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二日目の夜

 昼も同じように切り分けたパンを食べ、歩く。

 水筒の水はヴィオレッタに譲るとルイスは言ったがヴィオレッタが聞かず、結局二人で分け合うことになった。

「魔法は魔法でしょ、使わないに越したことはないんだったら使わずに済む方法を探すわ! だから、小川とか何にもなさそうでもそういう物を探したいと思うし、まあ、私がめっちゃくちゃ魔法の練習してるから分かっちゃうかもだけど」

「向こうはあなたが魔法を使っているとは思わないでしょう。たぶん、俺の魔法が引き寄せたんですよ。その前に一回使ってるし、それにここはあなたのような方がたくさん居る所なので分かりませんよ」

「そうは言ってもまだ誰にも会ってないんだけど……」

 そう言うヴィオレッタはまたしても歩きながら魔法の練習をし出した。

 とても熱心でこちらの方が何もしてないと思われるのも嫌だと思いながらルイスも歩きながら見える範囲の休める所を探した。

 鳥になって探しても良いが、ヴィオレッタの側を離れるのは危険だ。

 彼女にはまだ攻撃できるような魔法を教えていないし、短剣くらいしか武器はないだろう。

「もう俺が作った方が早いか……」

 そう言った時、ヴィオレッタが唐突に言った。

「ちょっと大変! 私、ルイスの水が飲みたいかも!」

 変な言い方だった。

 ちびちびと水筒の水は飲んでいたはずだし、間接キスにならない? とか言うヴィオレッタの為に自分は仕方なく木の魔法で作り出したコップにその水を入れて飲んでいたのに。

「もうないんですか?」

「ううん、そうじゃなくて、一度飲んでみたいな~と思って、ダメ?」

「なら、大変とか言わないでください。びっくりします」

「ごめんなさい、そうでも言わないと聞いてくれないかなって思って」

「じゃあ、今まで熱心にその事を考えながらやってたんですか?」

「そうね……でも、魔法には集中が必要だって言ってたし、それに魔法は気持ち、思い、心なんでしょ? だから考えないようにしてみたりもしてたんだけど気になっちゃって……。自分で出せるようになってから飲めば良いのかもしれないけど、原始の魔法を使えるルイスの水魔法のやつが飲みたかったのよ」

