表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/90

第18話 紐

 売られる。

 俺はどうやら盗賊に捕まった理由は俺を人身売買することが目的のようだ。

 しかも話を聞く限りホモの貴族がいるようだ。それだけは嫌だ。

 売られたくない。売られるということは奴隷と同等だろう。奴隷としてホモ貴族に売られたとき何をするかとなると……うぷぅ、考えたくない。

 何とかして売られないように考えないと。


 「あ、あのお」


 俺はおとなしめに声を発した。


 「何だ小僧」


 その声に反応した盗賊の下っ端が俺に返事する。

 小僧と俺は言われたが、見た感じ年はそれほど変わらないはずだ。ただ、盗賊の下っ端が俺のことを小僧と呼んだのは俺が日本人であることに関係しているのではないかと思った。何せ、童顔、低身長が日本人だ。俺と等族の下っ端にはおおよそ10センチ以上の身長差があったのだから、間違えても仕方ないのかもしれない。

 じゃない。そんな話がしたいのではない。

 俺は自分が奴隷として売られないように何とかしてでも説得をしなくてはいけないのだ。でも、説得とは何だ。

 俺は生きたい。いや、売られるだけならまだ死ぬ可能性はないだろう。むしろここで無駄な反抗をした方が殺されてそれこそおしまいだ。ここは素直にこいつらの言うことに従った方がいいのか。でも、そんな余裕はないのかもしれない。

 いや、待てよ。

 俺の目的はあのくそ国王に復讐をすることだ。だから、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。


 「いえ、何でもありません」


 俺は従うことにした。

 殺されそうになるかもしれないが、まずは俺を奴隷として売る方がこの盗賊にとって一番有利なことになるだろう。だから、奴隷になっても下から這い上がって見せる。俺は決めた。


 ◇◇◇

 それから数日。

 俺は盗賊に何かされるということは特にはされなかった。ただ、奴隷のように働かされるということもなかった。

 俺は、この数日の間何をしていたかというと……


 「お前、すげえな」


 「よく、こんな遊びを思いついたな」


 「これがあやとり、か」


 俺は、捕まっている間暇だったので近くにたまたま落ちていた紐でいろんなものを作っていた。死んだおばあちゃんに昔教わったあやとりの技を今も覚えていたので、それをして遊んでいた。そして、偶然俺の行動を見ていた盗賊の下っ端が興味を持って俺にも教えてくれと言ってきた。俺は、とりあえずむげにはせずどうせ捕まっているんだしいいやと思って教えた。そして、他の奴も教えてくれと言ってきた。瞬く間に盗賊団の間にあやとりが流行した。

 挙句の果てに盗賊団の中で誰が一番うまいのか競い合うことまで始まった。こいつらこれでいいのか……本当にそう思ってしまう。


 「カズユキ、元気か」


 低い声がした。

 俺の名前を呼んだのは盗賊団のボスだった。


 「ああ、元気だが……」


 「では、さっそく今日も教えてくれないか。あやとりの技を」


 盗賊団は知らないうちに俺のもののようになっていた。なぜなら盗賊のボスまでもがあやとりにはまってしまい俺に教えをこいでいるからだ。俺は、それでいいのかと言ったが、盗賊のボス─いや、ちゃんとした名前を聞いてしまったのでここからはハイールと呼ぶが、ハイールはもう盗賊なんてやめた。カズユキを売らないから俺達にずっとあやとりを教えてくれと言いだしてきた。

 なぜだか知らんがあやとり一つで俺は盗賊団を一つ壊してしまったようだ。どうしてこうなった……本当に分からん。わからんぞ。


 「まあ、いいが……」


 俺はハイールにあやとりの技を教える。いや、いいのかこれで? 盗賊ボスには自分に威厳というものがないのか?

 ここ数日、俺は捕まった時とは違うことで悩むようになってしまった。しかし、これで命が奪われる危機はなくなったと思う。さて、俺はここからどうやって生き延びようか。

 一つ考えがある。

 ここから脱出するための案だ。

 ここ数日盗賊かれらの様子を見ていてわかったことがあるがそんなに悪い奴らじゃない。あやとりの技を教えているときに彼らにいろいろと盗賊団のことを教えてもらったが、実はできたのはつい最近のことだそうだ。なので、人を誘拐したのも俺が初めて俺を売ろうとしていたもののその手の商人に知り合いがいないためどうすればいいのか悩んでいたそうだ。それに、ハイールは行き場がなくなった若者を盗賊団に入れていっているようだ。その点で考えるとハイールはなんだかんだ言って見た目から嫌われていただけでいい奴のようだ。誰かに評価されなかったからぐれてしまったのだろう。

 さて、俺はある案がある。

 その案とは、あやとりを使ったものだ。

 ここまであやとりがこの盗賊団の中で流行するとは想定外であったが、この際これをうまく利用させてもらうことにする。それに、利用と言ったがそれは俺が今後生活していくうえで金銭も必要なのでその経費をためるためという意味だ。

 まだ、盗賊団のそばを離れる気はない。最初はすぐに離れたいと思っていたが、本当に盗賊かれらと接しているうちに親しみを覚えてしまったのかな。全く、俺も糞国王に復讐をすると誓ったくせにまだまだ鬼になりきれていない。甘い面がまだある。俺の人間性と言ってしまってはおしまいだが、もう少し覚悟を決めた以上やっていきたいと思っていたのにな。

 さて、本題の案についてだ。

 俺は考えていたことがある。あやとりはこの世界にはないみたいだ。そして、ここの盗賊はあやとりにはまった。つまりはこれをいろんな場所で大道芸の様に披露をすれば多少なりとも鐘稼ぎになるのではないか。あとは、あやとり用の紐とか言って紐を作って売れば商売になるんじゃないか。盗賊団かれらにとっても金が手に入るのは悪いことではないはずだ。これを俺の案として提案してみよう。

 ただ、今日はもう遅い。

 洞窟の中にいて時間間隔がなくなってしまっているが、疲れているのは確かだからもうだいぶ時間が経ち夜になっているはずだ。今日はもう寝よう。

 そして、明日提案することにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