六曜の勇者
〈プロローグ VS魔王〉
「ふはははは! よくぞここまで辿り着いたな勇者どもよ!」
人類と魔族の生存競争――人呼んで、人魔決戦。
多くの人が、そして魔族が動員され、互いの生死を賭けた戦いを大陸各地で繰り広げ、戦果を撒き散らした大戦争。
その戦争が今、佳境を迎えようとしていた。
「我こそは魔王ダイアーク! 貴様ら勇者を打ち倒し、魔族を再興せんとする者である!」
高らかに名乗る魔王は、その巨体よりも遥かに大きな玉座から立ち上がり、謁見の間を自身の黒い魔力で満たした。
さながら明朝の霧のよう。
それだけで勇者達の体は重くなる。
当然だ。
魔力の過剰摂取。
人間にとっては、毒にも薬にもなり得る現象だ。
今回は間違いなく、毒。
魔王の前で膝を屈する者も出た。
「怯むな! 敵は魔王、ただひとり! 俺たちが臆するものはもう、ない! みんな、これが最後の戦いだぞ!」
勇者……リーダー格の金髪が発した鬨の声に、膝を折った者たちが立ち上がる。
対する魔王は余裕の笑み。漆塗りみてえな顔面のくせに、表情のわかりやすいやつだ。
そんな中で俺はひとり、魔王の意識から外れるのを待っている。
「……ヨウ。やることは、いつもと同じだ。頼むぞ」
一滴の淀みのない信頼を、リーダー格の勇者からぶつけられる。
「任せたぜ、悪友」
「死ぬんじゃねえぞ、リーダー」
「ああ、お互いにな」
そう言って俺は、金髪の幼馴染に踵を返す。
魔王との戦いを始める5人を置いて、俺は影に身を潜めて時を待つ。
「うおぉぉおおおお!!」
ガタイのいい重装甲の戦士が突貫を掛ける。
魔王軍の中で最も体格のデカかった幹部を、一撃でぶっ飛ばした戦士の突進だ。
いくら魔王でもタダじゃ済まない。
(――ここだな)
意識は戦士に集中された。今なら俺は動ける。
魔王の視線は此方に来ない。
炎の魔法も、闇の魔法も、斬撃も。魔王の繰り出す攻撃の対象の悉くは、俺には向かない。
一進一退の攻防。
勇者も魔王も一歩も引かず、剣を、杖を、その鋒を、互いに向け続ける。
そして――
「くはははは! よもや我が、ここまで押されるとはな! ならば応えようではないか。
これが我の――真の姿である!」
城が内側からはち切れんばかりの魔力。放出されると同時に、間近で受けた勇者達は吐血する。
身体の拒否反応。さっさとケリを付けなければ、アイツらが危ない。
「 『先んじれば、勝つ』 」
詠唱にも似た言霊の先、俺は魔王の逆鱗を見つける。
俺は盗賊。
敵の弱点を見つけ、捉え、仲間の道を開拓する者。
「――ぬ。貴様、何処から!?」
魔王が俺に気っいた。だがもう遅い。
莫大な魔力を一身に浴びながら、尚も俺は肉薄する。
5人の勇者が作った隙。針の穴に糸に通すような繊細な、けれど派手に爆発するような作業。
――魔王討伐。
その任を、俺は引き受けた。
俺の力は、日によってその本質を変える。
今日は、すべてが成功する日。
第二形態への変身中だろうと、攻撃すれば敵は死ぬ。先に動けば、先にダメージを与えられる。
当然の帰結。当然の話、だろう?
その当然を、成功に確定させるのが俺の力だ。
「悪いな……今日は先勝なんだ」
昨日は赤口。明日は友引。
即ち――六曜。
勝つには今日しかないんだよ。
――俺のナイフの鋒が、魔王の腹に沈んだ。
「ぐぬぅ……!? 核にまで迫るこの感覚……! 貴様、何をした……!?」
「変身中に悪いな。だがこっちも切迫詰まってるんでね。すっぱり切れるトコを切っただけさ」
「切った……まさか、因果の収縮か!」
フフフ何を言ってるんだろうこの魔王は。
「インガだかリンゴだか知らねえが、収穫すんのはテメェの命だ!
大人しくこの俺に渡してもらおうか!」
「ぐぅううう……! させん! 我が命は魔族の希望! 強奪者如きに渡してなるものか――!」
しぶてぇ! コイツしぶてぇ!
今までの相手なら諦めてたのに!
すっぱり両断できたのに!
やはり魔王、厄介すぎんだろ!
――と、魔王に肉薄する俺の手に触れる者がいた。
「――あ、お前」
「助けに来たぜ、ヨウ!」
そんな金髪イケメンの幼馴染は、ニッと口角を上げて笑い掛ける。
「――ああ、やったろーぜ!」
「息を合わせろ……いや、言うまでもないか!」
「当然!」
同時にナイフに力を込める。
ずぷり、と魔王の腹に深く沈んだナイフは、さらに魔王を苦しめた。
「ぐあぁぁぉあああ!? 勇者あぁぁあああ!!」
「おおぉぉぉおおお!! 魔王おぉぉおおお!!」
俺も何か叫んだ方がいいのかしら。
でもなぁ、叫ばない方が力込められるんだよなぁ。
でも雰囲気的に叫んだ方がいいよなぁ。
「今日は焼き肉だゴラァァアアア!!」
「ふざけろ今日は疲れてるからシチューだぁァア!!」
「何の話をしてるのだ貴様らあああア!?」
ここまでが、6人の勇者による魔王討伐譚。
そしてこれから語られるのは、その後の話。
勇者達が大成し、各々の道に進んだ後の――
――とある、シーフの物語。




