雨宮伊織という人物
雨宮伊織
私はこの名前がしばらく頭から離れなかった。彼が、この学校にいるの?目は、私が傷つけた目は大丈夫なの?もしかしたら人違いということもあるかもしれない。けど、こんな名前なかなかいない。どうしよう。私は彼にどうやって接すればよいか分からない。
私は5,6歳の頃、今とは違う地域に住んでいた。もちろんその頃には両親は他界している。私は幼稚園に通っていたが、家庭環境が他の子と違うのもあってなかなか馴染めなかった。でも、1人の友達がいた。それが伊織くん。伊織くんは私の隣の家に住んでいて、よく公園で一緒に遊んでいた気がする。私は伊織くんのことが大好きだった。彼は面倒見がよくて、私はお兄ちゃんのように思っていた。
ただ、ある日、1つの事故が起こった。私たちは公園で遊んでいた。私はそのとき、杖みたいな木の枝を見つけ、伊織くんにあげた。伊織くんはとても喜んだ。そして、しばらくそれを持って遊んでいた。私はまだ知らなかった。この木の枝が元凶となってあの事故が起こることを。
伊織くんが枝を持って走っていた。すると、転んだ、そして、次に顔をあげると、顔から大量の血が出ていた。よく見ると、目に何か刺さった跡がある。そして、彼の手に握られた枝の先。そこには血がついていた。私は悲鳴をあげた。
その後、伊織くんは救急車で運ばれた。目は、戻らなかった。伊織くんは目をひとつ失ってしまったのだ。その後、私はしばらく立ち直れなかった。あの木の枝さえ渡さなければ。私はなんてことをしてしまったのだろう。数日、食が通らず、熱を出した。その間もずっと後悔していた。伊織くんは私のせいで目を失ったのた。そのことが頭から離れない。
結局、その事故の後、すぐ引っ越した。私はあのときから伊織くんに1回も会っていない。会うのが怖かった。きっと彼の顔を見れない。自分のせいで傷ついた顔を。
「あれ?紫乃、どうしたの?なんか体調悪い?」
私は我にかえった。
「少し気分が悪いかも。体調に問題はないよ。」
「保健室とか行かないでいいか?」
「うん、もうすぐ昼休みだし。」
私は昼休みになると、弁当を教室で食べずに生徒会室に向かった。私が入ると、
「今日はえらく早いな。」
いつものように先輩がいた。私はなぜか安心した。
「今日は教室にいたくない気分だったので。弁当、ここで食べてもいいですか?」
「別に、問題ない。」
「ありがとうございます。」
私は弁当をぼそぼそと食べはじめた。味が頭に入ってこない。
卵焼きを食べるとなんかいつもと違う味がした。いつものより甘い?
「ん?」
よく前を見ると先輩がいる。
「なんでここに?」
「まさか、気づいてないんだな。今食べた卵焼きは自分のものだと思うのか?」
「いえ、今日私卵焼き持ってきてない…え?けど今食べた気が…」
「その卵焼きは誰のだ?」
「えっと、私のではなくて、先輩の?えっ?」
「そうだ。お前は僕が卵焼きを食べさせたことに気づかなかった。」
私はそれを聞いて顔を赤くした。
「…」
「やはり今日は様子がおかしいな。何かあったのか?」
「いや、これは私の問題なので。大丈夫です。」
「そうか。あんま溜め込むには良くないとも思うが…」
「うふふ、先輩、私の心配してくれてる。なんか優しい。」
「ついにおかしくなったか?」
「いや、あなたは優しいですよ。きっと自分で自覚してないだけ。」
「……」
しばらく沈黙が続いた。私はなんか気まずくなって話そうとした。
「あの、先輩。何か話しましょ?あ、そういえば遠足の班って決まりました?」
「いや。生徒会メンバーは一般の班には加わらない。仕事がある。」
「なるほど。確かに先輩が同じクラスにいると、班を決めるのがとても大変そうです。学級委員長がかわいそう。」
「やめろ、僕が悪者みたいだ。」
「だって実際そうですし…」
「まあ、そうかもな。」
「はあ。遠足、行きたくない。」
「何か班に嫌な人がいるのか?」
「はい。あっ、言ってしまった。」
「お前の悩みはそれか。」
「ええ、まあ。」
「話してみろ。悩みは誰かに相談したほうがいい。」
「え、でも。」
事故の話は誰にもしないほうが良いことは分かっている。自分のためにも、伊織くんのためにも。でも本当は誰かに悩みを聞いてもらいたかった。私はそんなに強くない。すぐ落ち込んでしまうし、嫌なことはなかなか忘れられない。私は今にもこわれそうだった。
「誰にも言いませんか?」
「ああ、言わない。」
「なら、話します。」
私は昔のこと、班のことについて話した。先輩は意外に真剣に聞いてくれた。
「伊織くんは元気にしていますか?」
「ああ。2年生の中では少し変わり者として扱われているがな。陽気なやつだから友達は多いみたいだ。」
「それはよかった。」
「で、どうするんだ?遠足は。いまさら班を変えるなんてできないと思うぞ。」
「休もうかなあ。いや、けど遠足自体は行きたいんだよな。あ、もしかしたら伊織くんはもう私のことは忘れてて、何にもないとか。」
「それは、ない。雨宮はお前が入学式であいさつしたとき、明らかに反応してた。」
「はあ。伊織くんは私のことを恨んでいるのかも。」
「いや、むしろ会いたがっているように見えた。だから、その、遠足は行ったほうがいいと思う。あいつは目を失ったのは自分のせいだと思っているから、別に責められたりしない。あと、大切な友達なんだろ?それなら本当は会いたいんじゃないか?」
「そうかもです。分かりました。なら、会ってみます。相談にのってくれてありがとうございました。先輩のおかげで元気になった気がします。」
「なら、よかった。」
「あ、紅茶いれますね。」
「ああ。」




