つる奪還作戦〜side和樹③〜
「重力操作ねぇ」
「ま、精々足掻いてください。そうしないと私にも張り合いがありませんから」
そう言って陳は壁を歩き始めた。
「重力の向きを変えたのね」
「その通り。頭のいい女性は好きですよ」
「私、売約済みだから」
「それは残念ですね。では、そろそろ終わりにしましょうか」
陳は野球ボール程の大きさの黒い弾を作り出した。
「何それ」
「さあ、なんでしょうね」
陳は紗耶香に向かってその弾を撃った。紗耶香はそれを避けたが紗耶香がいたところは陥没していた。
「避けましたか。ではこうしましょう」
再び紗耶香の体に負荷がかかる。そして陳は弾をいくつも造り出す。
「やば」
紗耶香は漆黒の弾丸に呑み込まれた。
「今度こそ終わりです。さようなら」
陳は和樹を追おうと出口に向かうが
「まーだ終わってないよ」
出口は水の壁で塞がれていた。
「いったい貴女はどれだけ私のショーの邪魔をすれば気がすむのです!」
「知らないよ」
「貴女は全力で潰させてもらいましょう」
紗耶香の体にかかる負荷が先程とは比べ物にならないほど増大する。
「どうです?重力十倍は」
「ぜ、ぜんぜんへーきだよ」
いくら最高位の神族だとしても流石に重力十倍はきついらしい。紗耶香の顔には汗が滲んでいた。
「これで正真正銘おしまいです」
先程の数倍の量の弾が今度こそ紗耶香を押し潰したかのように見えたがそこには紗耶香の身体はなくあるのは水溜まりだけだった。
「どこに行った!」
「こっち」
紗耶香は陳の後ろにいた。
「どうやって避けた」
「そんなもの自分で考えなさいな」
もう一人の紗耶香が答えた。
「ど、どういう事だ」
「あんた実は頭悪いでしょ」
また別の紗耶香が答える。紗耶香は十数人まで増えていた。
「く、来るなぁ!」
陳は手当たり次第に弾を撃った。弾が当たった紗耶香は水になってしまった。
「わ、わかったぞ水で創った分身だな。タネがわかれば何て事はない。全て潰れてしまえ」
紗耶香は全員押し潰されて水になってしまった。
「ハハハ全部潰してやったぞ。次はさっきの男だな」
陳は気づかない。どこにも紗耶香の死体がないことを。
「早くしないとな。奴らに邪魔をされたら」
「初代を復活できない?」
「!?」
「あれ?本体がいないのに気づかなかった?」
陳は再び紗耶香を潰そうとするが紗耶香は立ち続ける。
「なぜ立っていられる」
「やせ我慢」
「そんなことできる訳ない」
「アンタのショーにはもう飽きた。そろそろ閉幕の時間だよ」
紗耶香は陳の元へ歩み出す。紗耶香は水の弾丸を陳に撃ち続けるが陳は重力で壁を造り防いでしまう。
「貴女に私は倒せない。貴女の攻撃は私に届かない」
確かに紗耶香の攻撃は陳に届かない。しかし着実に事態は紗耶香の思い通りになっていた。
「まるでバカの一つ覚えですね」
「バカにバカって言われたくないよ」
喋りながらも紗耶香は撃ち続ける。陳の足元には水が溜まって足首まで浸かっていた。
「いったい何がしたいんですか?」
紗耶香は答えない。そして攻撃もとまった。
「やっと終わりですか。では止めを」
陳は歩こうとするが足が動かない。既に水は膝下まで来ていた。
「やっぱりバカだね。今まで気づかないなんて。これで終わりだよ」
紗耶香の周りで水が形になる。それは龍の形だった。
「フン、そんな攻撃」
陳はまた重力で壁を造り。水の龍を防ごうとする。しかし龍は陳の真上から来た。
「重力の壁じゃ真上からの攻撃は防げないでしょ」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
陳は水の龍に呑み込まれた。
「アンタのショーはこれで閉幕。アンコールはないよ」
「お母様」
「ん?四季に藍か。追いついたね」
「紗耶香はどうだった?」
「ちょっとキツかったけど相手がバカで助かったよ」
「バカって……」
「先、行こっか」
こうして紗耶香と四季達は合流した。
「また一段と広いところに出たな」
一人になった和樹はなにやらとてつもなく広い空間にでた。
「もしかしてここにも……」
「いるんだなぁ」
「やっぱり」
この空間の中心にそいつはいた。明らかに異質な空気を放って。
「お前も時間稼ぎか?」
「ちょっと違う」
「じゃあなんだ」
「抹殺」
その男は笑った。見ている方が寒気のするような笑顔だった。
「俺は蛮。出来るだけ早く終わらせようか神族の長。時間がもったいないから」
「それは俺の強さを見てから言え」
「見えたらね」
蛮の体から黒い何かが吹き出す。
「毒か!」
「違う違う。そんなちゃちなもんじゃないよ。これは闇だ」
蛮がそう言うと辺りは闇に包まれ何も見えなくなった。
そろそろ桜の話に戻る……予定です