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色々分類に困ってしまいました、短編集達です

『混線』したその後のお話

作者: 茶屋ノ壽

Crosstalk <http://ncode.syosetu.com/n7702bt/> という作品の落ちを受けての作品です。単独でもお楽しみいただけます。

 むかしむかし、”ここ”とは違う、”今”とはちがう、どこかの世界でのお話です。


 王様がいました。彼の国は、他の国と戦争を開始しました。理由は、まあ、意見の相違やら、宗教の違いやら、国境線でのいさかいやら、過去の因縁やら、もろもろでしたが、つまるところ経済活動の一環でしょうか?

 そして、この王様の国は、まあ、なんというか、きれいに負け戦を重ねてしまいました。結果として、最後に残った、主城を敵さんに十重二十重と囲まれまして、そろそろ枕をならべて一族郎党討死かな?といった塩梅でございます。

 ここで、王様、起死回生の一手にでます。まあ、追い詰められてからの手ですから、これがまた、なんともあわただしく、ずさんで、間の抜けた、方策でして。

 その手とは、”勇者”と呼ばれる救世主を呼び出して、敵軍をなんとかしてもらおうという、他力本願の極みのような、手段にでたわけです。

 さて、と結論からいいますと、敵対する国の軍隊は、壊滅しました。

 でも、そのあとすぐに、王様のお城に、生きた人間はいなくなってしまいました。

 なにが彼の王国に起こったのか?

 それは、勇者を呼び出そうとして、間違えて?悪魔を召喚してしまった、ということだったのです。

 そして、その悪魔に、悪魔とは知らないで、願いごと、つまり敵軍の壊滅を依頼して、さらに、言葉尻をとらえられて、術式から、解放してしまったのです。

 その結果ですね、敵軍の壊滅の対価として、お城の住人を含めて、王様の国の国民の魂を数割、悪魔さんに持って行かれてしまった、という、まあ、なんとも悲劇的な喜劇でありました。

 なぜに、悪魔が召喚されたのか?術がいい加減だったから、ということもありますが、ちょうど同じタイミングで、別の場所、別の世界で、悪魔召喚の儀式をしていたおちゃめな集団がありまして、それらの、呼び出す術式が混線してしまったのというわけです。

 本来、勇者が呼ばれるはずの王城へは、悪魔さんが。悪魔さんが呼ばれる予定でした、怪しげな祭事場には、逆に勇者さんが、それぞれ、いれかわって出現してしまったということです。

 悪魔さんは、その手の知識がない召喚主の間抜けさを利用して、ぬれ手で粟のごとく、多くのもうけ(魂のことですね)を得てホクホク顔で万の魔が住む宮殿へと帰還したのでありました。


 では、一方の悪魔さんを呼び出そうとしていたお茶目な集団の前に、ぽんっとでてきてしまった、勇者さんは、いったいどのような顛末をたどったのでしょうか?

 というのが、これから語るお話です。


  ***


「つまりあなた様は、”悪魔”ではないのですね?」扇情的な衣装に身を包んだ女性が、目の前の光輝く鎧に身を包んだ女性に確認の問をします。

「そうです、とんでもない話です。私はいわゆる”勇者”という存在で、善か悪かといえば、善の、秩序か混沌かといえば、秩序に属する存在です」きっぱりはっきりと、答える鎧の女性です。ちなみにどちらも平均をはるかに超えた、美貌の持ち主です。方向性は少々違いますが。

「あー、たまにあるのですよ、自分は”悪魔”ではないので、と召喚主をだまして、魔法陣から解放されようとする手合いが」疑いの目を向けています。美人はどんな表情をしていてもいいですね。

「そんなんではありませんってば、ああもう、どういえば納得してくれるのでしょう?」心底困った、という表情の勇者さんです。眉間に皺を寄せていても美人さんですね。

「ほんとにに”悪魔”ではないと?ううん、術式に間違いはないはずなのですが、どこからの干渉でもあったのでしょうかね?」首をひねる召喚主の美女さんです。

「そもそも”悪魔”とはどのような存在なんでしょうか?、いえ、”怪物”として退治する対象としての、角があったり、蝙蝠の翼が生えていたり、全身毛むくじゃらであったりする姿、というのが、私の認識なんですけど?」勇者さんが基本的なところを訪ねてみます。

「”悪魔”とは、人の住んでいる世界とは違うところにいる、生物?のようなもので、”存在する力”が高い、個体群……といったところでしょうか?」召喚士が解説します。

「種族なんですか?」

「伝承によると、”唯一神”と呼ばれる存在が、人に試練を与えるために創造した、存在らしいですけど、まあ、出自はよくわかりません。そういった存在が、どこかにいて、一定の手順で呼び出すことができる、という認識ですね、召喚士としては」

