衝撃の告白
教室の窓から差し込む春の日差しが、机の上で揺れている。
1組から3組までは女子率が高いらしい、とか、クラス分けは成績順だ、とか、よく分からない噂が飛び交うなか、俺のクラス、2年1組(あ、違う。1年1組)は、そこそこの男女比で、なんとなく落ち着いた雰囲気だった。
「おーい、そこのキミ、名前なんだっけ?」
そんな中、となりの席に座った男子――やたら明るい坊主頭の久賀香楽が気さくに話しかけてきた。
「綴 清雅、だよ。つづり、って書いて、せいがって読む」
「へー、珍しいな! 俺は久賀香楽。ま、気楽にからんでくれや、香楽だけに」
軽っ。初対面なのにノリが軽い。
でも、なんとなく波長が合いそうで、俺もすぐ打ち解けた。
「で? もう見つけた? “推し”」
「……は?」
「今日の新入生のなかで、誰が一番タイプかってこと!」
おいおい、いきなりその話かよ。だが、俺の目はすでに彼女を捉えていた。
「……あの子。入学式のときに見た子。たぶん、あの席の……」
「お、佐倉さん? あー、たしかに美人。人気出そうだなー」
“佐倉さん”というらしい。一目惚れの彼女は、前の席で静かに教科書を並べていた。
──いま話しかけたら、どうなるんだろう?
無理だ。無理に決まってる。
だけど、春の風は人をバカにさせる。
入学初日、環境の変化、根拠のない自信。すべてが俺の理性を吹き飛ばした。
「よ、よし……行ってくる……!」
「……え? いや、まじで? 初日だぞ?」
香楽の静止を振り切り、俺は席を立った。足が勝手に動いていた。
彼女の席の横に立った瞬間、全身の汗腺が一気に開く。心臓の音が耳の奥で爆発している。
「えっと……佐倉さん、だよね?」
彼女がこちらを見る。穏やかな表情。きっと、俺のことなど何も知らない。
「俺、綴って言います。同じクラスの。で、その、あのさ……!」
言え。言うんだ。もう引き返せない。
「──好きです! よかったら、付き合ってください!」
……言っちゃったあああああああああ!!
教室が一瞬、静まり返った気がした。数人がこちらをチラ見しているのがわかる。うわああああ。
そして彼女は──にこりと笑って、こう言った。
「……ごめんなさい」
清潔感のある、あまりにも自然な断り方だった。
あっさり。でも丁寧。でも、完全にダメ。
「そ、そっか。うん。ごめん、急に……」
俺は顔から火が出そうなほど真っ赤になって、何食わぬ顔で席に戻った。
香楽は口元を押さえながら、なぜか肩を震わせていた。
──笑うな。俺だって、本気だったんだ。
「派手にいったなーお前……。いや、ある意味勇者」
「やめろ。頼むから話しかけないでくれ。墓を掘ってる最中だ」
そのとき。
「──でも、見てて気持ちよかったよ」
隣の机で、別の女子がそう呟いた。
顔を向けると、明るい髪をひとつにまとめた子が、こちらを見てニコッと笑っていた。
「えっ……?」
「清雅くん、だっけ? はじめまして、美作 紗季子です。よろしく」
まるで、春の空気をそのまま形にしたような笑顔だった。
目の奥が、なんとなく、あたたかかった。
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