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三つの刃  作者: コロコロ
4/5

一の太刀 依頼

少し自信がないです・・・。

「はぁ、はぁ、はぁ。」


月が浮かぶ夜、男は汗を流しながら暗い路地裏を走っていた。時々背後を見ては、恐怖におののき顔が歪む。だが体力はそろそろ限界を感じていた。体もキズだらけで所々血が流れ出している。しばらく走っていると、目の前に壁が立ち塞がった。コンクリートで出来た壁は高く、超えられるような突起物がない。


「ち、畜生!!」


男は壁を殴って叫んだ。途端、足音が聞こえる。足音に反応して、男は振り返った。足音がだんだん近くなる。


やがて音が止まり、音の主が男の前で立ち止まった。


その者は若い男で、黒いコートを羽織り、前は開き、中から赤いシャツが見える。腰には漆黒の鞘を括り付けている。ズボンは特に装飾を付けてない黄土色の長ズボンだが、靴はあまり見慣れない黒いコンバットブーツだった。中でも目を引くのは漆黒のボサボサ髪から覗く、端整な顔立ち。女性なら誰もが見惚れそうな程しっかりした顔立ちだった。その顔は僅かな笑みを浮かべ、黒く鋭い瞳からは相手を射殺せそうな程の冷たい視線を放っていた。それだけならまだしも、指まで覆わず、手の甲を覆った黒いグローブを付けた左手に黒光りする拳銃というには大型の銃、『デザートイーグル.50AE』、そして同じグローブを付けた右手には月明かりを受けてギラリと輝く日本刀が握られていた。だがその刃から放たれるのは光だけでなく、どこか悪寒を感じさせる程の禍々しい気を感じさせた。


「ゲームオーバーって奴だな。」


若者が低い声で言う。男は奮え上がり、壁に背を付けても尚逃れようとした。


「く、来るな!」


そう叫ぶなり、男は懐からオートマチック型の拳銃を引き抜き、若者に向けて発砲する。銃弾は鋭い音をたてつつ、若者に向かって飛んでいく。若者は平然とした表情で刀の刃を眼前にかざす。


ギィンッ


刃に当った銃弾は二つに別れ、両脇にある壁に当る。


「う・・・うわぁぁぁ!!!」


男は我武者羅がむしゃらに銃弾を放つ。若者はそれらを表情一つ変えずに刀を振るって次々と弾く。やがて男の拳銃のスライドが後退したまま動かなくなる。弾切れだ。しかし無意味にも関わらず、男は引き金を引く。頭はすでに混乱状態で、リロードするのも忘れている。


