第9話 森への初探索と、初めての戦い
翌朝。
空気はひんやりしていたが、どこか張り詰めた気配があった。
「アルトさま、本当に行くんですね……」
ミリアが少し不安そうに言う。
「ああ。畑も村も守るためだ。
森の汚染源を突き止めない限り、魔物は増え続ける」
そこへガルドが大きな足音を立ててやってきた。
「準備はいいか、領主さま。
森は畑よりも容赦ねぇぞ」
「覚悟はできてる」
ガルドはにやりと笑い、巨大な斧を肩に担いだ。
「なら大丈夫だ。俺が前に出る。
領主さまは後ろで指示を飛ばしてくれりゃいい」
ミリアは胸に手を当てて深呼吸し、
柔らかな光を宿した。
「私も……できる限り支えますっ!」
(よし……この三人なら、きっといける)
***
■【森の入口】
森へ踏み込むと同時に、
空気が変わった。
湿った土、濃い魔力の匂い、
静寂なのにどこか“生きている”感覚。
(……嫌な気配だ)
ウィンドウが自動的に警告を表示する。
──《警戒:魔力汚染レベル・中》
──《魔物の活性化を確認》
「気を付けろ。森ん中じゃ、何が飛び出してくるかわからねぇ」
ガルドの声は低いが、どこか安定感があった。
この森を知り尽くした“戦士の声”だ。
ミリアがふと足を止める。
「……この感じ……嫌な匂いがします。
魔物が近いかもしれません」
「ミリア、気づけるのか?」
「はい。“負の魔力”が濃い場所は、少し胸が苦しくなるんです」
(光の民の血か……本当に感知能力があるんだな)
その時――
ガルドが斧を構えた。
「来るぞ!!!」
茂みが揺れ、黒い影が飛び出した。
***
■【魔物:腐狼】
普通の狼ではない。
皮膚がところどころ腐り、
目は真っ赤に染まり、
体からは黒い煙が漏れている。
──《魔物:腐狼(Lv.4)》
《魔力汚染により凶暴化》
(これが……畑を荒らした魔物……!)
ガルドが咆哮した。
「領主さま、下がれ!!!」
腐狼が飛びかかる。
ガルドは一歩踏み込み、大斧を振り抜いた。
――ドガァッ!!
丸太のような前脚を粉砕し、
腐狼が地面に叩きつけられる。
(強すぎる……!)
ガルドは戦士ではない。
戦場そのものだ。
「まだだァッ!!」
倒れた腐狼に追撃を入れようとしたその瞬間――
「ガルドさん、危ない!!」
ミリアが叫び、光の魔法を放った。
「《癒光》!!」
浄化の光が腐狼に触れ、
黒い煙が悲鳴を上げたように散っていく。
腐狼の動きが一瞬鈍った。
ガルドはその隙を逃さない。
「おおおおおっ!!」
斧が振り下ろされ、腐狼は光の粒になって消えていく。
──《腐狼を討伐しました》
──《領地エネルギー:+2》
「ふぅ……。二人とも、大丈夫か?」
ガルドが振り返る。
「ガルドさんこそ、大丈夫ですか!」
「こんなのかすり傷にもならねぇよ」
(すげぇ……頼もしすぎる)
だが奇妙なことに気づく。
(1体倒しただけなのに……LEが回復した?)
──《魔物が領地に与える“負の魔力”を浄化しました》
──《領地の自然エネルギーが回復します》
(やっぱり……!
魔物は“領地の敵”であり、“エネルギーの奪い手”でもあるんだ)
つまり、魔物を倒せば倒すほど領地は回復する。
(森を浄化するのは、スキルだけじゃない。
戦闘も領地創造の一部なんだ……!)
***
ミリアが寄ってきて、光を俺の腕に流す。
「アルトさま、かすり傷が……」
「あ、ありがとう」
じんわりと温かい光が傷を癒し、肌が再生していく。
「すごい……治癒魔法って本当にすごいな」
「えへへ……そんなに褒められると照れます」
(可愛い……じゃなくて、助かる)
ガルドが前方を示す。
「まだ奥に続いてる。腐狼は“森の外側”しか出てこねぇ。
本命はもっと奥だ」
「汚染源か」
「そうだ」
三人は頷き合い、森の奥へと進む。
その時、ウィンドウが警告を表示した。
──《森の深部に異常反応》
──《高位魔物の存在を検知》
──《領地危険度:上昇》
(……絶対に簡単には終わらないな)
でも、もう怖くはない。
俺には――
ガルドとミリアという“仲間”がいる。
「行こう。
この森を浄化して、村を守るんだ」
風が木々を揺らし、森の奥から低い咆哮が響いた。
初めての探索は、静かに――だが確実に、
次の試練の扉を開けていく。
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