大好きなひと
昨日、修平とけんかした。
付き合ってもうすぐ5年、同棲を始めて1年ちょっとのあたしと修平は、それはそれは数え切れないほどのけんかをした。どれもこれもささいなものばかり。そして今回も、それ。牛乳の置き場所でもめた。
同僚の梓紗に言ったら、
「くだらなさすぎ。あんた、そんなことで彼氏とけんかしてんの? もっとマシなことでけんかしなよ。まあ、平和でいいけどさ」
肩と首をぐるぐる回しながら面倒くさそうに言った。
「で、今日はどうだったのよ? なんか話した?」
あたしは首を振る。
「話せなかったの?」
「だって……起きたらもういなかった」
いつもはあたしが起こすまでベッドから出てこない修平が、今日は、起きたときにはすでにいなかった。それが寂しくて、今日はいまいちテンションが上がらない。
はあ、と梓紗が大きくため息をついた。
あたしだってわかっている。くだらないって、重々承知している。謝りたい。仲直りしたい。でも言えない。言うきっかけがつかめない。
あたしも、梓紗に負けないくらい、大きなため息をついた。
「ただいま」
パチリと玄関の電気をつける。小さな部屋には誰もいない。修平、今日、帰ってこなかったりして。
服を着替えて、テレビをつける。ささっと2人分のご飯を作って、ビールをちびちびと飲みながらテレビを見る。何度も何度も時計を見て、テーブルの上の夕食を見て、ため息をついた。今日何度めのため息だろう。両手で数え切れないくらいのため息をついた気がする。
――忘れちゃったのかな。今日が、付き合ってちょうど5年目だってこと。
5年前の今日、あたしは修平に告白された。修平は大学の2年先輩で、おなじサークルに所属していた。すでに1年留年していて、就職活動にいそしんでいた。あたしは修平に憧れていて、告白されたとき、すごく嬉しかったんだ。
思い出すと、この1人の状況がなんだか泣けてくる。あぁ、悲しい。そう思いながら、ビールを飲み続けた。
そして、ちびちびと飲んでいたビールがなくなりかけたころだった。
「ただいまー!」
玄関から、聞き慣れた声がした。
「修平!」
あたしはビールを片手に立ち上がった。修平が部屋に入ってくる。その瞬間、あたしは首をかしげた。
「……何持ってんの?」
スーツ姿に、両手で抱えなければいけないほど大きなテディベア。そしてケーキの箱。あたしの頭の上に、ハテナマークが大量に浮かぶ。
「何って、見りゃわかんだろ。クマだよ、クマ。それからケーキ」
「うん、それはわかるけどさ。何のために?」
すると、修平ははあっと息をついて、
「なんだよ、忘れたのかよ! 今日は、5年前に俺とおまえが付き合い始めた日だろ。何、勝手に忘れてんだよ。――ほら」
ケーキをテーブルに置いて、大きなクマをあたしに差し出した。
「ありがと……」
クマを抱きかかえて、ぼそぼそと言う。
「よしっ、じゃあ、ケーキ食べるか! 楓、おまえも手伝え」
「はいはい」
昨日のけんかはどこへやら、あたしと修平は笑顔だった。
翌日、あたしは仲直りしたことを梓紗に告げた。そしてもうひとつ。昨夜の出来事を話す。
「えぇーっ!」
言った途端、梓紗は大声で叫んだ。いっせいに同じフロアの人が梓紗をにらむ。
梓紗はまわりの視線を無視して、
「それって、ホントなの? 楓、あんた、ホントに結婚するの?」
「うん」
――じつは昨日、修平にプロポーズされたのだ。
ケーキを食べ終わってくつろいでいると、急に修平が改まった様子で、あたしと向かい合って正座をした。そして小さな箱を取り出して、パカッとあけて、
「俺と、結婚してください!」
箱の中の、小さな宝石のついた指輪。この前、2人でこの指輪いいねって言ってたやつ。
修平……。
「あたしでよければ」
即答していた。だって、断る理由なんてない。すると、修平はほっとした顔で笑って、あたしにキスした。そしてその夜は、いままでで一番甘い夜だった。
梓紗はびっくりしていたようだったけど、すぐに笑顔になって、
「そっか。おめでとう」
「ありがと、梓紗」
これからもきっと、いっぱいけんかをするんだろうな。でも、嫌いになんかならないよ。ずっとずっと、修平といられたら。幸せで暮らせたら。それだけでいいんだ。
あたしはにっこり笑った。
――これからの未来に向かって。
激甘ー(笑)
これは、百田の完全なるモーソーです(笑)悪しからず。
気付けば短編が三つ。
短編はどっちかって言うと苦手だったけど、書けちゃいました(笑)
どうか、これからも、百田真咲をよろしくお願いします。