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元勇者の嫁ですが、なにか?  作者: (=`ω´=)


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面接ですが、なにか?

 夕食後、千種は自室にこもって本来であれば残業して片づけるつもりだった書類の整理をはじめた。

『やー、ちぐさー。

 今期ロボ三作の中ではなにが一番いいと思う?』

 是枝五月雨から千種のスマホに電話が来たのは、その日の午後九時過ぎだった。

「ロボット物としてはともかく、作品としてまともなのはがガルガンだな。名作劇場っぽい。

 マジャスはジャンルのお約束に捕らわれすぎてちょいとアレだし、ヴヴヴは設定とか脚本とかが根底部からなんかついていけないところがありすぎるし……って、おい。

 五月雨。

 お前、昼間さんざんこっちをひっかき回しておいて、いうことはそれだけか?」

『いやいやいや。

 別にひっかき回すつもりは全然なかったんだけどねー。

 いやー、あんたんところの弟さんが想像以上に面白くてー……』

「いうことは、それだけか?」

 千種の眼が、すぅっと細くなる。

「……旦那にチクるぞ……」

『それだけはやめて!』

「なら……いうべき事は、わかっているな?」

『……ごめんなさい……』

「わたしにいわれてもしょうがない。

 ちゃんと迷惑をかけたやつにいえ。

 それから、勝手に持っていったものもすべて、耳をそろえて返すように」

『持っていったって……。

 ああ。試料群のことね。

 あれ……でも、今どこにあるかなあ……あちこちの部署で引っ張りだこになって、それから……』

「す、ぐ、に、返せ。

 違法な手段で持っていったという自覚はあるはずだ。

 つべこべ抜かすなら法的な手段を取ることも辞さない」

『……はぁーい……。

 あ、それで千種。

 昼間、肝心な用件忘れていたんだけど、弟さん関連の案件、是非こちらで担当させて……』

「だが断る」

『ひど。

 せめて、最後までいわせてよう。

 おおっぴらにできない詳しい裏事情を知っているっていうのも、アドバンテージだと思うしい……』

「法律屋の伝手なら他にもあるしな。

 昼間の件でお前が油断できないやつだということを再確認した。もう隙は見せたくない。

 そっちにしてみれば新しいおもちゃくらいの認識なのかもしれないが、こっちにしてみれば親類の一生をかけた案件だ。

 もっと信頼関係が築ける相手を選ぶのは、当然のことだな」

『うぐぅ。

 じゃあじゃあ、せめて魔法関係の研究に協力して貰うっていうのは……』

「完爾に直接頼め。

 案外、条件次第では引き受けてくれるかも知れない」

『そだねー。

 完爾くん、確か今、無職だったんだよね……。

 うん。

 条件面でも、できるだけ優遇できるよう調整してみる。

 ぶっちゃけ、あんなオーパーツがでてきちゃったもんだから、うちの先生方もヒートアップしちゃっててこっちでもそれを抑えるのに手一杯なんだわ。

 あれが再現できれば、これからの工業製品の姿が大きく変わるとかなんとか……』

「そんな事情は、こっちの知ったことじゃない」

 千種は是枝女史の言葉を遮った。

「してほしいことがあるのなら、正面から依頼しろ。面倒な絡め手は使うな。

 完爾もその嫁も、あれでその手の小細工は通用しないタイプだ。

 気にくわないと思った相手は正面から潰しにかかるぞ、あれは。

 昼間いろいろお前に情報を与えたのだって、その程度の漏洩は大勢に影響を与えないと判断しているからだ」

『……なに?

 ほんとに……そんなに……なの?』

「前に完爾が夜中にこっそり家を抜け出したことがあってな。

 気になって後をつけてみたんだが……近くの学校のプールの水をすべて、一瞬で凍らせてた」

『……はぁ!? なにそれ!

