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7・出来たてパーティ

 




 炎を纏う刀身が、ホブゴブリンの厚い肉体を貫く。ホブゴブリンは硬く大きな筋肉を持ち、見るからに頑強そうだ。その肉体を、敦也は何故あんなにも易々と貫く事が出来るのだろう。

 動く事も目を逸らす事も出来ないサラは、その後敦也が次々とゴブリンとホブゴブリンを斬り倒していくのをただ見ていた。

 流れるような動きで魔物達を蹂躙していく舞い踊る炎。美しくも恐ろしいそれを見ていると、肉と毛の焼ける臭いが鼻をつきサラは口を押さえた。しかし逆流してくるものに抗えず、サラは膝をつき吐き出した。


「サラ、大丈夫?」


 敦也が水の入った皮袋を差し出しながら、心配そうな面持ちでサラに問い掛けた。サラは皮袋から口目掛けて水を出し口を濯ぎ吐き出すと、一口水を飲んだ。

 離れた場所でまだ魔物の死体は燃えていて、強い異臭は消える事がない。


「……ごめんなさい。慣れなくて……次はこんな事無いようにするわ……」


 情けなくて涙が出そうだった。サラは敦也のように戦えるとは思っていなかったが、ここまで動けずに、しかもこんなに情けない姿を見せる事になるとは思ってもみなかった。

 そんなサラの頭に、敦也はポンと優しく手を置いた。


「サラは初めて魔物と戦うんだから、怖かったよな。臭いもキツイし……サラ……」


「私、帰らないから。敦也の仲間として、旅を続ける。戦えるようにもなるし、もうこんな事で吐いたりしないから」


 敦也はサラを優しい声で慮るが、何を言われるのか察したサラは頑なな表情で答えた。


「……薬草、探しましょ。妖狸(ようり)の目撃情報の場所はもう少し先だったわよね?」


 サラは一度、ギュッと目を閉じると笑顔を敦也に向けた。敦也は魔石板でクエストの確認をする。受けたクエストのゴブリンとホブゴブリン討伐欄は、討伐済のチェックが入っていた。


「うん。行こうか」


 敦也が頷くと、サラは近くに生えている薬草を採り敦也の後を追った。




「結構集まったわね。敦也、それも袋に入れちゃいましょ」


「ああ、ありがとう。妖狸、出てこなかったね」


 薬草を摘みながら歩いて来た二人は、目撃情報のあった場所からかなり奥まった森の中まで来ていた。

 敦也はサラから薬草の入った袋を受け取ると、背中のリュックに仕舞いこんだ。


「そろそろ帰ろう。薬草は充分だし、妖狸はまた明日探そう」


「ええ。今日の宿代と食費位は稼げそう?」


「ははっ。クエストの薬草以外にも薬草類は採ったし、ゴブリンの魔石もあるから、数日は大丈夫だと思うよ」


「なら安心ね」


 サラはそう言うと、二ッと歯を見せて笑った。二人は来た道を歩いて戻り町へ向かった。そして、森から出た所で地面に座っている女性に気が付いた。

 女性は無表情で遠くの一点を見つめていて、二人に気付いていない。荷物も無く片膝を立てて座る女性に、敦也は近付いた。


「すみません。どうかされましたか?」


 声を掛けられ敦也達に気が付いた女性は、無表情から驚いた表情に変わり顔を上げた。そして困ったような照れ笑いを浮かべる。


「ああ……それが、足を挫いてしまいましてね。休んでいたんですよ」


「大丈夫ですか?」


 サラが心配そうに手を差し出したが、敦也はそんなサラを遮るように女性に手を差し伸べた。


「俺達今からスヴィールの町に戻るんです。貴女はどちらまで行かれるんですか?送りますよ」


 にこやかにそう言う敦也を、サラは眉を寄せて見ている。女性は綺麗な顔立ちをしているし、服の上からでも艶かしい身体付きをしているのが分かる。

 女性はぽってりとした唇を微笑ませ、敦也の手を取った。


「ありがとうございます。私もスヴィールに向かっている所なんです。ご一緒させて下さい」


 女性がそう言うと、敦也は女性を立ち上がらせた。


「……ッ」


 女性は立ち上がると、足の痛みに顔を歪ませる。敦也は女性の腕を自身の肩に回し、女性の身体を支えた。


「ゆっくり、行きましょう」


「……ありがとうございます」


 敦也は女性を気にかけ、女性は頬を少し染め敦也を見つめている。そんな二人を、サラはモヤモヤした気持ちで後ろから見ていた。

 敦也は優しい。サラに対しても、この女性に対しても。以前サラが魔物に襲われた時も、優しく手当てをしてくれた。そんな敦也が好きになったのだが、目の前で女性に肩を貸す姿を見ると、嫉妬心が湧いてしまう。


