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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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お呼ばれされましたが、なにか?

「しかし……なんで、外務省?」

 などと呟きながら、完爾はスマホを操作して先ほどの橋田管理部長との会話を要約した内容のメールをしたためる。

 一通は、ユエミュレム姫宛、もう一通は間際弁護士宛だ。

「国籍っていったら、厚生労働省……いや、法務省になるのかな?

 なんでここで外務省が出てくるのか?」

 上の方は上の方で、いろいろと思惑や事情があるのかも知れない。


 などというやりとりも、実際には普段の仕事の合間に行われているわけであり、完爾は相変わらず本業に邁進していた。

 毎日同じ事の繰り返し、といえばその通りであるのだが、それで従業員の給料と諸経費、会社への保留分と自分たち家族への報酬を確実に稼げるのだから手を抜くわけにはいかない。

 最近は問屋に卸す分以外に、海外から直接買いつけに来る人たちからも大口の注文が来るようになっているので、製造をたった一人で担当している完爾は休む暇がなかった。

 外務省相手の対策は、ほぼ問題がないくらいに日本語が上達してきたユエミュレム姫に任せ、そのユエミュレム姫がいろいろな人に相談しつつ方針を固めてくれることになった。


「マキムラさんに確認したのですが……」

 例によって深夜に帰宅した完爾に、ユエミュレム姫ははなしはじめる。

「……ここ数日、例の手記についての解析データにアクセスしてくる件数や問い合わせが、歴然と増えているようです」

 週に二回、ユエミュレム姫とビデオチャットをしながらむこうの言語の研究をしている牧村静准教授。

 クシナダグループからの資金援助を受けていることからもわかるように、彼女の研究データも純粋な個人的研究などではなく、その成果は公開されている。

「……この地上のどこでも使われていない言語に対して、興味を持った人がいきなり増えたってこと?」

 普通に考えれば、そうした非実用的な知識を求める人が、そうそういるとも思えないのだが……。

「ピンクフィッシュの商品と海の上でカンジが行ったこと、それらの情報が漏れたことで、急速に関心が高まったのではないかと」

 ユエミュレム姫は、そう答える。

「……関心、ねえ」

 テレビなどのニュースで取り上げられほどではないのだろうが、完爾たちの事情も、すでに「知っている人は知っている」レベルにはなっているのだろうな、と、完爾は想像する。

 なにせ、ユエミュレム姫自らがしたためた手記を牧村女史経由で公開しているのである。調べる気さえあれば、ユエミュレム姫が実際に何者であるのかは、誰でも知ることができる状態にある。

「実は、マキムラさん以外からもむこうの言葉についての問い合わせなどが、届いてはいるのですが……」

 ユエミュレム姫個人への連絡先は、現状ではごく限られた人しか知らされていないのだが、こうした個人情報を調べるルートも、それなりに存在してはいるのだろう。

「……すべて、お断りしています」

 これは別にユエミュレム姫が勿体ぶっているわけではなく、今のユエミュレム姫の生活がそれなりに多忙であり、この上さらにほかの用事を引き受けるほどの余裕はない、というだけのことだった。

