夜、自室での独白
夜。
自室の天井をぼんやり見つめながら、俺は今日一日を反芻していた。
入学式。一目惚れ。玉砕。
文化的にどうかしてる衝動告白。
そして、なぜか隣を歩いてくれた美作紗季子。
……と、落とし物。あの、線。
「あれ、なんだったんだろうな……」
机の引き出しには、あのとき拾ったペンダントの写真がある。
スマホで思わず撮っていた。
だって、**“見えてた”**んだ。
自分の目で。誰にも見えない何かを。
ふつうじゃない。
でも、怖くはなかった。
むしろ──
「……ちょっと、わくわくしたかもな」
俺は寝転がったまま、両手をまぶたの前にかざしてみた。
けれど、何も見えない。
縁の線も、記憶も。いまはただの暗がり。
「あれ、夢だったのかも……」
でも、胸の奥に確かに残っている。
**“誰かの何かを繋げられた”**という、不思議なあたたかさ。
ほんの少しだけ、人の役に立てた気がして。
ほんの少しだけ、誰かの気持ちに触れた気がして。
(……俺の能力、なんなんだろうか)
左目がズキッと鈍く痛む。
さっき、何度も線を見ようとして目を凝らしていたせいだろう。
これが、力の代償ってやつか?
いや、そんな中二病みたいなノリじゃない。
でも──
「もし、この目が“誰かの想い”を見つける力なら……」
少しでも、誰かの力になれるなら。
落とし物じゃなくて、心の落とし物みたいなものを、見つけて返せたら──
「ちょっと……いいかもな」
そう呟いたとき、スマホが震えた。
《from: 小田切 美羽》
件名:【落とし物係、興味あります?】
本文は短く、こうだけだった。
> あなたが落とした“ペンダント”──私が知ってる人のだったみたい。
> 明日、図書室に来てください。
──思ってたより、早く世界が動き出した。
そしてこのときの俺は、まだ知らない。
この力が、俺を「縁」という名の迷路へ連れていくことを。
恋と想いと、いくつもの“繋がり”の中で、何度も悩み、笑い、泣くことになるってことを。
でも、それはまだ、ずっと先の話。
いまはただ、心の奥が、少しだけあたたかかった。
──第1章、おわり。
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