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新聞部部長 早川





身長・体重・スリーサイズは?


その美しさを保つ秘訣は?


初恋は何歳のとき?


週何回処理してる?


女性経験&男性経験を教えて!


ズバリ、セフレはいるのか?


あの抱っこの君とはどのような関係なのか?


親衛隊長との関係は?







「――なにこれ」



西田は、強い不快感を一切隠さぬ渋面をつくり、絞り出すように言った。

わなわなと震える手には一枚のコピー用紙。幾つもの項目が並ぶその紙の最上部には、「会長様インタビュー質問項目(案1)」と題されている。


常磐学園高等部の部室棟は大きい。下手なアパートより造りも頑丈であるし、広さもある。一・二階は運動部の部室が並び、三・四階には文化部の部室が並ぶ。

そして三階に、いま西田のいる「新聞部室」はある。

所狭しと雑多に置かれた紙の山、たくさんのパソコン、プリンタ。それらから伸び、床を這い回る何本ものコードには、もこもこと埃がまとわりついている。壁を彩るのは、オカルトだったりヲタクだったりとまとまりのない様々なポスターだ。

ちょっとあまり入りたくない様相を呈するこの部屋には、いま西田を含め二人の人間がいた。テーブルを挟んで西田の正面に座る新聞部長である。



「やはり、お気に召しませんでしたかな?」



新聞部長・早坂が言う。早坂は、まあ整った顔立ちをしているが、口が大きい。大きな口をにやりと笑みの形にすると、不思議な迫力があった。

しかし当然そんなものに気圧されるような西田ではない。全学に隊員のいる学内最大規模の親衛隊で、中等部から親衛隊長を務めているのだ。

美少女的な繊細なつくりの顔立ちを常になく歪め、早坂を睨みつける。



「そのムカつく喋り方やめてくれる?あとわかってたんなら、こんな不快な物そもそも見せないでよね」

「はは、不快な物、ですか。西田くんは、本当に会長サマ大好きなんですね」

「当然なこと聞かないでよ。ほら、ふざけてないで、ちゃんとしたやつ出して」



西田は手にしていた紙をテーブルに置き、手を伸ばす。

やれやれとばかりに首を振り、早坂は近くの紙の山の天辺から、新たに数枚の紙を取り上げた。それにひととき目を落としてから西田の方へやりつつ、言う。



「まぁ、我々としてもわかってはいたことです。こういった無難な質問でなくては、親衛隊長が許す訳がないとね。しかしそれでも、あの下世話な質問も、一度はお見せせずにはいられなかった。なぜだかわかりますか?」

「…生徒がそれを求めているから」

「そうです。我々は新聞部。健全な高校生たる生徒の求めるものを作りたい、というのが本音ですから。――まあしかし、それ以前に、今回のお申し出それ自体が、我々にとっては偶さかの僥倖。これまで神秘のヴェールに包まれていたといっても過言ではない生徒会長様の記事を、遂に書かせてもらえるのですからね」



ここはあっさり引きましょう、と笑う早坂を、西田は内心の歯噛みする思いを隠し、ただ静かに見返した。



常磐学園高等部新聞部。

そこには、様々な者が在籍している。ジャーナリストを志す者、写真が趣味な者、野次馬根性の者、多方面へのヲタクたち。そして全体として、異様かつ近寄りがたい集団を作り出している。

彼らの好きな物はただ一つ、生徒たちを惹きつける特ダネだ。

時には教員すらもその対象とし、校内の様々な人間の善事も悪事もそれが特ダネならば暴き立てる所業に、生徒たちは日々、戦々恐々としている。先日も、野外で事を致していた生徒たちが、目に黒線は入っているものの写真付きですっぱ抜かれ、羞恥のあまり絶叫したばかりである。


なぜ斯様なやりたい放題な振る舞いが許されるのか。それはひとえに、この早坂の家が各界に顔の利く資産家であり、生徒も教員も、家柄的に殆どの者が逆らえないからだ。


ただし、早坂の名が太刀打ちできない名家も当然、存在する。つまり新聞部は、その生徒たちの記事は書けない。

しかし奇しくも、生徒たちが最も見たいと希望する記事の対象者――すなわち生徒会長は、その生徒たちの中に含まれているのであった。



西田は悔しかった。

これまで、家柄に守られ、自分たち親衛隊に守られ、決して生徒たちに面白半分に暴き立てられることのなかった、神前の私生活。それがついに新聞部の餌食になってしまうのだ。