「それが唐突なんです。ほら、これにやりましょうか」

 木の魔法で二つ目のコップを作り出すとそこに今度は水魔法で出した水をなみなみ注ぐ。

「どうぞ」

「ありがとう」

 手渡された物を素直に受け取るとヴィオレッタはごくごくと飲んだ。

 美味しいわね~! も言わずに、もう一杯とそのコップをルイスに渡す。

 同じようにして飲むヴィオレッタを見ながらルイスは言う。

「どうですか、お味の方は? その辺の水と変わらないでしょう」

「そうね、でもだからこそ何杯でも飲めてしまうわね。水筒の水より美味しいかも!」

 それはないと思うのは自分がその水を飲み慣れてしまったからだろうか。

 二杯目の水を飲み切ると、ヴィオレッタはこのコップも荷物にしてくれる? と訊いて来た。

「良いですよ。俺のと一緒に重ねることになりますけど良いですか?」

「良いわ」

 それを聞いてルイスは自分が背負っていた荷物袋を開け、その通りにした。

「別にね、あの……ルイスが思ってるような、間接キスとか別に本当は気にしてないのよ? ただ、ルイスがどう思ってるんだろう? と思っただけ」

「なら、ちゃんと俺に言って下さい。良いか悪いか、判断は俺がしますし、それはあなたも同じ事でしょう?」

「そうね」

 ただその後はぼちぼち歩く。

 敵が居ないことは良い事だ。

 だけど、つまらないと言う奴はその過酷さを良い塩梅とする思考の持ち主で少し危険だと思う。

 あの騎士団の中にはたくさんそう言った連中が居たけど、この姫様もそうだろうか。

 少しルイスが見れば、その姫様は何かをまた探してきょろきょろしていた。

「何ですか? 敵なら居ませんよ。もう半分です。あと一日半も行けば着くでしょう」

「どうして分かるのよ!」

「そうなっているからです。地図では、ですけどね」

「地図? ルイスは知ってるの?」

「ええ、今はありませんが何かが変わったというのはここ最近ありませんし、それで行くと……という計算で」

「そう、じゃあ、もうすぐなのね!」

「ええ、順調に行き過ぎて怖いくらいですが、これぐらいが良いですよね。無駄な体力は使いたくありませんし」

「そうでしょう! だからね、私も頑張って立派なのを出すとか、どうかな~? って思うんだけど」

「何のですか?」

「休む所に決まってるじゃない! そりゃあ、私は自分でも思うくらいに普通の魔法使いよりも魔力が少なくて魔法使いにはなれそうもないのだけど、岩の魔法とかあったらやってみたいわ!」

 ああ、この姫様は分かっている。

 ルイスはそうですね……と言って、少しやってみたくなった。

「俺の母も魔力がほとんどない人でしたが、父に手伝ってもらってやっていましたよ」

 ルイスはヴィオレッタの手を取り、フッと息をかけた。

「え?」

 ヴィオレッタの手の中に小さな石ころが一つある。

「どうやって」

「呪文や詠唱は必要としません。それはこの原始の魔法の契約だからです。原始の魔法の源はこの自然界なんです。だからそこにそれがあり続ける限り、その魔法はなくなったりしないし、木や風や水、火、土なんかを感じられればそれらはごく自然に使えます。まあ、変わり物の金属や陽の光の魔法なんかもありますが、それは特殊でそんなに使わないでしょうし、俺が今欲しいのは木とか岩なんで。ヴィオ様の手の中にあるのも一応はヴィオ様の魔力からそうして作り出した物ですよ」

「これっぽっち……」

「そう思うのはあなたがもっとと望んでいるからです。これで充分だと思う人もいます」

「そう、やっぱり。私にはその原始の魔法を使ってもこれぐらいの物しかできないのね」

「変身魔法のように慣れが必要なだけだと思いますが」

「じゃあ、私、原始の魔法を使えるようになるかもしれないってこと? ルイスのように!」

「それはちょっと……分かりませんが、俺のは純粋な原始の魔法ばかりじゃないので」

「どういう意味よ?」

「もういろんなのが混じってるんです。それだけこの世界の魔法は変わって来ています。もちろん、単純なものだったら純粋な原始の魔法により近くなるでしょうけど」

「そうなの、じゃあ、今の私にはこれが精一杯みたいだからルイスに頼るしかないわね。本当は何かあなたの助けになりたかったのだけど」

 え? とルイスはヴィオレッタを見た。

 一国の姫様がそう思うのも珍しい。

 何か企みがあるとすれば何だろう。

「何?」

「いえ、あなたがそんな事を思うなんて……と思って」

「もう、私だって本当はずっとあなたに荷物を持たせたくないわ。仮にも今からその荷物持ちを仕事にしたいと思っているのにそれができないなんて恥ずかしいわよ! でも、できないからやってもらうしかないの。でも、いずれあなたの手を借りなくても良いようになりたいわ!」

 それは何だか寂しいような気がした。

 まだこの姫様とそんなに仲良くもなっていないのに、そんな事を思うようになっているなんてルイスにとっては驚きだった。

「どうしたの?」

「いえ……」

 どこでそうなったのか見当たらない。

 姫様はまたとぼとぼと歩き出した。

 それに付いて行くルイスは少し思う。

(疲れはもう越えてしまったんだろうか? 眠いとも言わないし、普通ならこんなに魔法を連続で使っていたらぶっ倒れているのに)

 そうしたらこの荷物と同じように背負わなければいけないが、魔法を使い運ぶのもなんか違う気がするし、いっそのこと自分が馬にでもなって……とも考えたがそれでは姫様の意に反してしまう。だから馬を使っていないのだし。襲って来ないのなら本当に自分で作り出せば良い、休める所を。でもそうしないのは跡を残さない為だ。