「システムの一つということでしょうか?」

「まあ、舞台装置という意味では、人の存在とそれほど変わりがありませんが、そう言い切ると、存在とはなんぞや?という違ったレベルの議論になるでしょうね」軽く肩をすくめながら話す姿も色っぽいのです。

「そうですね、そういうお話も好きですけど。いまは”悪魔”の定義の話をしましょうか?そもそも、”悪魔”は何ができるのです?」勇者がたずねます。

「まあ、人が想像できることは、一通りできるみたいですね。つまり、よく昔話にあるような、典型的な”願いをかなえる悪魔”といったことですが。もっとも、かなり悪意によってねじまがった結果になることも多いようですが、あの方たち性格悪いですから」苦笑いとともに。

「ああ、人の欲望ですか。長生きしたい、とか、未来のことを知りたいとか、敵を呪い殺したいとか、宝物が欲しいとか、知識が欲しいとか、そんなおとぎ話のような願いをかなえるという存在なのですね」確認する勇者さんです。

「だいたいはそうですね、その種族的特性かどうかかまだ、サンプルが少ないのと、測定するためのセンサーの精度が足りないので、確定できないのですが、おそらく、因果律を制御できる能力があるのでは?とにらんでいるわけなのですよ、”悪魔”には」

「世界を、好きなように改変する力ですか、であるとすると、予知も、未来を見通すのではなくて、その場で未来を決定させていくようなイメージなんでしょうかね?」

「どうでしょうね?どこまで物語を改変する能力があるのかは、やはり不明ですが、その可能性もあるでしょうね。そもそも、普通の人であったとしても、その言動で多少は未来を制御できるわけですし、能力的に人より勝っている”悪魔”なら、もっと簡単に制御できそうではありますね」楽しそうに会話をする勇者さんと召喚士さんです。

「でも、未来を自由に変更できる存在が、人というまあ、矮小な存在にいいように呼び出されて、使役されているというのも矛盾があるような?」

「そこはそれ、なにか制約があるとみるべきでしょうね。存在そのものにかかわる、それがある?むしろそういう制約がないと、個として存在しえないとか?」

「その疑問をそれこそ、”悪魔”本人(?)に尋ねてはみないのですか?」

「過去にそういう質問はされたことがありましたね、答えは『そういう存在として、作られているから』という、なんというか思考停止したような答えでしたが」

「それでいいのか”悪魔”!」勇者さん、驚愕の表情ですね。

「まあ、その問いに答えた”悪魔”はあまり階位が高くないようでしたから、もっと上位の存在なら何かしら違った答えが返ってくるかもしれないですね。それにしても、どうしてあなたはあなたなのですか?という問いには、なかなか答えられないとは思いますわね」

「自身のことを探求しようとした”悪魔”はいないのでしょうかね?」

「どうでしょう?そもそも、こちらに顕現する以前に確固な存在としてとして、どこかにいるのかどうか?という基本的なところすら、未検証ですしねぇ」ちょっと、溜息をつく美人さんです。

「あー、いちおう、魔界?とかいうのはあるみたいですよ?そこで、”悪魔”っぽいなにかと戦ったことがありますし」ちょっとあやふやな表気になる勇者さんです。

「そうなんですか!それは興味深いですね。”勇者”って、多数の次元をわたりあるいたりしてるんですね」

「”勇者”って認めてくれるんですか?」ちょっと喜ぶ鎧の女性です。

「うーんどうですかね?自分のことを”勇者”と呼称する”悪魔”かもしれないと、まだ警戒していますね」まだ、悩んでいる召喚士さんです。

「いいかげんに、納得してほしいのですが」うんざりしている、”勇者”さんです。「ちなみに、”悪魔”であるかそうでないかはどうやって判断しているのですか?」続けて質問です。

「そうですね、本来は、決まった方式で呼び出された存在は、まあ、決まった存在ですので、あまり検証されたことはないのですが、過去に全くの一般人が呼び出された、という事例を聞いたことがあるような……」思い出そうとしている召喚士の人です。

「その方はどうなったのでしょう?」

「”悪魔”でないととんでもない目にあうような状況に放り込まれて、結果とんでもない目にあったので、ただの人認定されたとかいう話でしたが……うーん」頭をひねる召喚士さんです。