「く、くそぉ!!」


男は少し冷静さを取り戻し、拳銃を投げ捨てると、予備の拳銃を引き抜く。


ヒュン


それより早く若者は接近し、刀を振り下ろす。一瞬の間、拳銃を持った男の右手がずり落ち、ゴトリと音を立てる。


「ぎゃああ!!俺のう、腕がぁ!!」


右腕から鮮血が吹き出し、残った左手で抑えながらたまらず膝をつく。


「ドンマイ・・・としか言い様がねぇな。」


若者はそれを見て落ち着いた声で言った。


「で?何か言い残す事はないか?」


どことなく面倒くさい表情で若者は尋ねた。


「こ・・・殺さないでくれ。頼む。何でもする。だからた、助けてくれ・・・。」


どこか弱弱しく言う男に対し、若者はため息をついた。


「ったく・・・大勢のガキんちょを殺しておいて、なぁにが殺さないでくれ、だ。過去数回、刑務所送りになっといて何でもするだぁ?」


どこか嘲りを込めた声で若者は男の額に銃口を向けた。


「そーゆーのは死神にでも言っとけ。」

「や・・・やめ・・・!!」


ドォンッ


一般的な拳銃では想像出来ない程の銃声が路地裏に鳴り響く。若者は銃を腰のホルスターにしまい、刀をビュンと振った。


「今日の仕事は終わりだぜ相棒。」


自らの愛刀に呟き、刀、『鬼正宗』を腰の鞘に収めた。そして空を仰ぎ、一息つく。


「今夜は満月、か・・・。」


辺りに血が飛び散り、目を見開いて壁にもたれかかっている遺体がある場にはあまり似つかわしくないセリフを呟き、若者は遺体に背を向けて歩き出した。







そしておもむろに一枚の紙切れを遺体に向けて投げつける。紙切れはヒラヒラと血溜まりの中に落ちていった。だんだんと紙は血に滲んでいく。







『殺し屋 地獄刃じごくじん 神無月 亮介』と書かれた名刺は、完全に血に染まって文字が消えた。








2010年、犯罪者が多く蔓延り、腐った政治家達が治める現代日本。犯罪者達は、強盗、恐喝、殺人果ては組織同士の抗争を日夜繰り広げ、堅気の者、すなわち表社会に生きる者達の生活を怯えさせた。政治家に関しては、あの手この手を駆使して権力を得ようとし、国民の事を考えている者はどく一握りの者しかいなかった。そんな世の裏社会には、様々な『殺し屋』、または『暗殺屋』がいる。犯罪者専門の殺し屋がいれば、政治家専門の殺し屋、さらにはその両方を受け持つ殺し屋もいる。そのような殺し屋はほんの僅かしかいない。殺し屋は依頼人の秘密を握ってしまう時が多く、逆に命を狙われるというのは少なくない。まして犯罪者と政治家、両方の依頼を受ければ、両方の秘密を握ってしまい、かなりの数を敵に回す事が多い。そのような事があるにも関わらず、殺し屋の中でも飛び抜けて腕が立つといわれ、さらには両方の依頼を受け持つ男の殺し屋がいた。名は『神無月 亮介』。若干26という若さで殺し屋『地獄刃』を営んでおり、今の世の中、日本刀を持った珍しい殺し屋という事で裏社会に名を知らしめている。本来なら名はコードネームで隠す事が多いが、彼は自らの本名を名乗っている。そのためかなり狙われやすいが、彼を狙う者はほとんどいない。理由は彼を狙うと四肢のうちどれか、または全てが消える、あるいは命までも無くなるという程の腕を持っているためであった。背後からの襲撃には一刀の元に切り伏せ、また遠くからの狙撃には驚くべき狙撃力による拳銃からの銃撃で逆に仕留める。そのため、彼に手を出すことは逆に己の生命に関わるという、裏社会での常識となった。







ただ彼の持つ刀が、信じられない程の妖力を持っているというのは、誰も知らない。







カラン コロン


「いらっしゃいって恭介じゃない。」


暗い路地裏にある少し古びた酒場、『DARKNES』の扉を開けると、カウンターから金髪の女性が半ばやる気無さ気に声をかけた。それを全く気にすることなく、恭介はカウンター席についた。


「京姉、いつもの。」

「・・・普通挨拶ぐらい返しなさいよ。」


少し不機嫌になりつつも、女性こと京姉、本名霧島京子は酒瓶がならぶ棚の横にある小さな冷蔵庫からビンを取り出し、恭介の前に置いた。ラベルには『リンゴ酢』とある。


「サンキュ。」


恭介はリンゴ酢のビンの蓋を取り、グイと飲んだ。


「アンタそれ好きねぇ?健康にでも気ぃ遣ってんの?」

「いや、単に好きなだけだ。そこら辺の酒より後味がいい。」

「あ、そ。」


何の取り柄もない会話だが、これがいつものコミュニケーション。恭介は一見クールだが、あまりしゃべらないという訳ではない。京子は、他の殺し屋がよく飲みにくるという酒場を一人で切り盛りしているため、肝が据わっている。でなければこんな仕事してはいない。


「そんでぇ?昨日は誰消したの?」


恭介がリンゴ酢のビンを置くと、京子が話しかけてきた。


「最近、少年少女惨殺事件ってのがあったろ?」

「ああ、あれね。」

「その犯人さ。」

「ふ〜ん、でも何で逮捕とかしないわけ?そうすれば事件解決でしょ?」

「今回の依頼主は警察のお偉いさんでな。あいつは過去数回、刑務所送りになっておいて、中ではいい子してたらしいが、刑務所から出るとまた同じ事の繰り返し。死刑間近になると刑務所の人間殺して脱獄。もう逮捕してもダメっぽいから消してくれ、だとよ。」