 森を燃やしてしまったのだってその痕跡を無くす為。

 全ては上手に逃げる為だ。

「もっと歩いたらどうなっちゃうのかしらねー」

 そんな事を言うのを聞いて少しルイスは安心した。

「ここら辺で作ります?」

「良いわよ。まだ行けるわ、たぶん。夜になるまでになかったらそうしてちょうだい。それまでは頑張るから。あと出来ればなんだけど少し回復魔法を私にかけてほしいかも」

「良いですよ。それくらいなら容易いです」

「悪いわね、何か元気になれた気がするわ。さすがね!」

 何だろう、彼女の性格だろうか。

 そう言われるとこちらはさっぱりとした気分になる。

 きっと本当にそう思っていて裏がないのだろう。

「鳥になって確かめることもあなたら出来そうなのにね、どうしてしないの?」

「それはあなたから離れると何か困る事になりそうだからです」

「待っていろと言われたらその通りにするわよ? あの時だってそう出来たし」

「隠れろとは言ってなかったのに隠れていたじゃないですか。利口だと思いましたが一瞬どこ行った? と焦りました」

「そう? 私も少しは心得があるからね。びっくりさせちゃったのは悪かったけど」

 そう言うヴィオレッタは少し楽しそうに笑った。

 彼女は何でも心から楽しんで、心から悲しむことができるような人みたいだ。

「あ~あ、鳥になったらきっと楽しいんでしょうね、飛ぶってどんな感じ?」

「それを聞きますか?」

「え? 困っちゃうの? だったら、聞かない。そうね、自分でそう出来た時に感じるものよね、それは。うん、分かったわ、その時まで取っておく」

「そうですね、それも良いかもです」

 俺はそんな事を一度も考えたことがなかったとルイスはヴィオレッタを見て思う。

 純粋なのは憧れているからか、それともまだ無知だからか。

 自分は知り過ぎているのかもしれない。そんなに喜べないのも全てが良い物ではないからだ。

 でもそれを姫様は知ることがないだろう。

 何故なら彼女はそれがそんなに必要としない中でこれからを生きて行くのだから。


 ――夜が近付くに連れて、石がころ、ころとその辺に落ちているのを見かけるようになった。

 やっとか……。

「次第に石の感じも大きくなって行くと思います。そしたら現れるでしょう」

「何が?」

「休める所です」

 これもきっと誰かの魔法の練習の成果だ。

「すごいのがあったんですけど!!」

 しばらくしてそこに忽然と現れたその巨大岩の大きさに驚くヴィオレッタは夜になりかけているのに元気に叫んだ。

「とても大きいですね。これだけの魔力なら、そこら辺の人間ではなくエルフか何かか……」

「ここ使っても良いのかしら?」

「主は居なさそうですし、そのヒャグロスに向かう先々にドンとまた大きいのがいくらか良い間隔にあるのが見えますから、使わせてもらいながら行きましょうか」

「そうね、誰かは分からないけどありがとうございます!」

 そう感謝したくなるような物だった。

 この大きさを残すということはそれだけ頑張ったということを知らせたいのだろう。

 だが、これではいつか消されるだろうな……とルイスは思った。

