第1話 ありふれた日常
新作です。3話までが日常編となります。
2016年11月10日各話タイトルを変更しました。
「僕はこの腐った世界を変えてやる」
そう高らかに宣言した。この宣言は後に人類の間ではこう呼ばれるようになる。革命の灯と。
僕はこの宣言の元世界を変えてきた。そしてこれからも変えようとする。この腐った世界を変えることができるなら何だってやってやる。僕にはそれだけの覚悟がある。やるんだ、絶対にやるんだ。それがこの腐った世界の救われるただ1つしかない方法……
世界は公平ではない。これがこの腐った世界の現状だ。学校の教師は平等が大事とか言う。しかし、この世界には平等なんかものは存在しえない。
有史以来世界とは持つ者によって支配されてきた。持つ者と持たざる者。この2つには相容れないものが存在していた。
例えばだ。例えば身近なことから考えてみよう。
学校生活において持つ者と持たざる者の間には大きな隔たりが存在する。
運動の才能がある者とない者。運動の才能があるものは体育において全くやったことのないスポーツですらいとも簡単にできるようになる。そして、成績の5をかっさらい、ない者をあざ笑う。
勉強の才能がある者とない者。授業中の先生の話を聞いただけで全てを覚えてしまうやつ。ない者は必死に努力しても点が取れない。
これは、身近なところ以外にもある。
世界では富を持つ者と持たない者。軍事力を持つ者と持たない者。
国内では議席を持つ者と持たない者。社会的地位を持つ者と持たない者。
これらを並べてみてやはり世界には平等なんかないんだ。
天才と凡人。持つ者と持たざる者を区別するのにこれほどいい言葉はないと思う。昔の偉人は言った。
天才とは99パーセントの努力と1パーセントのひらめきだと。
しかし、この言葉をよく考えてみる。この言葉が意味していることはいくら凡人が努力したところで天才にはなれないということではないか。やはり、天才と凡人との間には埋め難い差がある。
だから、僕はこの腐った世界を変えるんだ……
「おい、高原。何をしている」
「せ、先生」
「おいおい、授業中にそんな中二病まるだしな小説を書いていいのかな。今は私の日本史の時間だぞ。とりあえず、この問題を答えてみろ」
先生はそう言うと黒板に問題を大きく白チョークで書いた。
応仁の乱の西軍大将の名前は?
「わ、分かりません」
バン
「いってぇ~」
アハハハハ
周囲からは笑い声が聞こえる。それは僕が山野先生(女性本人曰く29歳14か月独身)に出席簿で頭を思いっ切り殴られたからだ。
痛かった。そして、これは体罰だ。訴えてやる。後で、教育委員会やらPTAに訴えてやる。
いや、でもそれ以前に僕が授業をしっかり聞いていなかったことが問題だから訴えても負けるか。
「授業ぐらいちゃんと聞きなさい。そもそも高原君は日本史ができるのに、どうしてこんな簡単な問題にも答えられないのですか」
「は、はい」
僕は山野先生に怒られさらに、放課後に職員室に来なさいとまで言われてしまった。たかだか、授業中に小説を書いていたぐらいでどうしてこうなるんだ。ちなみに冒頭のあの文章は僕が書いている小説の序盤の文だ。まだ、書き始めたばっかりだからあまり長くはない。続きを書きたかったがあいにくそのノートは山野先生に奪われてしまい仕方なく授業へと戻った。
応仁の乱とかどうでもいい……。室町幕府の将軍の権力が無くなったんだろう。そもそも大将誰だよ山名宗全って。あっ、答え分かってた。
そもそも僕は日本史が得意だ。日本史の模試は、毎回偏差値75越えだ。それなのに、応仁の乱の大将を間違えるなんて完全にぼけていたようにしか感じられない。
ちなみにどうでもいいが、応仁の乱の党軍側の大将の名前は細川勝元だ。これぐらい僕は日本史が得意だ。人間動揺すると何も浮かばないことがよくわかった。
キーンコーンカーンコーン
