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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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公開実験ですが、なにか?

 千種が運転する車の助手席に乗ってしばらく走り、間際弁護士を乗せてから高速に乗る。

 意外に道がすいていたので、二時間もしないで現地に着けるだろう、と、誰にともなく千種が説明した。

「先生までおいでになるとは思いませんでした」

 完爾は、後部座席に乗った間際弁護士に話しかける。

「いやあ、こういう機会も滅多にありませんから、万難を排して伺いますよ」

 特に深い意味はなく、完爾の魔法が見たいだけらしい。

「しかし、湾岸ですか?

 本当にどこかの倉庫を押さえてくれたんですねえ」

「クシナダグループの規模を考えれば、それくらいのことができても、別に不思議でもなんでもないんですが」

 千種の返答は冷ややかだった。

「それよりもむしろ、この短期間でこちらが要求したセキュリティ体制を作り上げた方が、驚き」

「セキュリティって……そんなに大事なのか?」

 完爾は、緊張感がまるで感じられない声で聞き返した。

「あんたが要求したんでしょうが。

 あんたの身元に関しては、秘密厳守。魔法のデータは門外不出。

 それをまともに実行しようとすれば、どれくらい大変なことになるのか……。

 準備だけでも相当なお金をかけていることになるわ」

「……ああー。

 なるほど……」

 一応、うなずいて見せたものの、やはり実感がわかない完爾。

「とはいっても……おれは魔法を見せてくれと頼まれて、それを承知しただけだからなあ……」

 正直なところ、クシナダグループとやらがどれだけ散財をしても完爾は関係がないと思っているし、さらに正直にいえば、現代科学の枠でむこうの魔法を解析することに関しても、成功する確率はかなり低いと考えている。

