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6・便利な魔石板

 





 敦也とサラは朝から冒険者協会に、冒険者として登録をする為に来ていた。窓口に立つ女性職員に登録方法を聞くと、魔石板の提示を求められた。


「魔石板?」


 敦也が首を傾げると、サラが昨日村長と通話したカードを出した。


「これよ。敦也、持ってなかったわよね?」


「これ魔石板っていうのか。はい。持ってないです」


 敦也が職員にそう告げると、職員はチラシを出して説明を始めた。


「そうですか。冒険者登録には魔石板での登録か、カードの発行かお選び頂けます。魔石板で登録頂きますとクエストやレベル、冒険者登録更新から冒険者協会からのお知らせ、全ての管理が出来便利です。魔石板をお持ちでない方は冒険者協会で取り扱っております魔石板を購入して頂き、冒険者登録する事も出来ます。冒険者登録されますと、分割払いが可能です。他の魔石板会社や、中古の物を購入してから冒険者登録をする事も出来ますよ」


 職員からチラシを受け取った敦也は、魔石板の金額を見て引き攣った笑みを浮かべた。これはカードで登録するしか無いなと考えていると、サラが敦也の腕を引いた。


「中古を探しに行きましょ。魔石板があると便利よ」


「あ、ああ……すみません、また登録に来ます」


 職員に軽く頭を下げ、敦也はサラに手を引かれ冒険者協会から出た。


「新品なんて、今はまだ買えないでしょう?私の友達だって皆中古の魔石板を使ってたし、中古で充分よ」


 二人はスヴィールの町を歩き店を探した。スヴィールは古い石造りの家が並ぶ大きな町だ。石畳を歩く二人の子気味いい足音も、町の喧騒に包まれ消えていく。

 小さい中古魔石機器店に入ると、所狭しと魔石機器が並んでいる。洗濯機、冷蔵庫、テレビのような薄型魔力映写装置、映写装置に繋いで遊べるゲーム機、持ち運び型ゲーム機と様々な物が置いてあった。