「今日の授業はここまで」
山野先生が授業をやめてクラスメイトは立ち上がり号令をかける。
「「「ありがとうございました」」」
号令の後、山野先生はさっさと教室を出て行こうとしたが教室の扉に手をかけたところで何かを思い出したかのように振り返った。
「ああ、そうだ。高原ちゃんと放課後こいよ」
そう一方的に言うと先生は職員室に戻っていった。ただ、最後に見たとき先生の目は来なかったら殺すとでも物語っていた。恐ろしくて行きたくもないでも、行かなければならない。憂鬱だ。
「はぁ~」
最悪だ。何でまた放課後に職員室なんかいう魔物の巣窟に行かなければならないんだ。あんな場所勇者でも行きたくはないわ。そして、僕のレベルがどれぐらいなのか分かるか? 分かるかああああああああ。嫌だああああ。行きたくない。
「おいおい、カズ。授業中に何してるんだ?」
「本当に馬鹿ね。授業ぐらいはちゃんと聞きなよ」
僕がショックのあまり現実逃避に走りかけているとそこに僕の幼馴染の男子、健と女子、未来の2人が僕の机の前にやってきた。2人はにやにやして僕を見てくる。そこまで面白かったかな。
さて、自己紹介をしたいと思う。
僕の名前は高原和之。あだ名は名前から取ってカズ。高校2年生だ。身長は165cmでこれは中学からずっと変わっていない。他もパッとみてもさえていないという印象が多分第一に出てくるだろう。つまりはどこにでもいる高校2年生、それが僕なのである。
一方、僕の机の周りにやってきた2人の幼馴染。
まず、僕を見てニヤニヤしている男の方が品田健。黒髪に眼鏡でいかにも真面目キャラという第一印象が浮かぶが中身はその外見を裏切りことなく学年トップの頭を持つ。特に数学なんかは全国で10位以内だそうだ。僕には真似することもできない化け物だ。
そして、もう1人の女の方が高橋未来。黒髪でその長い髪は後ろをポニーテールでまとめ上げている。顔もそこらの女子と比較しても劣ってはいない。胸もそこらの女子に比べて劣ってはいな──いや、劣っている。むしろ胸がない。これは本人も気にしているらしく前にうっかり口に出してしまった僕はその時の記憶がすっぽり抜けている。あの時いったい何があったのだろうか。恐ろしくて今更聞くこともできない。
というよりも誰に向かってこの自己紹介をしているのであろうか。
「何か変なこと考えていない?」
僕が未来の胸のことを考えていたことがばれたのであろうかめちゃくちゃ怒っていらっしゃる。これは大変だ。何とかしてごまかさなければならない。
「いや、変なことなんか考えていないよ。ただ、胸のことを……あっ」
うっかり口に出してしまった。僕は恐る恐る未来の顔を見てみる。未来の顔は笑顔であった。おっ、これなら助かった。
「歯を食いしばってね」
前言撤回。まったく助かってなどいなかった。むしろ死刑宣告であった。僕はゆっくりゆっくり未来から離れるべき後ろに椅子を下げていくが途中で健に腕をガツンと掴まれてしまった。何するんだ健。
「何するんだ!」
僕は健を非難する。健は僕の非難に対して笑顔で答えた。
「ちゃんと受け入れろ。この現実を……」
「嫌だあああああ」
昼休みの教室に僕の悲鳴だけが響き渡った。
──────────────────────
それから5時間目が始まるまでの記憶は僕の頭の中にはなかった。僕の席の周りのみんなが僕を憐れむかのような目をしてみてくる。一体僕の身に何があったのだろうか。当然ながらこの状況を作った未来や健をはじめ他のクラスメイトも教えてくれない。それは逆に怖かった。
僕はあまりの恐ろしさで机に顎をついて倒れていた。
「どうした高原?」
「いえ、何でもないです」
「なら授業をきちんと受けろ」
またまた先生に叱られてしまった。本当に今日は最悪だ。絶対に占いで最下位を取っている自信がある。クラスメイトはそんな僕を見て笑っている。ものすごく恥ずかしい。
