第12話 悲劇
これより本格的に連載を再開します。
運命の日。残酷の日。僕達の真の意味での戦いが始まった日。
のちのち僕達がそう呼ぶ日がついに訪れた。ただ、このころの僕にはそれほどの緊張感も危機感もなかった。完全に甘かった。何が甘かったのか。それについて話していきたいと思う。
◇◇◇
僕はいつも通り起きた。
いつも通り起きてそして、ミリー教官の指導受けに城の庭へと向かう。庭には朝早かったのか誰もいなかった。小鳥のさえずりが静かな城に鳴り響いていた。
ちょっと、不気味に感じてしまった。ただ、僕の気のせいだろう。いつも朝はこんな感じであった。そんな気がしていたので特に気にするようなこともなかった。
庭でしばらく1人素振りをする。1回、2回、3回……といつもと同じだけの数素振りをする。いつもであればミリー教官が来てもおかしくはない時間を過ぎていたが、今日はいつまで待ってもミリー教官が来なかった。
どうしたのだろうか。
ちょっと疑問に思ったが、たまにはこんな日もあるだろう。僕は自分の中で勝手に完結させた。ミリー教官だって人だ。たまには寝坊もするだろうし、風邪をひいたりして休んだりするのかもしれない。そう、今日がたまたまその日なのだ。僕はそう片づけた。
僕は一人黙々と再び素振りをする。そして、何分ぐらい素振りをしたのだろうか。僕の体は素振りをいっぱいしたため汗がたくさん出ていた。このままでは気持ち悪いのでシャワーでも浴びることにしようと思う。
「あっ、シャワーなんてなかったんだ」
つい元の世界の基準で考えてしまう。こんな異世界にシャワーなんていう現代文明の利器なんか存在するわけない。井戸まで行ってくそ冷たい水を桶に入れて水浴びをするだけだ。なんて、古い。よく時代劇とかで水をかぶっているシーンを見たりするがまさにそれだ。
実際に水浴びをしてみるとこれがまた冷たい。この国に四季はないみたいでずっと春先ぐらいの暖かさの日が続いている。春先ぐらいというのはやはりまだ寒い。なので、水なんて浴びると風邪をひきそうになるけど、自身の衛生状況を保つためにはそれを無理して水浴びをしないといけない。
「寒いいいい」
震えながら水浴びをする。
水浴びをさっさと終わらせて着替えて自分の部屋へと戻る。
先ほどからやはり変だ。
そこで僕は今日がやはり異常な日だと気づく。
今日一日ずっと動いているのに誰とも合わない。王城の中には多くの役人が働いている。魔術師や剣士はたまた一般の官僚と多くの人がいるはずだ。朝早くに起きても官僚は寝ていないのか眠たそうにしながら重たそうな本を持って歩いている光景を毎日のように見てきた。しかし、そんな光景が今日はない。今日は偶然昨日残業がなかったのだろうか。いや、それはおかしい。ずっと続いていた光景が突如として終わるなんてない。それに官僚以外の人も王城内で会っていない。
一体何があったのだろうか。
僕は部屋に戻る。
部屋の中には誰もいなかった。
未来も健もいなかった。
「おかしいな?」
どうして2人もいないのだろうか。
も、もしかしてこれは集団神隠し? だって、人が消えたとなればそれしか考えられないだろう。超常現象なんてないとか言われてしまうだろうが、すでに勇者召喚によって異世界召喚された以上超常現象を嘘とは言えない人間だ。だから、この説はまかり通る。
みんな消えてしまったと思うべきか。
僕は、そう思いかすかな希望を抱いて王がいる間に向かう。なぜだかあそこならいるような気がしたのだ。
そして、僕の予感は当たった。
広間には多くの人がいた。それは、王はもちろん、王城内の臣下やメイド、手下などすべての人が集まっていた。何事かと思った。
僕は、大勢いる人たちの間をかき分けるように進んでいく。デブな貴族や胸がでかい貴族の女性やら本当に貴族が邪魔であった。あれだぞ。胸がでかい貴族の女性なんて興味ないからな。僕にはちゃんと彼女がいるんだから。
って、誰に向かって言い訳をしてるんだ。
僕はごちゃごちゃとした中をかき分けていく。そして、一番前にたどり着く。一番前というのは貴族どもが見物していた最前列ということだ。この大ごみの中最前列では果たして何がなされているのだろうか。
僕は一番前にまで行きその光景を見て驚愕する。
「えっ!?」
その光景を見て驚いた。
僕が何を見たかについては……後々考えれば思い出したくもない。しかし、思い出さなければ僕が僕たる理由が分からなくなってしまう。この時の復讐の心がなければ意味がない。
本当ならばこれが悪夢だったらよかった。これがすべて夢だったらよかった。しかし、現実はとても非常である。どうしてこんなことがまかり通るのだろうか。
では、語るとしよう。僕が何について絶望したのか。僕と健とそして未来の3人の身にいったい何があったのかを。
僕が見たものそれは健が倒れている姿であった。健が倒れている。この言い方をしただけであれば健がただ転んで倒れていたのかもしれないし、食い倒れていたのかもしれない。そういった甘いような考えが残っていたのかもしれない。しかし、ある言葉を加えることによって状況は大きく変わる。健は体からとりわけ頭から血を流していた。血。赤い液体。健は血を流していたのだ。健が流していた血はどういった経緯で流れたのか。僕は現場を直接見ていない。そのため詳しくというか語ることができない。しかし、状況証拠というものがある。
健が倒れている場所の目の前に立っていたのは1人の男であった。男は手に剣を握っていた。剣先には明らかに赤い液体が付いていてぽつんぽつんと床に向かって垂れていた。赤い液体。これを見た瞬間に僕は察した。あれは血だ。健の血だ。
健はあの男によってやられたんだ。
あの男──国王の手によって。
わざわざ僕達を勇者召喚によって呼んだ国王の手によって健はやられたんだ。
僕は叫んでいた。
「この国王がああああああああああああ!」
叫んで国王に近づいて行ったのだった──