 いつかここに魔物が現れたら、この岩を壁にしたりして戦えるだろう。

 それでも良いということか、それなら今、そうしてやるか――と思った矢先、ヴィオレッタがルイスの前にやって来た。

「あなたの魔法のおかげで今日も面白かったわ。それで相談なんだけど、夜寝る時も安心が欲しいからあなたにずっと私の側で寝てほしいのだけどダメかしら?」

「え?」

「ずっと一緒に居てほしいのよ」

 何を言っているんだ? このお姫様は。

 こっちは寝ずに見張っていても良いと思っていたし、ヒャグロスに着いたら姫様とは同じ宿でも隣同士ぐらいの別の部屋で寝ようと思っていたのに。

「ぬいぐるみのように居てくれれば良いのよ!?」

 少し無理がある。

 だが、それがご希望なら聞かないといけない。

 逆らってもこのお姫様は怒らなさそうだが、王にまた会った時にどうなるかは分からない。

「分かりました、あなたがそう望むなら、俺はそれに従います」

「本当! 良かったー! この硬い岩にはこのブランケットが良いと思ってたのよね! でも一枚でしょ? どうしようかと思ってたんだけどそうしてくれると助かるわ」

「それでそう言ったんですか? だったら、俺はそれがなくても寝れますし、ある程度離れて寝たって大丈夫ですよ」

「でも、昼間あなたは離れたら大変だって言っていたわ、あべこべよ」

「そんな事はありませんよ。そこまで遠くないし、用を足す時だって今まで何回かあったでしょう。その度にあなたから俺は離れてる」

「それはそうだけど、それとは違う話でしょう? これ……」

 そう言ってヴィオレッタは上目遣いになった。

 どこで覚えて来るんだ? それは。

「……クッ、分かりましたよ。一緒に寝れば良いんでしょう?」

「そうね! これで何か分からないものに襲われても平気ね!」

「そうならない為に俺が居るんでしょうが」

「そうそう、安心したわ。ルイスが変な奴じゃなくて」

 そう言って姫様は落ち着いたのか今まで食べて来た物を食べ、寝床作りもそこそこに寝た。

 そのままの地面に横になるのは硬いわねーと言えど、姫様は順応性が高いようでぐっすり寝ている。

 いや、ずっと歩き続けて来た疲れからかもしれない。

 そんなに嫌だと言わないからここまで無理をさせて来たかもしれない。

 でも、ヒャグロスに行き、冒険者パーティーを作るまでは安心できない。

 出来たとしても安心はできないけれど、それが逃亡生活だ。

 いや、悪いのはこちらじゃないか。

 それにこんなに敵が来ないんじゃ、逃亡生活というよりスローライフかもしれない。

 何だか眠くなって来た。

 隣の心地良い寝息のせいか。

 金髪となった彼女の髪の色はあの日見た時と同じ色をしていた。

 その時もこんな風に少し輝いて見えた。

 月がある。

 俺はどうしてこうなったかなんて思いませんよ、お姫様。俺は自分で決めたんです。あの国で生きようと。重い荷物もないままにやって来たのに、それがまた重い荷物を背負うことになって、それだけは嫌だけど。あなたと居るのはそんなに嫌じゃないです。それだけあなたが配慮してくれているのかもしれません。無自覚だとは思いますが――そんな思いなんて彼女には関係ないのだ。

