその言葉を聞いてニヤリと笑みを漏らした。いやぁ、ハイール。俺の思うように言ってよかった。案外あんたも簡単な奴だな。
「わかった。ありがとな。ハイール」
俺は心の中でハイールのことを簡単な奴だと思ったことを顔に出さず、ハイールをいい気分にさせる。こういう奴は、調子に乗らせておいた方がいいからな。ハイールは俺から感謝の言葉をもらって喜んでいる。俺はそんなハイールの滑稽な姿を見てまた笑みを漏らした。
俺は、その後会社の仕組みについて教えた。ギルドを創設するよりも新たに会社というものを作った方がいいと思った。この世界に新たなものを作る。何だか燃えるような展開だ。だが、俺はこの作業を純粋に楽しんでいるだけではない。これが、復讐の、未来を取り戻す第一歩になるんだ。何としてもあのくそ国王を倒すためにはお金が力が必要なんだ。
だから、悪いがハイール。お前は俺の復習のために駒になってもらうぜ。
俺は内心そんなことを考えながらも会社についての仕組みをハイールや盗賊のしったぱらに教えていたのだった。




