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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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本業と副業ですが、なにか? 

 そのあと、帰り道に完爾、ユエミュレム姫、千種の三人で白山さんについて話し合った結果、

「危機管理の問題はともかくとして、長期的な計画を立てて実行しいく能力は十分にある」

 という点が評価されて、採用していこうということになった。

 実際に働きはじめる日時など、具体的なことはこれから詰めていくわけだが、非常時については対処マニュアルをこちらが用意してある程度のアクシデントにも困らないようにする、とかで対処していけば間に合うだろう、と千種が指摘してきたことも大きかったが。


「そもそも、そういうことにむいている人材を捜してきたとしても、だよ。

 その人が二十四時間三百六十五日会社に詰めているわけにはいかないんだし。

 結局は、誰にでも対処できるようなマニュアルを完備していないと、意味がない」

 という千種の意見は、説得力があった。

 そのあとに、

「第一、そういう非常時はあんたの領分でしょうに」

 と、完爾に振ってくる。

「非常時の原因を叩くことはできても、その非常時によって騒がしい状態になるのを収束させるのとではわけが違うし」

 完爾は、不満そうな口振りでそう反駁する。

 いいながら、完爾は、

「今度、昨年末みたいな騒ぎが起こって衆人環視の環境下でおれが動くようなことがあったら、会社の方には問い合わせが殺到するだろうなー」

 とか、思う。

「だからなおさら、対処マニュアルの整備が必要なんでしょ」

 千種はそう断言してきた。

「……そうだなあ」

 完爾も、頷く。

「コンサルタントの子たちに用意させておこう」

 コンサルタントの方は、テレビ番組放映による余波で完爾たちへの問い合わせが落ち着きをみせ、最近ではたまに来るまともな各種依頼の受諾や完爾のスケジュール調整くらいしか仕事がない状態になっている。

 経理関係の事務とかまるっきり仕事がないわけでもないのだが、基本的には手が空いている状態だった。


 白山さんとも雇用条件や勤務時間なども詳しく相談し、三月一日から出勤してもらうことになった。

 具体的な仕事は、「魔法の知識普及のための新会社設立準備」。

 前にはなしが出た公式サイト関係の打ち合わせから、どういうスキルの持ち主を何人雇用するのかといった新組織の青写真作成までをやってもらうことにした。

 それ以外に、コンサルタントの仕事も手伝ってもらうつもりだったが。

 しばらくの間、仕事場は、コンサルタントの事務所ということになる。場所が余っていたということもあるし、新会社の業務内容は現在コンサルタントで行っている内容と重複する部分が多い。

 コンサルタントでは、現在、たまにクシナダグループから依頼される仕事や、政府主導の「境界例委員会」関係の仕事、それに学術関係の調査活動への協力事業などの管理を行っていた。

 ユエミュレム姫の方もだんだんと忙しくなってきたから、もう少しするとユエミュレム姫のスケジュールもコンサルタントで管理した方がよくなってくるかも知れない。

 いずれにしろ白山さんには、現在勤務している事務員二名と仲良くなって貰い、まずはコンサルタントの業務内容を把握してもらわないことには、先々、困りそうな様子だった。


 完爾の意識としては、「ピンクフィッシュ」ブランドの製造販売業があくまで本業であり、コンサルタントの方は必要に迫られてやっている副業という意識がある。

 魔法という特殊技能を公然と使用することが前提なので、単位時間あたりの稼ぎでは本業よりもコンサルタントの方が圧倒的に大きな金額が動くのだが、完爾としてはコンサルタントで積極的に稼ごうとする意欲がなかった。

 将来、首尾よくこの世界においても魔法の知識が普及すれば、この手の仕事は一切依頼が来なくなるはずであったし、現時点でのアドバンテージを生かして荒稼ぎをしても、数年後に行き詰まるだけだろうというかなり確かな予感があったためだ。