「今回、その手は無理かなー。だいたい、どんな状況でも乗り越えてみせるだけの、実力がありますから」さらりとのたまう”勇者”さんです。

「あとは、そうですね、こうやって、会話を重ねていって、見極めるのが常套手段ではあります」

「私がいうのもなんなんですが、”悪魔”が嫌いな物質とか、呪文とかないんですか?それらからの反応を見て、判断するとか?」

「そういう、術とか、物質とかもあるんですけどね。”悪魔”によっては全く効果がなかったという事例も報告されていまして、決定的な証拠とはならないのですよ」これまた肩をすくめる召喚士さんです。

「なんとかなりませんかね?」

「あー、致命傷を与えてみて、死亡が確認できたら”悪魔”ではないとか、はできるんですけど……」ちらりと、”勇者”さんの方を見ながら言います。

「魔女裁判ですか!意味ないでしょう!」すかさず突っ込む勇者さんです。

「あとは、生贄の羊、への対応とかみるのですけど……、紳士ですよねあなた」

「どちらかというと淑女の方ですが、まあ、獣の内臓まみれの裸の幼女を放置できませんからね……」

 召喚用の魔法陣の内側、祭壇に横たわらされていた、生贄の羊、裸の幼女さんは、”勇者”の魔法で血まみれの体を洗浄されて、”勇者”の持つ”無限に入る荷物袋”から出した服を一式着せられています。結構かわいい容姿なのですが、周囲に対する反応が皆無で、無表情に、勇者のそばに立っています。

「というか、いままでゆるく無視してきましたが、やはり生贄でしたか……」苦い表情の”勇者”さんです。

「そのとおりです。少し型落ちはしていますが、十分スペック的には満足できる一品ですよ、メフィスト社謹製の”悪魔”召喚用、最適化モデルです」淡々と説明する召喚士さんです。

「ええと、商品?」

「YES.一般的な悪魔召喚用に調整された、『生贄の羊(幼女9型_Ver.3.4.0)』ですね。魂魄ともに薄いですが、エネルギーは結構上物ですよ……食欲は増進されませんか?こう『たべちゃいたい』とか?」

「いやいやいや、私、ノーマルだし。そもそも幼女に欲情するの、”悪魔”って?」

「欲情というとなにか恥ずかしいですが、そうですね、性欲に近いのでは?魂の摂取というのは?」ちょっと顔を赤らめながら、召喚士のおねーさんが言います。

「はあ、私の知っている精神生命体に近いのでしょうかね?こうファントムとか?」

「うーん、こうエネルギーの性質が違うようですよ?そもそも精神力とかの定義もあいまいですしね」

「精神は、肉体に付随する性質というか、現象でしかない、という見解ですと、”心”をどうやって摂取するのかという問題がでるわけですか、ううむ」悩む”勇者”さん。

「”存在するためのエネルギー”がある、という仮定でまあ、いろいろ術式を作成していますし、精神活動、いわゆる”心”と”魂”は別というのが、昨今の通説らしいですが……」話題にのる召喚士さん。

「ああ、でも結局、私が”悪魔”ではないという証明にはならないですね」

「そうですね、話題としては面白いのですが……。ここは発想を変えましょう」

「というと?」

「わたしこと、召喚士は、とにかく目的があって”悪魔”をよびだしたのです。大事なのは、その目的を果たすことで、対象が”悪魔”であろうと”勇者”であろうとどうでもいいのです!ですので、まずは”貴女”が私の目的にそった能力があるかどうかを訊ねるべきでしょう!」

「えーと?ちなみにその”願い”を叶えたら私は解放されるわけですね?」

「そのような術式を組んでいますから、基本的なところは変わらないはずです」力強く宣言します。

「はあ(溜息です)それで、あなたの望みはなんですか?」

「最近彼が私に冷たくてですね……」

「それでいいのか!悪魔召喚士!」

「切実なんです!」

「自力でやりなさいよ……」

「あの女のせいよ……あの女さえ消してしまえば……」

「それ自力でやっちゃだめ!怖いな君!わかりましたよ、相談にのりますから!」ちょっと涙目の”勇者”ちゃんでありました。



 その後、ラブコメ的な紆余曲折ののち、”彼の浮気で怒り頂点!悪魔召喚でバッチリ解決と思ったら、勇者ちゃん登場なり!”事件も無事(?)に解決しました。

 そして、その後すぐに、”勇者”ちゃんも、彼女の”家”へと帰還いたしました。

 もっとも、彼女に帰還とともに、『生贄の羊』の幼女さんもついてきたりして、またひと騒動などあったりしたわけですが……。

  

 それらの顛末についてのお話は、また後の機会にいたしとうございます。

 




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