体育祭 愉快な仲間たちとの絡み編
「なあなあ、征司先輩は何に出るんだ?」
俺の隣に座り、腕に腕を絡めてきているのは、例の転入生こと、雛形遊磨である。
なぜ役員以外立ち入り禁止のはずのここにいるのか、については、元々わかっちゃあいたが、一応奴らに確認した。副会長が答えたところによると、『遊磨がわたしたちといることを望み、それを私たちが許したからです』とのこと。
他の生徒に示しがつかねぇだろ、からの、遊磨だけが特別なのです後の者には許さなければいい、というやりとりは最早挨拶代わりだ。
「あー、学年がみんな出るやつと、委員会リレーと、借り物競走。だな」
「へぇ!なあ、俺、征司先輩のこといちばん応援するからなっ」
やけに厚い眼鏡により瞳が見えないため正確には感情が読めないが、口が笑っているので、笑っているのだろう。これが変装だということは、転入後間もないうちに向こうのミスで知らされている。このカツラと眼鏡の下には、クオーターの美しい顔立ちと青い瞳が隠されているのだ。
それにノックアウトされた奴らも多い。俺は別にそうならなかったけど。
この後輩はどうやら俺に懐いているらしく、俺がいるとすぐこちらへやって来る。そして俺に抱きついてみたり腕を組んでみたりするのだが、そうすると他の生徒会の奴らが、ほら、ご覧の様子で不機嫌になるので、俺としては面倒である。
「神前…あなた、興味がないふりしてなぜ遊磨とくっついているんですか?」
「遊磨~僕らのことは」
「応援してくれないの~?」
「ゆま…」
だから書記、おまえはちゃんとしゃべれ。
ちなみに、話した順は副会長、会計(兄)、会計(弟)、書記だ。一様に不満げな顔でこちらを見ている。
なんだ俺が悪いのかよこれ。俺は別にこいつのことはなんとも思っちゃいねぇぞ。
「みんなっ!違うぞ、みんなのことももちろん一番応援するからなっ!」
おっと、悪いくせが出て来たな。
俺は人差し指を伸ばし、雛形の口許に当てた。雛形が押し黙る。
「近くに人がいるときは、大声を出さないこと。――もう忘れたか?守れないならここからでていってもらうぞ」
「ち違、わ、忘れてないっ!だからせいじ、俺をおまえのそばに、」
「目上の人間を許可なく呼び捨てにするな、とも言ったはずだ」
「~っ、ご、ごめんなさい征司先輩。静かにするから…いさせてください」
よし。俺は満足して頷く。
他の奴らは恋に溺れて後輩への教育などしない。もうやらせたい放題だ。だから、俺が、気付いた時だけ指導するようにしている。こいつ声でかいし、いきなり名前で呼んでくるからな。まあ俺、本当は神前先輩って呼ぶべきなんじゃねぇのと思ってるけど。
雛形が心配そうにこちらを見ている。相変わらず目は見えないが、雰囲気でなんとなくなにを考えているかはわかる。
微笑んで、デコピンしてやる。
「怒ってねぇよ。おら、あいつらがおまえと喋りたそうにしてるから、行ってやれ」
「…!う、うん」
なんとなく頬を染め、雛形がほかの役員の元へ行く。
見ると、それを迎える役員たちの頬も、なんとなし紅潮しているようだった。しかも副会長はこっちを睨んでいる。
だからなんで俺が悪いんだよ。
「か、かいちょー」
「かっこいいー」
「かんざき…あなた、また遊磨を誘惑しましたね…」
「……」
「してねぇよ。睨むのやめろ。書記は言いたいことあんなら言え」
書記のもの言いたげな瞳が、実は少し怖い俺だ。上背も俺より少し高いしで、並び立っているときにこれをやられると、なんだか生命の危機を感じる。
さて、間も無く俺が最初に出る競技だ。
やっぱ生徒会長たるもの、かっこ悪いところは見せられねぇ。やるなら全力、目標は一位だ。親衛隊の奴らも、応援してます、とか言って御守りくれたしな。
ここでやらなきゃ男じゃねぇ。
「おい雛形」
「え、な、なに?」
「しっかり見とけよ、絶対ぇ一位獲って帰ってくるからよ。応援してくれんだろ?」
にやりと、副会長に言わせれば悪巧みをしているような表情だという笑みを浮かべ、俺は立ち上がった。
そこから、彼らに背を向け待機口に向かった俺は、揃って真っ赤になった愉快な仲間たちの顔を見ることはなかったのだった。
もちろん、結果はそのときの走者のなかでは一位だった。フッ、余裕。
テンションが上がったので、親衛隊の奴らに御守りを掲げて見せたら、歓声が凄まじくてちょっとびっくりした。