 朝が来ればきっとまた元気になって歩いてくれる。それだけでありがたい。

 ルイスはもう焚き火をする気もなく、少し横になることにした。

 そうしても大丈夫なような気がしたからだ。


 おはよう! と明るく言われたのはどのくらいぶりだろう。

 眩しい朝の光に少し目がくらむ。

 飽きて来たパンを食べ、さあ、行きましょう! と元気に言う彼女はもう歩き出していた。

 あともう少し、それだけでそうなれると言う。

「ルイスはそうじゃないの?」

「いえ、そうですね」

 本当は嫌だった。だって、行ったら最後自分はまた魔法と関わることになる。それは本来の姿に戻る為じゃないのに抵抗がある。

 でも彼女はそうなる方へと進んで行く。

 追って行かなければ、自分の居場所がなくなる気がした。

 また探せば良いという心の声がする。

 でも、それでもそこに留まりたいと思うのは何かをもう大切だと思っているからだ。

 あと本当にもう少しという所で初めて人に会った。

 きっとあの岩々を作り出した張本人。

 こんなヒャグロスの入口付近でこれ見よがしに一人で居るのはそうに違いない。

 敵ではないのは分かっている。

 今まで良いように使わせてもらったのだから。

「あなた! エルフさんね! ありがとうございます!」

「そうだけど」

 変身魔法でリルの姿になったヴィオレッタはそういう感じで行くらしい練習も兼ねて話し掛けた。

 エルフの若い女の子はこんな小さな女の子に話し掛けられてどうしようと言った感じだ。

「あの、そこのちょっとカッコイイ焦げ茶色の髪をサイドカットにした茶色い目のお兄さん~!」

 めっちゃ説明されて自分だとすぐにルイスは気付いた。

「何ですか?」

「この子、どうにかして下さい!」

 苦情だった。

「すみません、ちょっとあなたのような方に慣れていないもので」

「そう……。あまり親しく話さない方が良いわよ。お嬢さん」

「でも……」

 とリルは言葉を飲み込んだ。

 そうだ、彼女はエルフと人の混血。ハーフエルフだ。それがすぐに分かったのはエルフにしては耳の形があまり特徴的ではなかったからだ。

「まあ、それより、あなた達は初心者?」

「ええ」

「どう? 私の魔法の威力は?」

「あ~……」

 返答に困った。

 きっとこんな所でそんな話をするのは仲間を探しているハーフエルフだ。

 ここであなたも初心者ですか? なんて言ったら、すぐに仲間が出来てしまう。

 それは避けたい。

 リルは利口なのか警戒なのか何も喋らなくなった。

 まあ、それは好都合だし、こちらがリーダーだと示せるだろう。

 それにそのハーフエルフの魔法の威力より、はるか上を行く原始の魔法はそんな彼女の心を粉々にはしないだろうが、一気に気落ちさせるものへと変貌させる危険がある。だからこそ、ここに来るほんの少し前、リルにも自分にもそれが出ないような魔法を掛けた。あまりやらないまじないだ。それをしても良いかと聞いた時、ヴィオレッタはバレるよりは良いわと言った。合意の上、それでもバレてしまう可能性があるとは言ったが、良い効き目だったみたいだ。もしくはこの子がハーフエルフだからか。

 そんなに警戒しなくても良いかもしれない。

「まあ、でもすごいですよね。ここに来るまでに段々と大きくなって行ったあの岩々はあなたが?」

「そうなの! 岩を出せるハーフエルフってなかなか居なさそうじゃない?」

 自分で言うか――。

「そうですね、それを少し俺達も使わせてもらいました」

「え?! そうなの!?」

 途端に楽しそうに喋り出すハーフエルフはずっと喋り続け、やっと話す事がなくなると静かに言った。

「もしかして、お兄さん達も初心者?」

「そうなる予定です」

「じゃあ、登録はまだなのね」

「はい」

「じゃあ、このままイヴォンヌの家に行けば良いわよ。あそこは初心者に優しいギルドだわ」

「ありがとうございます」

 ぺこりとお礼を言って、その場を去る事にした。

 話を聞きながら、自分達ではその心を満たせないと分かって、断るのは簡単だった。

 もしかすると冒険者にはなれないかもという話はさすがにしなくても良いのにと思ったが、そうなる人もいるというのは彼女に何をもたらしたのか。

 ルイスがリルになったままのヴィオレッタを見れば、その目は真っ直ぐヒャグロスの街中にあった。

 いままで自分達が居た国とは違う国。

 そこを訪れて最初に言う言葉は何だろうと思えば、感嘆でもなく、何でもなく無言だった。

「どうしました? 怖気付いてます?」

「違うわ、キラキラしていて何も言えないのよ」

 それはすごい期待を持っている。

「じゃあ、さっそくそこに行きますか」

「……本当は少し怖いわ。資格判断検査のことでしょう?」

「忘れてなかったんですね」

「ちょっとは忘れてたわ」

 あまりの正直さに少しルイスは笑ってしまった。

 けれど、彼女は大丈夫だろう。

 そんな気がする。

「大丈夫ですよ」

「でも、たまにいるんしょ? なれない人が」

「そうですね」

「それは私みたいな?」

「いいえ、魔物そのものです」

「え?」

「化けているのがたまに紛れ込むんです。それを見つける為にもそれをする。全てには意味がある。だからやるんです。後々後悔しない為にもね」

 そう言ってルイスは人に聞き、その教えてもらったイヴォンヌの家に辿り着いた。

 木造の二階建てで、中はとても広々としていて、飲み食いできる所もあり、開放的だ。

「あの~、すみません!」

 と言って、ルイスとリルになったままのヴィオレッタは冒険者パーティーライフをする為、資格判断検査を受けた。

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