原因は、先だっての体育祭で起きた、一般生徒抱き上げ事件である。

あのとき、西田が最も危惧したことは、会長ファンの生徒たちが不満を覚えることであった。親衛隊に所属していない生徒の中にも、会長のファンは多い。ただでさえ、最近では一人で生徒会業務をこなしている都合上、会長の露出は減っており、ファンの不満は溜まっている。そこにきて、一般生徒が一人良い目を見たのだ。すわ制裁か、とすら思われた。

いまのところそこまでには至っていないが、やはり不満は高まっている。もはやこれは、会長が公の場に姿を現し、ファンサービスを行うしかないだろうというのが、親衛隊幹部会議が出した苦渋の決断だった。



「で、どうですか?親衛隊長サマ。こちらの質問内容ならば、ゴーサインをいただけますか?」

「…ちょっと待っててくれる?いま確認してるから」



ああ腹立たしい。そういうわけで、西田の胸中は燃え盛る業火のごとしである。

そしてさらに腹立たしいのは、西田のこの心中を、早坂が完全に理解していることだ。これまで、親衛隊は、些細な記事でさえ書かせぬよう、新聞部の活動を妨害してきた。それがいま、頭を下げて記事の作成を頼む立場に回っている。決して早坂は口にはしないが、愉快に感じているに違いないことは、その大きな口が絶えず三日月を象っていることから自明であった。

苛立ちを、首を振って振り払い、目の前の「会長様インタビュー質問項目(案2)」を熟読する。



だめだ、集中しなきゃ。

せめて、会長様が不快な思いをしないように、ちゃんとあらゆる場面を想定して、質問事項を精査するんだ。


ああ、でも、本当は、悔しい。


こんな奴らに頭を下げるなんて!




「…? なんだ?」



そのとき、早坂が胸ポケットからスマホを取り出した。振動しているそれを操作し、耳に当てる。



「なんだよ、どうした? ……は? え、じゃ、じゃあ、こっち来るってこと?おまえ、それいつの話? …今ぁ!? え、どこで会ったの? …え、じゃあもう、」



驚き戸惑ったような様子の早坂の声に、つい西田が顔を上げる。

早坂は、焦り顔でドアのほうを見ていた。

つられるように西田もそちらを向くと、まさにちょうどそのとき、外からドアがノックされる音がした。

誰か来た、となんらの心構えもなくそう感じていた西田もまた、次の瞬間、驚くことになった。




「――悪い、生徒会の神前だが。入ってもいいか?」




戸の外から響く、低くよく通る声。

それは、西田の敬愛してやまない、世界一大好きな人の声だ。去年の誕生日に「おはよう、朝だぞ」と録音してもらって、アラームに設定して毎朝聞いているから、まちがいない。

しかし、いまこのタイミングで聞くことはないはずだった。ついぽかんとなる西田に構わず、早坂が上ずった声で、どうぞ、と声を上げた。

扉が開くとき、西田はやたらとドキドキした。



「おう、急にわりーな、早坂。それに西田も」



そして、件の生徒会長・神前が姿を見せた。



いつ見ても常人離れした美貌と、一つの乱れもなく美しく着こなされたその制服姿。それらは、雑然とした部屋の中にいると、とてつもなく浮き上がって見えた。なんだかいまこの場にいさせていることに罪悪感を覚えるほどだ。

