第5話 領地エネルギーと、村が息を吹き返す理由
農地改革が失敗してから、まだ半日しか経っていないのに、
俺の胸にはずっと重い靄が残っていた。
井戸は復活した。
村人の希望も戻りつつある。
だが――
──《領地エネルギー:0》
この数字が、すべてを止めてしまっている。
(このままじゃ、スキルを発動できない……)
畑の土壌調査も、農地再生も、防壁修復も――何もできない。
俺は、村の外れで静かに深呼吸した。
「アルトさま……」
小さな足音と共に、ミリアがやってくる。
「お水、持ってきました。井戸復活のおかげで、冷たい水も飲めるようになりましたよ」
「ありがとう」
水を飲みながら、ふと思う。
井戸……水……
(あれは、LE10を使って成功した。
じゃあ、そのLEはどこから来たんだ?)
次の瞬間、頭上にウィンドウが浮かぶ。
──《領地エネルギー(LE)とは》
《領民の活動、生産、幸福度、土地の健全度から生成される領地の“生命力”です》
(生命力……?)
──《領地が繁栄するほど回復し、荒廃するほど減少します》
(そういう仕組みか……!)
ミリアが首を傾げた。
「アルトさま? 何か見えました?」
「ああ……ちょっとな」
俺は深く息を吸った。
(つまり――)
スキルは“俺の魔力”で動いているんじゃない。
領地が発する“生きる力”を使っているんだ。
だから今、村が弱っているせいで――
LEが回復しない。
(となれば……)
俺はミリアに問いかけた。
「ミリア。昨日、井戸から水が戻った時……村の皆はどうしてた?」
「どうって……とても喜んでました。
あんなに村が明るくなったの、久しぶりです」
(そのときLEが回復したんじゃないか?)
さらにウィンドウが流れ込む。
──《幸福度上昇によるLEの自然回復:+3》
──《生活活動の再開(取水)によるLE:+1》
(やっぱり……)
村が喜び、村が動き出せば――領地が息を吹き返し、エネルギーになる。
逆に、村が不安になれば、
領地は沈み、LEは減る。
(じゃあ……畑の失敗でLEが減ったのは、単に俺が失敗したからじゃなくて……村全体が“不安”になったからか)
ミリアが不安げに尋ねる。
「アルトさま……私たちに、何かできることはありますか?」
その言葉がヒントだった。
(そうか……LEは、俺だけで回復できるもんじゃない。
村の皆と一緒に“領地を動かす”必要があるんだ)
「ミリア。村の皆を集められるか?」
「えっ……? はい、できます!」
***
村の中央広場に、三十人ほどの村人が集まった。
「領主さま、どうされたんです?」
「畑の件なら……気にしなくても……」
その空気はまだ少し重い。
俺は、彼らの前に立ち、言った。
「失敗したのは俺の判断だ。だが――もう一度、皆の力が借りたい」
村人たちがざわめく。
「農地再生には、俺のスキルだけじゃ足りない。
村の力が必要だ」
「村の……力?」
「ああ。畑を耕すのは俺じゃなく、皆だ。
村に活気が戻れば、領地エネルギー(LE)が回復して、スキルも強くなる」
老人が眉を上げる。
「領主さまよ……村が元気になれば、村も領主も力を得る……?
そんな話、聞いたことがねえが」
「俺のスキルがそういう仕組みなんだ」
ミリアが一歩前に出て補足する。
「アルトさまの力は、“領地と皆の力をつなぐ”力なんです。
だから……皆で村を動かさないと、領地が元気になりません!」
村人たちの目に、ゆっくりと光が戻り始めた。
「……なるほどな」
「領主さま一人でやろうとしてたのか」
「なら、俺たちもやるべきだろうよ」
若い農夫がスコップを掲げた。
「畑を復活させるんだろ? 手伝うぜ!」
「お、おう……俺もやる!」
「草むしりくらいなら手伝えるよ!」
人が声を上げるたび、ウィンドウが明滅する。
──《領地エネルギー:+1》
──《+1》
──《+2》
(……回復してる!)
胸が熱くなる。
(村が動けば、領地も動く。
領地が動けば、俺はスキルを使える)
ようやく、スキルの核心がわかってきた。
(これは……ただのチートじゃない。
村と一緒に成長する“権能”なんだ)
***
「LEが回復してきた……!
これなら……あと少しで農地再生をもう一度試せる」
ミリアはぱっと顔を輝かせる。
「じゃあ……今度こそ、畑が!」
「ただし、また失敗する可能性もある。
だけど――」
俺は村人たちを見渡した。
「今度は一人じゃない」
村人たちがうなずく。
「おうよ!」
「領主さま、任せてくだせぇ!」
夕暮れの光が村を照らし、
まるで少しだけ――本当に少しだけ、
土地が柔らかくなったように見えた。
そのとき、ウィンドウが静かに光る。
──《領地エネルギー:12》
(……ありがとう、みんな)
初めて、俺は心から思った。
(この村を再生させるのは、俺じゃない。
俺たちなんだ)
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