 暁はまだまだ小さいし、将来のことを考えたら一時的な収入を増やすことよりも五年先、十年先でも継続できるような事業経営を目指した方が堅実だと思えた。

 被雇用者としての完爾がおはなしにならないほど低スペックであるのは、ユエミュレム姫や暁がこちらに渡ってくる前の半年間でいやというほど思い知らされている。他に収入源を確保するあてがない以上、今の本業をしっかりとやっていくより他に選択肢がないのだった。


 その本業はというと、もう少し直売店の売りあげを増やそうと専属デザイナー二名にオリジナル商品をデザインさせてみた。

 素材から売価、想定される客層まで含めてトータルで考えさせ、社内の他の従業員に意見を聞くのはかまわないが、こちらからは特になにも指定をしないで裁量権を与えた。

 当人たちはかなりのプレッシャーを感じていたようだったが、完爾にしてみれば、まるで売れない商品に仕上がったとしても、その商品は魔法で姿を変えて流用すればいいだけのことだったので、実はリスクが少なかったりする。

 もちろん、そうしたオリジナル商品が店の売りあげに貢献してくれれば、それに越したことはないわけなのだが……。

 今は、専属デザイナー二名には失敗を恐れずに場数を踏んでもらって、売れる商品とそうでない商品の差異に対して敏感な嗅覚を養ってもらいたかった。

 せっかくの規模が小さな会社なのだから、売れ行きやお客さんの感触まで含めて肌で感じてほしかった。


 それと平行して、梱包や発送を行う作業員や店員の増員も行った。

 これに必要な面接作業なども、今回からは事務所の人たちにお願いした。

 一応、簡単なチェックシートは用意したし、

「三ヶ月の試用期間があるわけだし、その間になにか問題があるようなら解雇するだけだから」

 と安心させた上で、採否の判定までをお願いしている。

 起業当初こそ、面接からシフト管理まで、細かいことまでいちいち完爾自身で行ってきたものだが、徐々に担当する者を決めて仕事を教え、責任を委譲して完爾自身の仕事を減らしていった。また、実際問題として、そうしなければ完爾の時間がいくらあっても足りなかったのだ。

 他の人よりも重要な仕事をしていたり、責任を伴う仕事に就いている者にはできるだけ給与面に反映するようにしてきているので、今のところ、この方針に対する反発や不満は出てきていない。


 そうして雑事をできるだけ他の人に任せた上で、完爾は自分にしかできない仕事、商品の製造を黙々と行い続けた。

 問屋経由や通販での売りあげは拡大傾向にあり、最近ではそちらに間に合うよう、数を揃えるだけでもかなりの時間が取られる。

 材料となる素材が届く時間なども頼んだ会社によりまちまちなので、だいたい一日中まんべんなく魔法で商品を作り続けているような具合になってきていた。

 忙しいとは、つまりは、それだけ商品や現金が動いているということなので、これはこれで企業としていい状態なのだろうな、と、完爾は思う。

 売りあげが延びるにつれて純益に順調の延びているし、こと、本業においては順風満帆の状態といえる。

 

 二月も終わりに近づき、ユエミュレム姫は城南大学へ通う日が以前よりも増えるようになっていた。

「追い込み、というのですか?

 四月が近づくにつれて、皆さん、殺気立っています」

 とは、ユエミュレム姫の弁である。

 なんでも、ただでさえせっぱ詰まっているというのに、エリリスタル王国語のデータベースを音声にまで広げ、ユエミュレム姫の発音を正確なものと想定し、学習者の発音がその波形に近づくように指導するプログラムまで開発したらしい。

 そのおかげでユエミュレム姫は、単語や例文を一日中マイクの前でしゃべり続ける日々が続いている、ということだった。

 そのおかげでユエミュレム姫は、のど飴の味に詳しくなったという。

「なんでも、ネット上で不都合なくエリリスタル王国語を習得できる環境を整えたい、とかで……」

 四月から開始する講座に出席できない人たちにも学習の機会を与えるため、牧村研究室の人たちもあれこれと工夫を工夫を凝らしているようだった。


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