そう感じたのは、早坂も同様であったらしい。しばし神前の姿に見惚れたあと、慌てて机の上を片付け始めた。焼け石に水、と西田は思う。

それには目もくれず、神前はその辺りからパイプ椅子を持って来て西田の隣に開き、着席した。



「…会長様、ようこそ。ど、どうしたのですか?」



先ほどよりは片付いた机に、早坂も再び着いた。

早坂は、先ほどの鬼の首を取ったような態度から打って変わって、神前のオーラに圧倒されて萎縮してしまっているようだ。

神前はおう、と頷くと、



「いや、今日、西田が俺のためにここに来てるって聞いたから、俺も来ただけだ。俺のことは気にせず話を進めていいぞ」



何てことはない、という風に言った。

西田は束の間呼吸を止めたあと、またたく間に頬を紅潮させた。



「…か、会長様…!」



感極まって涙ぐむ。

たしかに今日の会談については、神前にも報告していた。神前が麗しい眉を愁いの形に歪めて、俺のために悪いな、と言い、「愁いの漂う会長様も素敵!」と幹部陣全員を萌えさせたのは記憶に新しい。

だが、これまでもこういった会談はあったものの、神前が同席したことはない(いわく、「俺がいねー方がやりやすくね? それ」)。

しかも今は、ただでさえ生徒会業務で多忙を極めている。

なのに神前はやって来た。

それはなぜか。


神前は、西田の立場を正確に把握していたのだ。だから今こうして、苦しみながら早坂に対峙しているであろうことを心配して、仕事も顧みず、ここへ来てくれたのだ。


やはり、やはり。会長様は、美しくて格好よくて。ああ、大好きだ。


そう思ったとき、西田の涙腺は、遂に決壊した。

ふ、と神前は苦笑した。



「おまえ、本当に大袈裟だよな。すぐ泣くし」

「か、会長様がかっこいいからですっ」



感涙する西田の頭に、神前はぽんと掌を乗せてやった。

――それから、神前は、早坂にその目を向ける。

ふしぎなやりとりを交わす二人を、どこか蚊帳の外な心持ちで眺めていた早坂は、ぎくりとした。

こんなにも間近で顔を合わせるのは当然初めてなのだが、神前は目力が強すぎる、と早坂は思う。

早坂はこれまで、神前にいかなる感情も抱いていなかった。ただの特ダネ。記事を書きたいが書けない相手、そうとしか思ってこなかったから、言うことや為すことに関心を持って来なかったのである。


自分は相手を知らない。ならば、相手も自分を知らないと思っていた。

なのに、この目はどうだろう。初対面であるはずなのに名前を知られていたという事実も合いまって、神前の眼差しに、なぜだか己の心中をすべて見透かされているように感じ、居心地が悪い。



「――まぁ、俺も少し喋ってもいいっつーんなら、言いたいこともなくはねぇけど。いいか?」



疑問の形をとってはいたが、有無を言わさぬ響きがあった。

早坂の背を、暑さゆえではない汗が伝う。



「…どうぞ」

「ありがとう。…なぁ早坂、こいつさ、中等部の頃から俺の親衛隊なんてやってんだよ」



こいつ、のタイミングで、西田の頭に乗った手がぽんぽんと動く。西田の顔が薔薇のように真っ赤になっていくのは、早坂にしか見えていないようだ。



「俺は何をやっても目立つらしくてな。相当こいつらが手を回して、俺が厄介な奴らに目ぇつけられたり不利益被ったりしねーように、いろいろしてくれてたんだ。そしてそれは、――新聞部にも。だろ?」



そのとき、神前の顔が、苦笑するように緩んだ。

あたかも、幼子のいたずらについ笑ってしまったときのような、慈しみ深い笑み。普段の、彫刻のように整った顔立ちが、人間らしく、甘く、優しく緩む。

その美しい、絵画のような光景に、早坂は目を奪われた。


パシャリ。


一瞬だった。

早坂は、それが済んだあとに気付いた。手近にあったカメラを素早く構え、その姿を写真に収めたのが、自分だということに。

完全に無意識だったのだ。早坂の、ジャーナリストとしての本能が感じ取ったがゆえの行動だった。


この光景は、この人は、写真に収めなくてはならないと。



「ちょっと!あんた何勝手にっ――」



自らの行動にかえって早坂自身が驚いていると、西田が目を剥いて声を上げる。呆然としていた意識が、その声で我に返る。

西田が立ち上がりかけたが、しかしそれは神前によって制された。



「――悪かったな、お前らの活動を制限しちまって。でもどうか、許してほしい。俺もおかげで、相当やりやすくやらせてもらってんだ。

今回の記事作成は、俺のファンだっつー奴らのためだけど。おまえら新聞部への、なんつーか、罪滅ぼし的なもんにもなればいいなと、俺は思ってる。写真も撮って構わねーよ。減るもんでもねぇし。聞きたいことがあんならなんでも聞け。――だから、」