「アンタそうゆう依頼嫌いじゃなかったっけ?」

「いや、俺も最近はあの野郎が気に食わなくてしょうがなかったモンでね、いい機会さ。」


そう言いながらまたリンゴ酢のビンを口に傾ける。確かに恭介の腕ならば、巨大組織一つ丸々潰せるだろう。だが、その内容によっては、本人の気分で断るという、依頼したい者にしては迷惑なものだった。相手が権力欲しさに、ターゲットを殺すような依頼はキッパリお断り。多額の金を積まれても反応は同じである。逆に、暴虐の限りを尽くす権力者の殺害や、最愛の者の仇討ちといった、どこかの古臭い時代劇のような依頼なら受け持つという。この間、ある政治家を殺害するような依頼が電話で入ったが、それを恭介は断った。その政治家は今では珍しいとされる、国民のために奮闘するような政治家であり、間違いなく善良な人間であったからだった。彼と恭介は意外にも古い付き合いだからわかる。依頼主は大方、それを快く思わない同じ政治家だろう。そして今回の依頼は、殺人事件の犯人に暴力を振るわれ、その上殺された子供の家族が出せるだけの金を積まれて承諾したものだった。最も、金は半分もらったが、もう半分はこっそりその家族の銀行口座に振り込んで置いたらしい。それだけでも食料には困らないくらいだったから、路頭に迷うということはないだろう。