 サラはガラスケースに並ぶ魔石板を眺め、製造年月の新しく、値段の手頃な物を指差した。


「これどうかしら?今私が使ってるのと同じだから、使い方とか教えられると思うの」


「あ、うん。助かるよ。じゃあ、それにする」


 初めての魔石板に特に拘りの無かった敦也は、サラの勧めたものに決め購入した。店を出ると近くのカフェに入り、魔石板の設定を始める。


「まずは魔石板を充魔しないといけないの。だから、この部分に指を当てて魔力を流してみて」


 サラに言われた通りにすると、魔石板の画面に数字が映し出された。その数字が十になると、画面に文字が映し出される。


『所有者設定を始めます。こちらの魔力の方が所有者でよろしいですか?』


 敦也は画面の『はい』に触れる。その後、名前の入力に移った。操作方法がスマートフォンと似ていて、敦也は懐かしさを覚える。


「敦也、魔石板に触るのは初めてなのよね?何か、慣れてるわね」


「ああ。あちらにも、これと似たような物があったんだ。ゲームのアプリとか入れて、よく遊んでた」


「へぇ!そうなんだ!あちらの話を聞くのは初めてだわ。豊は話してくれなかったもの。お父さんには、話してたみたいだけど」


 そう言うとサラはケーキを一口、口に入れた。


「あちらに残してきた思い出を、思い出すのが辛いんじゃないかな……」


 敦也は設定の終わった魔石板をテーブルに置き、カップを持ちその中を見た。豊のあちらの世界への未練は、敦也の比ではないだろう。


「そっか……そうよね……私、無神経だったわ……」


 眉尻を下げ気落ちするサラに、敦也は明るい笑顔を向ける。


「豊さんはきっと気にしてないよ。随分時間も経ってるしさ」


「やっぱり敦也は優しいわね……ねぇ、あちらの魔石板のゲームアプリってどんなのがあったの?」


 敦也の笑顔を眩しそうに見るサラは、気を取り直したように敦也に質問をした。


「俺がやってたのはパズルゲームとか、モンスターと戦うゲームとかかな。他にはペットを育てたり、恋愛ゲームなんてのもあったよ」


「へぇぇ!こちらのゲームと似たような物があったのね。やっぱり、あちらとこちらは似てるのかしら?」


 サラのが可愛らしく首を傾げると、敦也も顎に指を当てて首を傾げた。


「どうかな?あちらには魔法なんて無かったし、魔物も居なかったからね。平和だった……戦争してる国もあったけど、俺の住んでた国は平和だったよ」


「魔法が無いの?すごい不便そうね!」


「魔法が無くても便利だったよ。こちらには無い乗り物もあったし」


 驚いているサラを見て、敦也は微笑んだ。電気の無いこちらの世界に同じ事を思った過去を思い出す。


「へぇ。やっぱり結構違うのね。ご馳走様!冒険者協会に行きましょ」


 サラはそう言うと立ち上がり、冒険者協会に向かった。先程の職員が笑顔で出迎えてくれる。


「お帰りなさい。登録ですね。魔石板をお願いします」


 二人はカウンターに魔石板を出すと、職員が魔石板よりも厚みのある石版を差し出した。


「まず、こちらの石版に魔石板をかざして下さい。登録画面に切り替わりましたら、入力をお願いします」


 魔石板がある事で、冒険者の登録がスムーズに行われた。魔石板には敦也の魔力情報が登録されている為、ステータス測定もすぐに終了した。


「以上で冒険者登録は終了です。冒険者協会アプリの使用方法等は、アプリ内のヘルプからご確認下さい。冒険者協会の受付でもご質問頂けますので、お気軽にお声掛け下さい」


「ありがとうございます」


 二人は魔石板を片手に、冒険者協会内の酒場に座った。食事を注文し、待つ間冒険者協会アプリを見ている。


「クエストを受注すると、クエスト画面に達成度が出るみたいね。簡単なクエストを受けてみない?」


「うん、そうしようか。それにしても、魔石板を落としたりしたら大変だよね。魔石板をまた買って、冒険者再登録もしないとだから」


「あ、そうそう。失せ物防止機能をつけておくと良いわよ。魔石板と所有者が離れすぎると音が鳴って教えてくれるの。お風呂とか入る時にうるさくならないように気を付けないといけないけどね」


 サラは苦笑しながら言った。魔石板を買って貰ったばかりの頃は、よく部屋に置いたままお風呂に行って、音がうるさいと家族に怒られた。


「便利な機能があるんだなぁ」


 感心しながら敦也は失せ物防止機能を設定した。この機能も、魔石板に魔力で所有者を登録しているから出来る機能なのだ。

 ふと敦也は、豊から渡された紙を思い出した。数字と文字の羅列が書かれた紙は、豊の魔石板のアドレスだろう。

 敦也はそのアドレス宛にメッセージを送信した。するとメッセージは送信されたようで、送信済みが表示される。


 敦也はこれで離れていても豊と連絡がとれる事に安心した。こちらの世界で長く暮らしている大先輩の豊を、敦也なりに心配していたからだ。恐らく豊がこの紙を敦也に渡したのも、敦也を心配しての事なのだろう。


「お待たせしました。日替わり定食二つです」


 店員がトレーを二つテーブルに置いた。トレーには、丸いパンとバター、サラダとローストチキンが乗った皿とマッシュポテトの小鉢が乗っている。


「美味そ」


「ね!美味しそう。敦也、こういうご飯好きなの?」


 照明の少ない暗い店内で、サラの瞳がキラキラと輝いている。敦也はサラダを一口食べると、サラの質問に答えた。


「うん。肉料理は特に好きだな。魚料理も好きだし……美味しければ何でも好きかな」


「あはは。そうね。美味しかったら、私も好きだわ」


 楽しそうに笑うと、サラはローストチキンをナイフで切って食べた。口に広がる肉の旨味と油の甘みが絶妙だった。噛む度に旨味が口に広がり、サラは声にならない感嘆の吐息を漏らした。

 二人は食事を堪能すると、協会のクエストボードに向かった。クエストボードには推奨レベルの書いてある高レベル向けのクエストから、薬草摘み等の簡単なクエストと様々張り出されている。


「ゴブリンとホブゴブリンと……妖狸(ようり)の討伐と、薬草集めをしようか」


 そう言うと敦也は、クエストの紙に魔石板をかざした。すると軽快な音が鳴り、クエスト受注が完了する。


「あ、私の魔石板にもクエストが表示されたわ。ちゃんとパーティ登録出来てるって事ね」


「あ、本当だ。よし、じゃあ準備して行こうか。サラは何か必要な物ある?夜には帰る予定だけど」


「すぐに出れるわ」


「じゃ、行こう」


 二人は冒険者協会を出ると、町の外へ向かった。町と町を繋ぐ整備された道から離れ、木々の生い茂る森に入る。

 薄暗い森の中では、遠くの小動物の出す鳴き声が響き聞こえてくる。その鳴き声の中に、濁った耳障りな声が混ざっているのが分かった。

 敦也はサラの方を見ると、その声に気付いていないようで緊張感のない表情で薬草を探している。

 敦也の視線に気付いたサラが不思議そうに首を傾げ、口を開こうとした。それを敦也は口の前で人差し指を立てて制止する。

 サラはそれを見て口を結び、真剣な表情で頷いた。

 敦也は気配を消し、その声の方向に音を立てないようにゆっくり近付いていく。

 サラも気配を消し音を立てないように動こうとしたが、緊張している上慣れない行動でどちらも上手く出来ない。その為、サラと敦也の距離は離れてしまっている。

 ……五、十……ゴブリン十一匹とホブゴブリンが三体。木の影に隠れ、敦也は敵の数を数えた。

 サラの方を見ると、サラは固く引き攣った表情でこちらを見ていた。手が震えているのが、ここからでも分かる。

 敦也はゆっくりと剣を鞘から引き抜いた。この数なら一人でも問題ない。

 敦也は刀身に炎を纏わせ身を屈めると、こちらに背を向けているホブゴブリンに音もなく近付いて行った。

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