そこで言葉を区切り、ひらり、と神前は、顔の高さにコピー用紙をかざして見せた。

どこか未だに夢見がちな心持ちだった早坂は、それを見て、ぎょっと目を見張る。そしてそれは西田もまた同様で、ぱかりと口が開いた。


いかにして、いつ手に入れたのか。

その手にあったのは間違いなく、「会長様インタビュー質問項目(案1)」であった。




「本当にこんなん知って楽しいのか、俺には疑問だけどな。いいぜ?おまえらが知りてえっつーなら、…教えてやるよ」




怪しげに目を細めた、性的に挑発するような、蠱惑的な、甘い笑み。低く掠れた、囁くような声。

そして神前は、おまけ、とばかり、そのコピー用紙にリップ音を立ててキスしてみせた。

のちに西田は振り返る。それは、長く親衛隊長を務めてきた中でも、一度も見たことのない、最強にセクシーな姿だった、と。



気絶した西田と早坂が目を覚ましたのは、30分後、保健室でのことだった。







常磐新聞 特別号


高等部生徒会長スペシャルインタビュー

「おまえらが知りてえっつーなら教えてやるよ」(キスマーク)


本紙は遂に、全生徒、いや先生方も含めた全学園の悲願を達成した。天が与えた美貌と弛まぬ努力に支えられし博学を兼ね備えた、現高等部生徒会長神前征司(3-A)のロングインタビューに成功したのである。


(写真)


ーーこの度は、インタビューにお答えくださりありがとうございます。

「こちらこそ、世話になる。神前征司だ、よろしく」

ーーまずは、事前アンケートに基づいて質問させていただきます。ご趣味はゲームとのことですね。

「勉強してねーときは、ほとんどゲームしてるな」

ーーインドア派ということでしょうか。

「外歩くと、なんかめんどくせーんだよ。声かけられたり。うちの親衛隊長のアドバイスで、サングラス掛けるようにしたら、ちったぁマシになったけど、あんま出ねえな」

ーーモテモテですね。親衛隊の規模も学内最大です。

「いろいろ助けてもらってるから、親衛隊の奴らにはマジで感謝してる。夏はみんなでなんかしてえな。親衛隊じゃないけど俺にプレゼントとかくれる奴らも、いつもありがとう。使えそうなもんは何気に使わせてもらってる」

ーー恋人は?

「いまはいねーな」

ーー過去にはいたことが?

「西田が、あ、西田ってのは俺の親衛隊長な。西田がそこで睨んでるから、これはノーコメントな。『ご想像にお任せします』(笑)」

ーー残念です(笑)。


(中略)


ーーでは、これでインタビューを終わりにします。ありがとうございました。

「ん? H(インタビュアの名前)、あの紙にあった質問はしなくていいのか?」

ーーあ、い、いえ、大丈夫です。あの、本当にすいませんでした、あの、俺も、あなたのファンになりました。

「はは(笑)、ありがとよ。おまえらのために会長職、頑張るわ。いい学園にしていこうな」



(後略)






「…会計たち」

「ふえっ」

「な、なに?」

「あなたたち、その手にしている物はまさか…」

「べ、別に! そのへんの廊下に」

「落ちてたから拾っただけだよ!」

「書記、あなたに至っては何枚持ってるんですか」

「…」

「あなたたち…」

「…あのさぁ副会長、僕たち」

「気になってることがあって」

「…なんです」

「こ、この、キスマークっ!」

「ほ、本物だと思うっ!?」

「…!」

「…書記の感情が、遊磨に関すること以外で外に出たの、初めて見たかもしれませんね」

「はぁ~この笑顔」

「かっこいいよね~」

「…」

「書記、無言で見つめるのはやめなさい。恐ろしい」




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