 冗談……じゃ、ないよね』

「冗談だったらよかったんだがな。

 その後すぐに、プールの水をやはり一瞬で元に戻していたんだが……あの魔法って力は、近代文明の文脈ではおそらく扱えきれない代物だ。

 触らぬ神に祟りなしっていうだろ? 下手に手を出せば、大火傷するぞ」

『……ねえ。

 そのプールってどれくらいの大きさかな?』

「ええっと……五十メートルのコースが、六レーンくらいで……」

『……うん。その規模か。

 っていうことは、水の量から推測して、おおよその熱エネルギーで換算すると……』

「忠告しているそばから計算しているんじゃねーよ!」


 翌朝、いつも通り完爾に起こされた千種は、いかにも悩みがなさそうな完爾ののほほんとした顔を見て反射的に怒鳴りつけたい衝動に駆られたのだが、危ういところで自制した。


 完爾はといえば、朝食の後、いつもの通りに千種を送り出して翔太を保育園まで送り、諸々の家事を済ませて一息つき、昼前に着替えて昨日、アポを取った会社へと向かった。最寄りの駅までかなりの距離があり、この近辺の人々は来るまで移動するか本数の少ないバスを利用するかしている。千種も普段の通勤には車を使用している。

 完爾が全力疾走でもするればその遠い駅まで数分で到着する自信があったが、人目のある昼間からそんな目立つ真似をするはずもない。時間的に余裕を持って出たことでもあり、バスを利用せずに早歩きくらいのギリギリ目立たないくらいの歩行速度に調整した上で徒歩で移動し、おおよそ二十分ほどで駅に着いた。

 ということは、普通に歩けば徒歩四十分くらい……ということか。人によっては、もっと時間がかかるかも知れない。

 むこうへ飛ばされる前は完爾もまだ中学生だったのであまり実感していなかったのだが、微妙に交通アクセスが不便な立地のようだ。ま、あの頃は家の近所で自分の世界が完結していたしな。

 駅から面接する予定の県庁所在地まで、電車で約二十分。

 電車を降りてから少し時間の余裕があったので、駅前のファストフード店に入って安くてまずいコーヒーを啜りながらスマホでこれから向かう会社の位置を確認した。 

「……雑居ビル? いや、マンションか?」

 どちらとも取れるカタカナ名前の建物の、部屋番号から推察するに三階。

「ま、いってみればわかるか」


 ビルではなくマンションだった。事務所も可、な物件だったのだろう。そこの三〇二号室の前に立ち、表札で会社名を確認してから、インターフォンを押す。

『はい』

 若い男の声だ。

「一時に面接の予約をした門脇というものですが」

『はい。

 そのままお入りください』

「失礼します」

 といいながら入る。

 二十代の若者が顔を出し、

「こちらに入ってください」

 と奥の、パーテーションに区切られた一角に案内してくれた。

 折り畳み式の机と椅子が置いてあり、すでに三人の先客が座っている。

 完爾が空いている席につくと、案内してくれた若者が、

「これ、うちの規則になります。目を通しておいてください。

 先に履歴書を預からせて貰います」

 コピー用紙を手渡しながらそういってきたので、素直に持参した履歴書を手渡す。

「予約した方がもう一人くる予定なので、もうしばらくお待ちください」

 といわれてから、十分ほど待たされた。


「はい。

 最後の人がどうも来ないようですが、はじめちゃいましょう」

 十分後、三十半ばの男が入ってきて、業務内容や就業規則について説明しはじめた。基本的には、あらかじめ配っておいた紙に印字されていた通りの内容だ。

「ここまでで、なにか質問は?

 はい。ないようでしたら、順番に個別に面接を行います。それが済んだら、そのままお帰りください」

 現在の健康状態。扶養家族の有無。現場経験の有無。いつから働けますか? 作業着、ヘルメット、安全帯、安全靴は持っているのか? 持っていなかったら会社から貸与します。その場合、初回の給料からしかじかの預り金を引かせて貰います。これは、退社時に装備と引き替えにお返しします……などなど。

 完爾の前に来ていた三名の男たちに対して、同じような説明が三度繰り返される。

 完爾の順番になっても、まったく同じ説明と質問が繰り返され、装備一式を受け取って解放された。

 どうやら、これで明日から仕事に入れるらしい。

 これまでの就職活動が嘘のような呆気なさだった。

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