第三話
「よう」
次の日である、朝早くから試合エントリーの予約札が、各要所で配られていた。
予約札をもって天羽宮に登録をしに行き、初めて試合に登録できるのだ。
札が手に入らないと、試合に出場できないので、辺りはかなり混んでいた。
地方から、腕に自信がある若者が集まってくるだけに、かなりの人数がこの御前試合があるシーズンにはこの都に集まってくるのだ。
そこには、前年戦った事のある顔馴染みがいたりして、かなり広場は賑やかだ。
札は二百枚しか無いので、この場から競争になる。ここで札を手に入れなければ一年を棒に振る事になるからだ。
そこでシャハードは昨日出会ったナシューに会った。
先に声をかけたのはナシューの方だった。
「よう、どうだ。札は手に入ったのか? 」
どうも暗い顔をしているシャハードに覗き込むようにして、ナシューは声をかけた。
「まだだ・・・、列が後ろの方だったから、札取りがこんなに激しいものだなんて知らなかった。あんたはどうなんだ? しかし、びっくりしたなぁ。いきなり声かけるから」
ナシューはフフンと鼻で笑った。
「やっぱりな、昨日田舎から出てきたばかりじゃ、こういう事知らなくて当然だ。実はな、俺、札を二枚持っているんだ」
「何だと? 」
シャハードの顔がパッと明るくなった。
ナシューは昨日、球帝である権力を利用して、カジャから二枚ぶんどったのではあるが・・・。
「一枚、譲ってやらんでもない、ただし・・・」
「金か?」
シャハードの顔がまた曇った。
「金は要らない、お前、武器は何を使うんだ?」
ナシューは何か獲れる物が無いかと彼を見回したが、旅装束も何とも貧弱で小剣さえも見当たらない。
「本当は細身の剣を使うんだが、生憎持って来れなくて。ここに来てから揃えようと思ったんだ」
見るからに、田舎からそのまま出てきたという感じだ。
金を持っているのかも怪しい。
御前試合に出るというからには、かなりの準備をしてくるものだ。
一族ぐるみ、村ぐるみで一人の若者を応援する所も少なくは無い。
ちょっとした金持ちだと、かなりの名剣を2、3本揃えるところもある。
「札はいい、タダでくれてやる・・・」
「本当か? いいのか!!」
「ああ・・。登録にはまだ時間があるな、お前、ちょっと俺に付き合え」
ナシューはシャハードを自分の馬に引き上げた。
「知り合いの所へ行く・・・」
と、言って連れて行ったのは、天羽ノ宮西宮殿であった・・・。
天羽ノ宮は5つある。
主に天羽の宮と呼ばれているのは、球帝が住む都市の中央に位置する宮殿の事である。
後、東西南北に一つずつ、屋敷を置いていて、食物庫、武器庫、宝物庫、書庫とそれぞれに保管している。
その中の西宮殿は武器を保管しているのだ・・・。
ありとあらゆる武器を保管してあるそこに、立ち尽くして口が塞がらないシャハードにナシューは言った。
「細身の剣だったな。やれやれ、暫く平和が続いたものだから、剣に錆びが付いてなきゃいいが」
「おい」
「何だ?」
「ここって、球帝の武器庫なんじゃ・・・」
何かの箱をまさぐっていたナシューの手が止まり、振り向いた。
「大丈夫。俺、ここの番人と友達なの。それに、剣の一本や二本、持って行った所で偉い人にはバレやしないさ。どうせ全然使ってないんだから、試合にでも使われた方が、ここの武器だって幸せに決まっている・・・よし。これがいいな、持ってみろ」
それが手に渡った瞬間、シャハードは目を見張った。
そのツカは3つの宝玉が埋まっていて、どれも蒼だが微妙に色が違った。
剣の方は何か模様がびっしりと施されている。
しかし、よく見ないと分からないほどだ・・・。
だが、一番驚いたのは、その剣が自分にしっくりと馴染んでいると言う事だろうか。
重すぎもせず、軽すぎもしない。
「これは、かなりの名剣なんじゃ・・・」
「おっ、お目が高いな。若いの!」
ナシューは冗談めいて言った。
「その剣、この世で鍛えた物では無くてな、とある世界で造られた特注品だ。向こうの世界の獲物に慣れ切っているから、こちらの獲物じゃ物足りないかも知れない。まぁ、使い手にもよると思うのだがな」
「いいのか?こんなの持ち出して・・・」
「それをただの剣にしてしまうのも、水王が扱う最終の剣に戻せるのも、お前次第と言う事だ」
「何?」
「さぁ、行こうか」
涼しげな顔でナシューはシャハードを見た。
疑わしげな顔をしているシャハードに彼はもう一度言った。
「気にするな、武器が無ければ登録もできないところだったんだぞ?」
「えっ? そうなのか」
「そうなのかって・・・本当に何も知らないんだな。登録されるのは、本人だけじゃなくて武器もされるんだよ」
「どうしてだ?」
ナシューより二十センチほど背の低いシャハードは、彼を見上げながら疑問を投げかけた。
「武器別で最初は登録されるからな。その武器の一番の使い手が、他の武器の使い手と最終的に決戦する。だから暫くは同じ武器の使い手と剣を交える事になるな、俺の場合は大剣だから暫くお前と会わない事になる。勝ち残ればの話だが」
「ふうん」
「さて、登録所に戻るか。登録は昼までだ、あまり時間が無い」
そういいながらシャハードはナシューを馬に引き上げた。
「あんた、何で俺にここまでしてくれるんだ?」
「お前が、あまりにも世間知らずで放っておけなかったからだ」
「悪かったな・・・」
一人でむくれるシャハードに、ナシューは小さく声を立てて笑った・・・。