「……期待をするのは、勝手なんだけどな……」


 高速が予想よりも空いていたので早く到着しすぎ、出口付近のサービスエリアで少し時間を潰すことになった。

 このあたりは高速を降りると倉庫があるばかりで、周囲にまともな飲食店がないのだという。

 まだ時間が早いせいか、サービスエリア内は人影がまばらだった。

 三人とも喫煙の習慣がなかったので、缶コーヒーを買って自販機の近くにたむろする。

「その実験というのは、時間がかかるものなのですか?」

 間際弁護士が、完爾に訊ねてくる。

「いや、一瞬で終わっちゃうと思います」

 完爾が得意な魔法は、攻撃魔法なのだ。瞬時に敵を撃破できなければ、実用的とはいえない。

「その一瞬のために、クシナダグループは大枚を払うわけね」

 千種の言葉も、笑いを含んでいる。

「そう考えると、なんか詐欺みたいだな」

「こちらから売り込んだわけでもないし、考えてもしかたがないでしょう」

「そりゃ、そうなんだけど」

「契約書によれば、期待する成果を見せることができなければ報酬は支払われないことになっています」

 間際弁護士が、そう指摘した。

「詐欺やトリックが明るみなった場合、むこうは損をしない内容になっているわけですな」

「準備費やしたお金やマンパワーは別にして、ね」

 千種は、冷静に指摘する。

「大地君たちがどこまで、どういう説得をして見物人を集めたのかまでは、わからないけど」


 指定された住所に赴くと、そこは確かに倉庫街の一角で、敷地に入る前に、まず門前の受付で車を止められた。

 名乗って用件を伝えると守衛の態度が一変し、車を入れる場所を指示して、

「そこまでいってくだされれば、また別の者が内部までご案内します」

 といった。

 それから無線機を取り出して、慌ただしくどこかと交信をしはじめる。

 千種は指示された通り、ぐるりと区画内の外周部を一周するように車を走らせ、正門からは反対側にあるわかりにくい場所に車を停めた。

 そこにはすでに警備会社の制服を着た二名の男が待ちかまえていて、持参した書類を見ながら完爾らの名前を確認し、慇懃な態度で、

「こちらへどうぞ」

 と、先導して倉庫の中に案内してくれる。

 倉庫の内部は、少々空気が埃っぽい気はしたが、まずまず清潔な空間であった。

 エレベーターでを経由して三階で降り、そこで応接室らしい内装の一角へと案内される。

「お疲れさまです。

 ようこそ、おいでくださいました」

 そこで、是枝大地氏と橋田管理主任が出迎えてくれた。

 お茶を出され、すぐに打ち合わせに入る。

「完爾さんの魔法は攻撃用のものだということで、標的としてワゴン車を用意させていただきました。

 燃料は抜いてありますので、爆発の危険はありません。

 それとも、今回使用するのは高熱を伴うような魔法なのでしょうか?」

 早速、橋田管理主任が切り出してくる。

「熱くなる魔法も使えますが、場所が場所ですし、今回はもう少しおとなしいのにしておきましょう」

 ことなげに、完爾は答えた。

「そのワゴン車を破壊する過程で摩擦熱程度は発生するでしょうが、一瞬で終わるし煙も出ないと思いますから、火災報知器も反応しないと思います。

 あと、心配なのは……おそらく、かなりの騒音が発生するかと思いますが……」

「音に関しては、心配する必要はありません。

 近隣のテナントさんにも、警備の者にも、周知済みです」

 橋田管理主任が、うなずく。

「現場の様子を記録するため、多数のセンサーを設置しております。

 それは、問題はありませんね?」

「問題はありません。

 ただ……あまり標的近くに設置されているものは、巻き添えをくらって破損するおそれがあります。

 できるだけ、破壊する範囲を広げないように心がけるつもりではありますが……」

「そのことも、折り込み済みです」

 橋田管理主任が、またうなずく。

「ワゴン車の内部にもいくつかのセンサー類を設置しておりますので、それらが破損することはあまり考慮せず、存分にやっていただければと。

 あと……他に、気をつけなければならないことなどは、ありますでしょうか?」

「気をつけなければならないこと……と。

 そういえば、人は、あまり標的の近くに近づけないようにしていただければ。

 十分に気をつけるつもりですが、破片が飛んでいくようなことも考えられますので……」

「……わかりました。

 現場周辺には最小限の人数だけを残し、他の人員はセンサーをモニターするだけにさせましょう」


 その現場、とやらに案内される。

 是枝氏と橋田管理主任に先導されてはいったのはだだっ広い倉庫の中だった。

 何にもない広い室内の真ん中に、古びたワゴン車だけがポツンと置いてある。

 天井が高い割りに付近が明るいのは、多数のライトによってそのワゴン車が照らし出されているからだった。

 ワゴン車を中心にして取り囲むように、ビデオカメラやらマイクやらその他、完爾には用途が想像できないようなセンサー類が配置されている。

 白衣とか作業服を着た人たちがそれなりにいて、それら観測機器の調整をしているようだった。

 意外に人数が多く、是枝氏の姿を認めると、一瞬驚いたような顔をしてから丁重に会釈してきた。

「今ここにいるのはごく一部で、後は別の場所でセンサー類をモニターしています」

 是枝氏が、完爾にそう説明する。

「全部で何十人ほどで?」

 反射的に、完爾はそう訊いていた。

「さあ……かなり広く声をかけましたから。

 百人は越えていないと思いますが」

「……百人、ねえ」

 完爾は、苦笑いを浮かべる。

「あ。

 秘密厳守の件は徹底させています。

 外部に口外しないよう誓約書を書かせた上で、記録データの門外不出も徹底させています」

 完爾の表情をどう誤解したのか、是枝氏は慌ててそういい添えた。

「そういう約束ですから、その件についてはお任せしますが……」

 果たしてこの実験に、そこまでする価値があるのかな、と、完爾は内心で首を捻る。

「そこまでするとなると……ここまで準備するだけでも、相当に金がかかっているんじゃないでしょうか?」

「それは、もう」

 今度は是枝氏が苦笑いする番だった。

「ですが、それだけの価値はあります。

 今回の実験には、我々が知る技術体系を根底から覆す可能性さえ、秘めているわけですから……」

 是枝氏は是枝氏で、より多くの研究者の耳目をこの実験に引きつけたいという意図があるようだった。


「……それでは、開始します。

 いいですか?

 三、二、一……」

 実験開始時刻となり、完爾は棒立ちになったまま、右手をワゴン車の方につきだした恰好で、無造作に攻撃魔法を発動させた。


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