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雪のあと

作者: 久乃☆

とっても不思議な夢の話を聞き、書いてみようかなってことで、書いてみました。なんだか、かなりシリアスになってしまった^^;

 

 ここはどこだろう……。


 私は、真っ白な、目が痛くなるような世界に身をおいていた。

 ひたすらまっすぐに歩き続け、真っ白な世界に体が解けていくような錯覚さえし始めていた。

 ふと立ち止まり、あたりを見回しても一面が雪。それなのに、どういうわけか寒くない。

 全く寒さを感じないのだ。

 そればかりか、足元をみれば裸足で、コートすら着ていない。それでも、体は温かく踏み続けている雪の冷たさも伝わってこない。それどころか、温もりさえ感じる。


「一体、これは何だろう」


 雪だと思っている白い地面が、本当は違うものかもしれないと、私は手を下ろしてみた。

 しかし、触れた地面にあったものは紛れもない雪。


「どうして寒くないのだろう」


 また歩き出す。

 どこまでも、どこまでも歩き続ける。


 ところが、ある地点まで来たとき、不思議と足が進まなくなった。

 どんなに足を動かそうとしても、雪と一体になってしまったように、足が上がらなくなってしまったのだ。


 小さな焦りが私をとらえた。


 このままでは、この世界から抜け出せなくなる。


 必死にもがき、歩き出そうとした。もがけばもがくほど、体が重くなる。

 その時、一人の男性の姿が現れた。

 彼は優しく微笑み、私に話しかけてきた。


「大丈夫だよ。今は進めなくても、必ず進める日がくるから。焦らないで、必ず進めるから」


 優しい瞳と穏やかな話し声。

 私の心が解けていくのが分かる。


「あなたは誰?」

「大丈夫だよ。焦らないで、君は必ず進めるから」

「どうしてそんなことが分かるの?」

「だって、いつか必ず僕と出会わなくちゃならないからさ。その為に、君は進まなくちゃならない。今は苦しくても、必ず進める日が来るんだ」

「え? だって」


 何を聞こうとしたのか分からない。

 それでも、何かを言おうとしたその瞬間、彼は光がはじけるように消えていった。


 彼は一体なんだったのだろう。


 そんな思いにとらわれていたとき、小さな少女が現れた。

 少女の笑顔は、ひとつの曇りもなく、私に温かい光を与えてくれた。


「大丈夫。会えるよ」


 そう言って、私の手を握りニッコリと笑って消えた。

 次に現れたのが、幼い男の子だった。

 男の子は、私の周りをぐるぐると楽しそうに、つたないスキップをしながら回ると、少女と同じように言った。


「大丈夫、会えるよ。会えるよ」


 それだけ言うと、またしても何も声を掛けられないまま消えていった。


 彼らは私に何が言いたいのだろう。

『大丈夫、会える』

 この雪の世界で、私に何を伝えたかったのか……。


 いくら考えても分からないまま、私は途方にくれていた。

 できることなら、そんな言葉よりこの世界から抜け出る方法を教えて欲しかったというのが、本当のところだ。


「どうしよう……」


 そう呟いたとき、全身光輝く真っ白な馬が現れた。

 ゆっくりとゆっくりと私に近づいてくると、私の頭の中に呼びかけてきた。


(後ろをみてごらん)


 頭の中の声は、優しくそう言った。

 美しい馬に話しかけられ、人間の言葉であるにもかかわらず、それを不思議とも思わなかった私は、言われるままに振り返ってみた。


 まっすぐ歩いてきたはずの足跡は、曲がりくねりったり、行きつ戻りつを繰り返したり、立ち止まったり、大きく湾曲したりしていた。

 それは、決して『まっすぐ』などというものとはかけ離れていた。


(どうだい?)


「私はまっすぐ歩いてきたはずなのに」


(これがなんだか分かるかい?)


 私は言われるままに、じっと足跡を見つめた。

 すると、それがまるで自分の人生のように見えてきた。


「これは、私の人生……」


(どうしてそう思う?)


「だって……まるで、私の生きてきたのと同じ。私は辛くて逃げて、苦しくて立ち止まって、考えて考えて、考えることに疲れて、考えることを止めたり。何度も行ったりきたり、遠回りしたり。まるで、私の生き方そのもの」


(そうだね。これは、君の生きてきた道なんだよ)


「そうか。だから、進みたくても進めない。この先は私の未来なのね」


(そうだ。この先は、君の未来)


「でも、どうしてこの雪は冷たくないの?」


(この雪が冷たくないかい?)