「まったく、アンタも相変わらずのお人よしね。」


京子に呆れるような声で言った。しかし本心は感心している。


「はっ。そんなもん気分だ気分。昔のヒーローアニメみたいな展開なんざまっぴら御免だ。」


そう言い、リンゴ酢を全て口に流し込む。


「もう一本。」

「はいよ。ところでさぁ、アンタいいの?」


京子は御代わりをカウンターに置きながら言った。


「何がだ。」

「アンタの彼女。」

「・・・。」


恭介は無言のままリンゴ酢を口に含んだ。


「あいつは引っ付き虫みたいなモンだ。彼女じゃねえさ。」

「へ〜、その割には仲良く見えるけど?」

「そう思っとけばいい。」

「はいはい。」


照れるような素振りなど全く見せず、ついでに軽く何か食おうと考えた時・・・。


「兄貴〜!!」


外から誰かが叫んだ。そして何か地響きみたいな揺れを感じた。


「・・・。」


恭介は素早くリンゴ酢の空きビンを引っ掴むと、背後の扉に投げつけた。同時にバン!と扉が開き、誰かが飛び込んできて・・・。


ゴンッ


「ごふっ。」


ビンはそいつの顔にクリティカルヒット。後ろ向きにバタリと倒れた。


「静かにしろって何回言えばわかる。」


呆れた口調でリンゴ酢を啜る。扉を開けた人物はムクリと起き上がって


「ダイビ〜ング!!」


と叫びながら恭介の背中に飛び掛ってきて・・・


「・・・。」


無言のままの恭介に頭を掴まれて入り口に投げ飛ばされた。そのまま外に飛び出して騒々しく物を破壊する。


「あ〜あ・・・。」


京子も思わず苦笑する。いつもの事で慣れたが、営業妨害の他ならない。


「・・・さて、眠いし帰るか。」


恭介は立ち上がってリンゴ酢の代金を支払い、入り口へと体を向けて・・・。


「あ〜にき〜♪」


茶髪でショートヘアーの少女が、恭介の腕に絡みついてきた。


「・・・。」


しがみ付いている腕をブンと振ると、少女は「ぶぎゃ!」と何とも間抜けな声を上げて床に叩きつけられた。


「じゃあな。」

「ええ、また明日。」


それに気を止めずに普通に別れを告げる二人・・・。


「ってちょっと待ったぁ!」


潰れたはずの少女がガバリと起き上がって外に出た亮介を追いかける。


「兄貴ぃ!いきなり人を床に叩きつけるなんて失礼ですよぉ!」

「あぁ、帰りにコンビニ寄ってリンゴ酢買わにゃあな。」

「って無視ですかぁ!?」


暗い夜道を歩きながらかしましく騒ぐ少女。


「ったく・・・今日は何だ?仲介屋。」

「だ〜か〜ら〜!あたしの事は凛ちゃんって呼んでくださいって何回も言ってるじゃないですかぁ!」

「刺すぞ?」

「ごめんなさい。」


亮介が軽く脅すとすぐに謝る仲介屋こと、中林 凛。見た目は可愛らしい少女だが、中身はれっきとした20代の大人の女性であり、殺し屋の仲介屋でもある。しかし精神年齢が見た目と同じような物であるがために、20代と思われた事がない。そして何故か亮介の事が気に入ってしまい、彼女が亮介に引っ付いているのを見かけた者は、兄妹か恋人と思われるらしい。いい迷惑である。


「そんで?」

「あ、はい。」


凛は懐をゴソゴソと漁って一枚の封筒を亮介に差し出した。


「?何だそりゃ?」

「お手紙だそうですよ?」

「手紙?依頼じゃねぇのか?」

「そう思ったんですけどねぇ・・・私も本人には直接会ってなくて・・・。」

「何?」

「この封筒、実は宅配で来たんです。でも差出人は不明だし、住所さえも書いてない。書いてあるのは、兄貴に渡してくれっていうのと兄貴以外誰も見るなっていうメッセージだけなんですよぉ。」」

「・・・。」


凛の間延びしたセリフを聞きつつ、恭介は怪訝な顔をした。確かに凛が言った通りのメッセージが亮介の名前の横に書いてある。今時手紙を送ってくる奴なんて珍しい。何だか理由が無いとは思えないような気がする。そう思いつつも封筒を開けて中身を覗く亮介。中には四つ折りになった紙切れが入っていた。


「こいつか・・・。」


恭介は古いガス灯の明りの下へ行って紙切れを開いた。


「・・・は?」


内容は「お元気ですか」とか最近の出来事等、あまりに普通過ぎる内容に、しかも特に気になる所がない事ばかり書いてあったので、亮介は唖然とした。


「兄貴?」


それを見て凛は首をかしげて亮介の顔を覗く。所々調べてみると、手紙の裏、白紙の部分に、薄いシミが付いていた。点のような物ではなく、細長い線のような物。


(・・・なるほど。)


思いついた顔をして、亮介はポケットからライターを取り出し、手紙の下にかざした。凛は訝しげな顔をしていたが、やがて納得した顔になった。ライターで下から紙を炙ると、文字が浮かんできた。


『突然の依頼、申し訳ありません。しかし私には時間がないのです。それにも関わらず、私は今外に出るどころか、電話さえ使えない状況なのです。この手紙も、閉じ込めている人間の手下が確認した上で出すようになっている為に、このような手の込んだ事をやらさせてもらいました。

して、依頼内容は、書く時間が制限されている為に今は書くことが出来ません。しかし、住所は記入しております。地図の通りに来て私に会いに来てください。その時に名乗ります。』


「これは・・・告白?」

「なぜそうなる。」


横から手紙を読んでいた凛の突拍子のない発言に、亮介はツッコむ。


「だって、会いに来てくださいなんて告白みたいなもんじゃないですかぁ。それにその時に名乗るって・・・。」

「お前の頭ん中にはメルヘンな世界でもあんのか?」

「むっ!そんな事ないです!ただ兄貴がヨソの女の所に行くのが気に喰わないだけです!」

「まだ女と決まったわけじゃあないだろうが・・・もぉいい。考えるのは明日にする。」

「じゃあ私も泊まりますぅ!」

「家帰れ。」

「ひ、一人は寂しいんですぅ!」

「じゃ実家に帰れ。」

「帰るお金無いですぅ。」

「友達ん家にでも行け。」

「私、友達いないですぅ・・・。」

「・・・勝手にしろ。」


結局、色々な意味で根負けした恭介はため息をついて歩き出した。その後を意気揚々と付いていく凛。暗い路地裏に月明かりで照らされた二人の影が長く伸びていった。


とゆーわけでやっと出せました『三つの刃』。今までネタ出しに時間かけ過ぎて遅れてもぉ大変ですわぁ(笑)。とりあえず頑張ります。

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