その後は特に面白いことは起きずに放課後になった。放課後と言えば僕は呼ばれているのであった。正直職員室には行きたくはないが呼ばれている以上サボったりバッくれたら僕の学校内での先生からの評判が悪くなり留年やら退学やらさせられてしまうかもしれないので素直にここは行くこととする。自分でも自慢するわけではないが成績は学年の平均を毎回取るような人間なのだ。ここは行くしか僕には選択肢はない。
コンコン
僕は職員室のドアを軽くたたいて恐る恐る入っていく。目的地は山野先生の机だ。山野先生の机は職員室を入ってすぐ右側にあるので分かりやすくていい。
「先生。来ました」
僕は先生に声をかける。山野先生はどうやら明日の授業の用意をしていたらしく机の上には日本史の資料でいっぱいだった。
「ああ、来たか。そういえば呼んでいたな。で、呼ばれた理由はもちろん分かっているよな」
山野先生は俺の右肩に手を乗せる。怖い、怖い。そんな、近くで睨まなくても良いではないですかと言いたいが、あいにく今の僕にはそんなことを言う権利がないし山野先生の目が何も言うなと物語っている。だから、何も反論できない。
「分かってますよ。もう中二病は引退します」
「いや、分かっていないだろ」
はっ? 分かっていない。山野先生は何を言ってらっしゃるのだろうか。僕はきちんと中二病を引退すると宣言したではないか。それが呼ばれた理由じゃないのか、だとしたら何で呼ばれたんだ。
「じゃあ、何で呼ばれたんですか?」
「はぁ~。本当に高原は分かっていないのか。先生は残念だ」
いや、そんな深いため息をされて残念といわれても呼ばれた理由が分からないのは仕方ないじゃないか。ただ、先生の表情がマジだったのはさすがに驚いたのであったが。
「あ、あれですよね。そうあれです」
とりあえず僕は何か分かった的なことを言っておく。我ながらいい案だ。
「そうだな、あれだな。で、あれとは何だ高原?」
僕は答えられない。
おそるおそる山野先生を見てみる。すると、先生は笑顔であった。恐ろしいほどの笑みだった。俺の背中からはなぜだかわからないが冷や汗が流れていた。しかも、止まる気配が全くない。
「……」
「……」
しばらく無言の時間が過ぎた。その時間は1分だったかもしれないし5分だったのかもしれない。ただ、僕に言えることはその時間が限りなく長く感じられたということだ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴った。放課後にチャイムが鳴るのは4時50分と決まっているので知らないうちにそんな時間になっていたのだろう。
僕としては、早く家に帰りたい時間である。家に帰ってだらんと横になりたい。しかし、今の僕にはそんなことをできる立場というものがない。山野先生は依然として黙ったままだ。まったく、僕を解放してくれる気配はさらさらない。一体、いつまで職員室という名の魔物の巣窟にいなければならないのであろうか。
「……高原」
山野先生がようやく重くふさがった口を開いた。
「仕方ないから、今日のことは反省文20枚で許してやる」
「は、反省文20枚!? そ、そんなの無理ですよ!」
「あっ~」
ひぃ。
山野先生に文句を言ったらめちゃくちゃ怖かった。あの迫力は完全ヤクザのものであった。先生の過去はもしかして……じゃなくて、反省文20枚とか完全に無理難題だろ。今日のことは仕方ないってまったく許してくれていないじゃん。
しかし、異論反論はまったく受け入れてくれない雰囲気だ。いや、言ったら僕はおそらく死んでいるだろう。だから、もう諦めるしかないのか。
その日、おとなしく反省文用の原稿用紙25枚(なぜかサービスとか言われて5枚増えた)を山野先生から直接渡されて職員室から退出した。
職員室から出ると僕の目の前には健と未来が立っていた。