つる奪還作戦〜side和樹④〜
遅くなってスミマセン
「俺の能力は"暗転漆装"。俺の闇はあらゆるモノを呑み込む。光、音、匂い全てだ」
それはヤバイな……。五感のうち三つが使えないわけね。
「だが俺はアンタがどこにいるか手にとるようにわかる。アンタは何もできず俺に殺される訳だ」
蛮は懐から苦無を取り出し和樹に向けて投擲する。和樹は苦無が飛んできたことさえわからず直撃する。
「アンタはこうやって何をされているかもわからず死んでいくんだ」
また蛮は苦無を飛ばすが
「手応えがない?岩の壁か」
「お前にはわかるってことはこの声も聞こえてるのか?ま、聞こえてなくてもいいや。この壁をちゃちな得物で壊そうと思うなよ」
「そんなみえすいた挑発にのると思ってるのか?のってやるけどな!」
蛮は自らの手に闇を凝縮して壁に打ち込む。
「なんだこんな脆いのか」
蛮はそのまま和樹を殴ろうと前進する。そして和樹の右頬に蛮の拳が直撃した。
「神族の長っつってもぜんぜんだな。拍子抜けだな」
「そこにいるな?」
そう、和樹は使えない感覚を捨て残った触覚を頼りにするためわざと蛮の拳をうけた。
「"土竜烈破"」
和樹の周りに無数の岩の棘が現れ一斉に蛮に突貫する。蛮は岩を後ろに跳ぶことで避けたが全ては避けきれず腕にかすっていた。
「結構驚いたがもうその手は食わんぞ」
蛮が跳び退くとほぼ同時にまた和樹の周りには壁が出来ていた。
「要は近づかずにその壁を壊せば良いんだろ?」
蛮の背後には漆黒の矢が次々と浮かび上がっていた。
「穴だらけになれ」
矢は全て和樹に向かって放たれた。矢の威力は先程までの苦無とは比べ物にならない程高かった。漆黒の矢が岩の壁を貫通した。
「おいおいこれで終わりじゃないだろう?」
蛮はそう言いつつもこれで終わりだと思っていた。もう既に和樹の存在を感じ取れなくなっていた。
「欠片も残らなかったか……。あっけなかったな」
蛮は気づかない。和樹のいたところに穴が空いていることに。
「それじゃ、他のが来るまで待ってるか」
蛮が"暗転漆装"をといて座ろうとしたら
「ちょっと気が早いぞ」
地面から手が出て蛮の足を掴む。
「な、なんで生きている」
「潜ってたんだよ下に。思った通りお前の能力の知覚範囲は地上だけだったみたいだな」
そう言うと和樹は蛮を上に放り投げた。そのまま和樹も跳躍し蛮を殴る。攻撃の手を休めず殴り続ける。
「もう、闇は出させない」
蛮の身体は壁に叩きつけられた。
「やるなぁ、だてに神族の長やってないな」
蛮はボロボロの身体で立ち上がった。
「兄貴の方が強いけどな」
「桜華ね。そっちともやりたかったな」
「それは残念だな。お前はここで俺に倒される」
「それはどうかな?今から俺が見せるのは俺の最後にして最強の技」
蛮の体からまた闇が出てくる。しかし今度は広がらず蛮の身体に纏わりつく。そして異形へと変貌する。
「この技を使っちまうと俺の意識も闇に呑まれちまうから使いたくなかったがアンタを倒すためには仕方ない」
その姿はまるでかつて世界を破壊しようとした大狼の様だった。ただしこちらは二足歩行だが。
「マジかよ化け物退治は専門外だぜ」
「グォォォォォ」
蛮は咆哮と共に突進する。
「速いな。"土竜烈破"」
和樹は岩で檻を創るが足止めにすらならない。そのまま蛮は和樹に爪をふるう。
「あっぶね」
和樹は難なく避けるが蛮の攻撃は止まらない。
「ホントに獣だな」
和樹は苦し紛れに石柱を放つが腕の一振りで破壊されてしまった。
「攻撃は……効きそうにないな。これはアレしかないかな?」
和樹の手に石棍が握られる。
「さぁ来いよ化け物」
「グルゥゥゥゥ」
また蛮が突進する。しかし今回は先程までとは比べ物にならない量の石柱が蛮の行く手を塞ぐ。だが蛮はものともせず突進し続ける。そして蛮は和樹の元にたどり着くがそこには和樹の姿はなかった。和樹は上にいた。蛮に砕かれた石柱の粉塵に隠れ和樹は跳躍した。
「これで終りだ!」
和樹は蛮の頭に向かい石棍を打ち込もうとするが蛮の左腕に刺さっただけだった。そのまま和樹は残った右腕で壁まで吹き飛ばされた。
「グォォォォォ」
和樹に止めをさそうと蛮は近づき右腕を振りかぶる。
「この勝負俺の勝ちだ」
蛮が右腕を降り下ろそうとしたとき異変に気付いた。左腕が動かないのだ。蛮の左腕は石になっていた。石化は止まらずもう左半身は石になっていた。
「お前が避けなかった時点で俺の勝ちだ」
蛮はもう物言わぬ石像になっていた。
「だが、この技の代償として俺は殆ど能力が使えなくなった。結構ギリギリだったんだぜ」
「和樹!」
「お早いお着きだな。全員揃ったし先に進もうか」
「大丈夫なの?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってやがる」
「私の夫」
「その通りだ」
ここで話はもとに戻る。ここから語られるのはもう一組の話。
side和樹終了です
やっと桜華が出せる