 日々の育児に家事、新作商品の開発、個人的な興味を満たすための学習、など。

 現状でも、ユエミュレム姫の日常は十分に充実している。

「だって、この子も、これからもっと手が掛かるようになるといいますし」

「……あー。

 ハイハイしたり歩き出すようになると、目が離せなくなるとかいってたなあ……」

「ときどき、横向きになろうとしていたりしますから、もう少しで寝返りもうてるようになると思うのですけれど……」

「ああ。

 日々順調に育っているんだなあ……」

 そんなわけで、ユエミュレム姫はこれ以上の用事を引き受けるつもりはないらしい。

「でも……やはり、ガイムショウ、というのが気になりますね」

 ユエミュレム姫が、首を傾げる。

「ガイムショウとは、確か、諸外国との交渉を行う部署だったと記憶していますが。

 やはり、わたくしの国籍に関することなのでしょうか?」

「それだとしたら、直接用件をいってくるんじゃないのかな?」

 完爾も、首を傾げる。

「今の時点では、橋田さん経由でそういう話があるって聞かされただけだし、実際に接触があったら改めて間際先生とかとも相談して、対応策を練ればいいさ」

「そうですね。

 それが現実的な対応ですよね」

 と、ユエミュレム姫は頷く。


 外務省からの正式な会談の要請は、数日後、書留で完爾宛に送られてきた。

「……どうするよ、これ?」

 封書をかざして、誰にともなく完爾が問いかける。

 封筒に書かれた宛名こそ完爾だったが、中の招待状は、完爾とユエミュレム姫の両名を指定している。

「行くしかないんじゃないか?」

 答えたのは、千種であった。

「どうも、相手の目的がイマイチはっきりしないのが不気味だなあ」

「実際に行ってみれば、はっきりすると思いますが」

 ユエミュレム姫の反応は、完爾よりは冷静なものだった。

「問い合わせ先が書いてあるのですから、なにか聞きたいことがあったら直接訊ねてみてはいかがでしょうか?」

「……それもそうか」

 ユエミュレム姫の意見を聞いて、完爾は、あっさりと頷いた。

「他の同行者を連れて行ってもいいか、ということも含めて、明日の昼間にでも、詳しいことを訊いておこう」

「……なんなら、わたくしが問い合わせてもいいのですが……」

 ユエミュレム姫が、提案してくる。

「カンジも、お仕事がありますでしょうし」

「そうか? そうだな」

 頷きかけた完爾に、

「なんでも義妹ちゃんに頼るなよ、情けない」

 千種が、つっこみをいれる。

「確認すべき事は、同行者を増やしてもいいのかということ。

 それに、用件の確認でいいですね?」

「あ。

 あと、録音機材を持ち込んでも構わないか、というのも訊いておいて」

 千種が、つけ加える。

「後々のためにも、会見の内容はすべて記録しておいたほうがいい」

「そうですね。

 正確な記録は、大切だと思います」

 ユエミュレム姫は、千種の言葉に頷いた。

「しかし、義妹ちゃんも同伴、かあ……。

 そうすると、暁ちゃんのシッターさん、頼んでおいた方がいいなあ」

「……そうなのですか?」

 続いて千種が指摘すると、ユエミュレム姫が聞き返してきた。

「そうなの。

 官公庁に乳幼児を連れていっても、邪険にされるだけだし。

 なに、半日かそこいらなら、シッターさんに頼めるっしょ」

 昔の伝手もあるしな、と、千種は続ける。

「安心して任せられる方なら、異存はありませんが」

「その辺は、大丈夫。

 翔太もよくお世話になっていたし、何年か前まで保母さんをしていた人だから。

 明日までには予定を確認しておくよ」

 完爾としては、間際弁護士の事務所に今回の件について改めて報告、その末尾に「事によると同行していただくことになるかも知れない」という打診というかお伺いの文章を添えてメールを送っておいた。


「……また、半日仕事場を空けることになるのか……」

 翌日も、完爾はぼやきながら仕事を続けている。

「もう少し、こう。

 在庫の補充については、普段から余裕が持てるようにしておかないとなあ」

 資金面ではなく、在庫に関しては「造る端から売っていく」自転車操業が常態となっている。

 長期的なことを考えると、早めに改善する必要があるだろう。

「……貧乏性なのか、なんなのか」

 ぶつくさいいながら、完爾は従業員の出勤状況をチェックしたりなんだり、の、細かい事務仕事をしていた。

 営業や電話の取り次ぎを優先したため、経理や給与計算関係の作業については作業マニュアルがまだ十分に整備しておらず、そのため、事務員に丸投げできないでいたのだ。

 あまり値段が変わらなかったので、完爾の会社ではICカードで出退勤の時間を記録し、パソコンにもデータを送れるタイプのタイムレコーダーを使用していのたが、その記録に誤りがないのか、ざっと見直しているところだった。

 店員や作業員のシフトはだいたい頭に入っていたし、なんらかの事情で遅刻や早退、欠勤した際には、その都度メモをつけている。

 完爾の記憶と電子的な記録に齟齬があれば、各所に設置してある防犯カメラや当人の証言などともつつきあわせて正誤を確認する必要があった。

 今までのところ、確認する必要に迫られたことはない。

 データの正確ささえ検証できれば、あとはプログラムが自動的に給与計算をしてくれるわけだが、その最終確認はやはり人の手で行わなければならないのだった。

「……あー。

 面倒くせえー……」

 チマチマした仕事を得意としているとはいえない完爾は、ひとしきりぼやきながら仕事を続ける。


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