「森の中に、荷物を落としてしまったんです」


 町へ向かおうとすると、女性は申し訳なさそうに言った。


「森の中に?どうして……?」


 怪訝そうにサラが質問すると、女性は更に眉尻を下げ微笑んだ。


「薬草を摘んでいたんです。でも、ゴブリンに襲われて、荷物を置いて逃げてきたんです……」


「そうなんですか……大体の場所は覚えていますか?」


「はい。あちらの方です」


 三人は、女性が指差す方向へ歩き始めた。暫く歩いていたが、荷物は見つからない。


「ありませんね……ゴブリンが居た場所は分かりますか?」


「……いえ……この辺りだったと思うのですが……」


 不安そうな表情で辺りを見回す女性に、サラは元気付けるように微笑んだ。


「森の中は景色が似ているので、迷い易いですからね。他の所も探してみましょう」


「ええ……ありがとうございます」


 三人は更に森の奥まで入って行った。日が傾き、森の中は段々と暗くなっていく。


「荷物、ありませんね……ゴブリンが持って行っちゃったのかしら?」


「……」


 眉を寄せ、サラは女性を見た。何も言わない女性は俯き、表情が見えない。


 突如、敦也がサラの腕を引いた。敦也に抱き留められたサラは、何が起こったのか分からないまま目を見開いた。見えたのは、地面に倒れる女性の姿。


「あ、敦也っ」


 敦也から離れようと腕に力を込めるも、敦也の力が強く離れる事が出来ない。

 敦也はサラを抱いたまま、右手で剣を抜き振るった。二振り、三振りすると敦也はサラを離した。


()()に触らないように、まだ居るから気を付けて」


 敦也はサラの方を見ずにそう言った。敦也はずっと木々の間を睨み付けている。サラは()()と呼ばれた女性をちらりと見てから、ゆっくりと距離をとった。

 敦也の方を見ると、足元に血を流し倒れている魔物がいる。ウルフよりも一回り小さい、毛むくじゃらの少し丸い身体をした、妖狸だ。

 妖狸は自身の血溜まりに倒れ、口から血泡を出しながら弱々しく唸っている。

 もう動く事も出来ない妖狸には構わず、敦也は木々の後ろに隠れているであろう他の妖狸の急襲に備えている。

 サラも妖狸達の気配に集中した。葉を踏む音、空気の揺らぎ、妖狸達の気配を、サラは逃さぬように感覚を研ぎ澄ます。


 敦也の斜め前方から、一匹の妖狸が飛び出してきた。歯を剥き出し鼻筋に皺を寄せ、怒りも剥き出しにしている。

 更にもう二匹、妖狸が敦也に向かって飛び出した。

 妖狸達は地を蹴る度に方向を変え、こちらを攪乱してくる。敦也は一番近くまで来ていた妖狸に剣を叩き付けた。

 そして二匹目が敦也に噛み付こうと口を開けて飛びかかってきたのを、掌から出した火球を連続で投げて撃ち落とす。

 三匹目の攻撃を身を翻して避けると、炎を纏う剣で斬り倒した。

 次々に倒れた妖狸達は、もう起き上がる事も出来ずに唸るばかりとなっている。敦也はそれを、順番に屠っていった。気付くと女性の姿は無く、倒れた妖狸の数が増えている。


「サラ、大丈夫?怪我は無い?」


 感情の読めない顔で順番に妖狸にとどめを刺していた敦也が、サラの方を向き問い掛けた。

 戦闘が終わり気が抜け、ぼうっと敦也を見ていたサラはハッとして敦也に焦点を合わせた。


「ええ。私は大丈夫。敦也は……敦也ッ」


 微笑み返事をしたサラだったが、敦也の後ろに飛びかかる影を目にし叫んだ。

 同時にサラの手から黄色い炎がその影に向かって飛び出した。

 敦也もサラの声と同時に動き出し、振り返り様に影を下から斬り上げる。

 短い悲鳴と共に勢いを失った影は、ドサリと地に落ちた。鋭い刃に斬られ血を流し、明るい炎に焼かれ黒焦げたその影は、他の妖狸よりも一回り大きい妖狸だった。


「こいつがこの群れのリーダーかな?サラ、ありがとう」


「これで全部かしら?うん……少しでも敦也の役に立てたなら良かったわ……」


 敦也はサラの魔法が無くても、恐らく怪我をする事無く対処出来ていただろう。サラにもそれが分かっていたが、敦也の礼を薄く微笑みながら受け取った。


「……帰ろう。町に着く頃には、もう夜になってそうだ」


「そうね。今日はよく眠れそうだわ」


 ふぅっと息を吐き顔を上げるサラに、敦也はカラッと笑った。


「ははは!疲れたよねぇ。サラ、お疲れ様」


「敦也の方がお疲れ様でしょぉ?」


「俺は慣れてるから……サラは今までと全然違う生活だし、大変だろ?疲れたり、歩く速さとか、気になる事あったら何でも言って?」


 敦也がずっと、サラの歩く速さに合わせてくれているのを、サラは知っている。それなのに更に、サラを気遣う言葉をくれる敦也の優しさに、サラは困ったように眉を下げた笑顔を向けた。


「もう……敦也は優しすぎるのよ。だから、妖狸にも騙されちゃうのよ」


 サラの言葉に、敦也は目を丸くした。しかし直ぐに力無く笑う。


「妖狸だとは分かってたんだ。姿を見た時からね。でも、万が一があるし……結果、群れの討伐が出来たから良かったし……ね?」


「ええ~?そうだったの?教えてよ!」


「そうだよね。でも、あの時妖狸に気付かれないように教えるのは難しかったからな……」


 敦也はあの時、女性をサラには触れさせなかった。それは敦也がサラを守ろうとした為だろう。サラはそう思うと、困ったように笑った。


「……敦也、帰りましょ。私達、出来たてのパーティだもの。今日みたいな時の合図とか、これから決めていきましょうよ」


「うん。そうだね」


 頭上を覆う葉が傾く陽の光を遮り、森の中は闇に染まり始めた。二人は暗い森の中から、明るく温かい光を放つ町に向かい歩き始めた。

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