「うん、冷たいどころか、温かくさえ感じる」


(そうか。それはね、君が恵まれているからだよ)


「私が恵まれているの?」


 どう考えても恵まれているとは思えなかった。

 父親から辛く当たられ、母親を信じられず、哀しい毎日を生きてきたのだ。やっと、母を信じられるようになったのは、母が離婚し私だけを見つめてくれていることが分かった頃からだ。

 しかし、離婚してからの毎日は貧乏の連続だった。欲しいものも買ってはもらえず、食べたいものも我慢した。節約をしろと言われ、反抗的にわざと冷房を使わずに倒れたこともある。

 高校に行ってもうまくいかず、新しい友達にもなじめず、苦しいことしか思い出せない。


(それでも、君は好きなことをしてきたんじゃない?)


 確かにそうだ。

 どんなに貧乏でも、私がやりたいことはやらせてくれた。

 大金をかけて入れてくれた学校も、半年ともたずに辞めた。そして、また次の学校。

 それでも母は文句を言わなかった。

 今、高校を卒業して、それでも働くことができない私に、母は私が動き出す日が必ず来ると信じて待っていてくれる。


(お母さんの愛情をそれほどもらえるって、恵まれているとしか思えないね。君ほど愛されている子は少ないんだよ)


 そうか……。

 私は、お母さんに愛されているのか。

 お母さんは、いつも笑ってバカなことをして、私を笑わせてくれる。そうやって、私のわがままに耐えてきたんだ。

 そういえば、泣いてるお母さんを何度か見たけど、次の日には笑ってた。


(そうだね。だから、この雪が冷たくは感じないのさ)


「そうだったの……」


 私は自分の足跡をじっと見つめながら、母を思いだしていた。

 せっかく作ってくれた食事を、食べたくないと言ったこと。

 お昼にと、お弁当を作ってくれても、そのままゴミ箱に捨てたこと。

 貧乏だと分かっていながら、小銭ばかりの貯金箱からお金を盗んだこと。

 どんなことをしても怒られないことをいいことに、好きなようにやってきた。


「どうしてお母さんは怒らなかったんだろう」


(愛してるからさ。君のお母さんは、怒るよりも愛することを選んだんだ。君が、気がついてくれることを待っているんだよ)


「そうなんだ……」


 怒らない母に甘えていた自分。

 母はよく言っていた。


『お前は、たくさんの苦しみの中で生きているから。生きていてくれるだけで、お母さんは幸せだよ』


 そういう母の手はいつも荒れて、ガサガサだった。

 絆創膏だらけの母の手で触られると、痛かった。


(君は幸せだね。この雪が冷たく感じる人もたくさんいる。冷たくて、足の痛さに歩けなくなる人もいるんだよ)


 そういうと、真っ白な馬は吹雪く雪のように消えていった。


「待って! あなたは誰なの?」


 そう叫んだとき、私の意識は自分の部屋に戻ってきた。

 まるで、長い夢を見ていたように、体が重く頭が痛かった。それなのに、妙に心が温かく、不思議と涙が出てきていた。


「今のは、夢? でも、私には未来があるんだ。きっと、いつかお母さんが言ったように、動き出す日が来るんだ」


 ベッドから体を起こすと、鏡の前に立った。

 窓の外は暗くなり出している。

 また今日も、こんな時間まで寝ていたのかと思うと、虚しさが襲ってくる。何もできない自分に哀しみがこみ上げてくるのだ。


「私はきっと、動き出すよ」


 鏡の自分に向かって呟いてみた。

 すると、鏡の中の自分がニッコリと微笑んだように感じた。

 ちょうどその時、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。母が帰ってきたのだ。

 私は髪をとかすと、急いで洋服に着替え、階下へと下りていった。


「お母さん、お帰りなさい!」


「あら、ただいま」


 疲れきった母の顔が、パッと明るくなった。

 よく母が言っていた。

『子どもの笑顔が見られれば、それだけで疲れが取れるんだよ』


 私は母のバックを持つと、元気にこう言った。


「今日はラーメンでいい? 作るからね」


 母のビックリしたような顔が、嬉しそうな笑顔に変わっていった。


「じゃぁ、一緒に作ろうか」


 母の体から疲れが抜けていくのが分かる。

 私はこれほど愛されていたんだ。


 心の中に、温かい光が挿しはじめていた。



fin



いかがでしたか? 

これって、ほんとうに見た夢の話なんですけどね。もちろん、終盤はフィクション。どんな話にまとめようかって思ったけど、寝オチってのもね~ww

ということで、親子愛でまとめてみました。

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