第16話 森を超える
さて、アキナへと向かっている俺であったが、アキナはコスモ王国の隣国でありそれほどの距離がないと思っていた。しかし、正直言ってなめていた。意外とコスモ王国の国土が大きかったのだ。どれぐらいの距離を歩かなくてはいけなかったのかというと、わかりやすい例だとうーん、あれだな。東海道新幹線の東京駅から名古屋駅ぐらいまでの距離だ。そんな距離をずっと乗り物を使わずに歩きのみで行くのだからかなり時間がかかる。
そして、現在。歩き始めて早1日。昨日は寝る間も惜しんで歩き続けた。おかげで今はもうくたくたであり、俺は道の近くにあった大きな木の幹に体を押し付けていた。
「はぁ、疲れたぁー」
復讐心だけが俺の持ち味となりつつあったが、以外にも王城離れてからその心は若干は安らいだ気がする。でも、未来を助けたいという気持ちに嘘偽りはない。だから、若干は安らいだとしても消え失せることはないと思う。
その復讐の成功のためにも、俺はアキナに向かわないといけない。
ただ、もう日は暮れ始めた。昨日は道なりに道の真ん中をひたすら歩けばどうにかなるだろうと思い暗い夜道を歩き続けた。明かり? そんなものあるわけない。盗賊の心配があったが、逆に暗かったせいか盗賊に気づかれずに歩き続けて昨夜はどうにかなった。しかし、今夜はどうにかなるかわからない。それにもう俺は限界だ。
盗賊をすぐに見つけるだけの集中力がない。それは、昨日寝ていなかった寝不足のせいだ。きちんと寝ればよかった。今となってはそう思うが、時すでに遅しだ。
さて、どうしたものか。
俺は、よれよれとなっているがとりあえずはまだ森の中にいるので早く森を脱出したいと思い今日だけはもう1日の我慢だと思い寝る間も惜しんで歩くことにする。
森は暗くなってきた。
昨日もそうだが、夜の森というのは本当に不気味だと思う。
手持ちには何もない。本当に何もない。
城の中で剣を振るう練習を散々とメリー教官、いやもう教官という経緯をつける必要もないか。それはいいとして、してきたのだが肝心の剣がない。だから、練習をしてきた無駄だ。もっと魔法とかが使えればよかったというのに……まあ、今更後悔したところで遅いんだけどな。
「どうにかこの森を今日中には越えたいんだけどな」
森はもう完全に暗くなった。
俺の視界は真っ暗だった。
森の夜とは完全に闇と言ってもいい。
森の夜にいると復讐心が再び燃え盛る気がなぜかする。人の心の闇というのは実際の状況が闇的な場所だと増強するものなのだろうか。俺は、哲学や心理学についてやってきたことがないのでそのあたりのことは知らないが、たぶんそんな効果があるのだろう。
俺は森を超えようと歩くペースを徐々に徐々に上げていく。
はあ、こんな不気味な場所をどうして歩いているのだろうか。本来の俺は今頃はまだ高校生として学校で勉強して帰宅部の部員として一秒でも早く家に帰省してそして、部屋でラノベをひたすら読んでいる。そんな生活を送っていたはずだというのにどうしてこんな森の中でまるでサバイバルのような生活をしなくてはいけなくなったんだ。いや、サバイバルというよりは江戸時代の飛脚というイメージの方が俺としては好きだ。あの距離をものすごい早くペースで歩き連絡を江戸と京・大坂間でしたのだからすごいと思う。
つまり、俺は飛脚なんだ。そう飛脚……のわけはない。
あまりにしんどすぎて変なことを考えるぐらいまで俺の頭は追い詰められているようだ。これもそれもすべてはあの糞国王のせいだ。
絶対に、ぜえーったいに復讐してやるんだから。
復讐してやる。
俺は復讐することだけ考えて歩き続けた。
「はぁはぁはぁ」
しかし、森が広い。なかなかこの森を脱出することができなさそうにない。やはりここはどこかで野宿をした方がいいのだろうか。
俺の脚はもうがたがたと震えていた。筋肉痛になる痛みだ。これ以上歩いたところでどうにもならないと俺はもう判断した。
近くに大きな木があった。木の真ん中は不思議な空洞になっていた。おそらく雨とかが降ったらこういった場所で雨宿りができるのだろうと思ったが、今は雨宿りではなく俺の今日の寝床として活用させてもらうことにした。
木に近づき中を恐る恐る見てみる。もしかしたら、モンスターとかがいるかもしれない。ただ、まだこの世界で魔王がいないことを知ったのだが、魔族がいないとかモンスターがいないとかいった情報を入手してはいないのでわからないが、一応もしもいたとしたときの対処のためにもこういったいそうな場所でしっかりと確認をしておくことにする。
「それにしても、自然にこれはできたのだろうか?」
大きな木の不思議なくぼみというよりも穴。自然に作られたとしたらそれは自然の奇跡としかいいようがないが何だか人為的に誰かが作ったような気がするのも否めない。
でも、変なことを考えても仕方がない。
俺はその木のくぼみの中で木に野垂れかかるようにして寝ることにした。
本当に疲れていたのですぐさま寝てしまった。
「ぐぅ、ぐぅー」
俺は睡魔に襲われてしまったのだった──