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誕生そして再会

昨夜、カレンが産気づいた。そして、その一時間後に女の子を出産した。

そうしたら、それに刺激されたものか、今日の朝になってクレアにも陣痛が始まったのだ。


俺も医者なんだが、クレアのことは産婆のウメさんに任せた。俺は、カレンの安産と毛皮を着た可愛い赤ん坊を喜びながら、やきもきしてその時を待っていた。


と、院内に産声うぶごえが響いた。

よし、肺が開いて呼吸を開始したな。これで赤ん坊の血流も、臍帯さいたい循環から肺循環に切り替わる。


部屋に入ると、お産を手伝っていたサナエに「女の子よ」と告げられた。クレアも元気で、こちらも安産だったようだ。


俺が、大役を果たしたクレアをねぎらううちに、クレアの枕元に布にくるまれた赤子が届けられた。クレアの産んだ三人目の子、女の子はこれで二人目になる。

小さな角が可愛い。この子も、いずれ賢者に名を連ねることになるのかな?


隣の部屋に移った俺は、もう起き上がって我が子に乳を与えているカレンに「女の子だったよ。」と伝える。カレンは嬉しそうに微笑んだ。

このカレンとクレアは親友で、そして俺の最愛の嫁たちだ。二人とも子を産んで、慈愛に満ちた母の顔をしている。俺にはそれが眩しく見えた。


 ◇ ◇ ◇


自室に戻った俺に、タローが話しかけてきた。「二人とも安産で良かった。私の姪ということになる。」

「そうだな。」


「ところで、キュベレがここに来たいと言っている。」

「えっ、いつも唐突に現れるくせに、わざわざ断りを入れてきたのか? 珍しいこともあるもんだ。」

「一応、取り込み中のお前に配慮したようなことを、言っていたぞ。」

「ふーん、なんの用だろうな?」


そんなやり取りをするうちに、部屋の中に女神が実体化した。

いつもとは違う服を着ていて、長かった髪の毛も、今日は短くなっている。その衣装には見覚えがあるぞ。俺たちの探査母船ゾラック16クルーに配られた、乗員服だよな。


「ジロー、おめでとう。また可愛い子を授かったわね。」

「はあ、有難うございます。って、それを言いに来たんですか?」

「それもあるけど、実はね。貴方のお仲間を、船ごと連れてきてあげたのよ。」

「ええっ!?」


俺たちの母船ゾラック16が、まもなくこの星の周回軌道に乗るところだと言う。到着にはまだ何十年もかかるはずだったのに、二度目の時空震で未来が書き換えられたそうだ。


あの原理主義者の排除が俺たちとキュベレの手柄になって、例の学会のはからいでキュベレの管理者権限が拡張されたとか。つまり出世したんですね、おめでとうございます。


「だから、この恒星系に向かっている船を見つけて、連れてくることができたわけ。」女神は、そう話を締め括った。


急な展開だな、俺はどうすればいいんだ。まだ随分先のことだと考えていたので、気持ちの整理がつかないぞ。


「あら、ありのままを見せればいいのよ。彼らは、この星の文明を観察したいの。あなた、まさか生まれたての子供を置いて、母星に帰るなんて言わないわよね。」


「もちろん帰りませんとも。俺は、もうこの星の、地球テラの生き物です。」

「そう、それでいいのよ。あなたには、奥様たちを支える役目があるわ。情報交換は、タローと向こうのゾラックに任せておけばいいの。でも歓迎の挨拶くらいしてちょうだい。」


そう言って、キュベレは壁のボットに手を振った。

ボットの画面(ディスプレイ)が切り替わる。相変わらず、俺の機械を勝手に使いやがるな、この女神。


そして、画面にはこの星の周回軌道に侵入せんとする、俺たちの母船ゾラック16の懐かしい雄姿が映し出された。


 ◇ ◇ ◇


あの船を離れて、孤独にさいなまれながらもこの恒星の重力井戸を降りてきた。この星で生きるしかないと決めて、原住民のクローン体を作り自分自身を移植した。タロー兄と出会い、別れ、それからもいろいろな事があった。


そして、このサホロの里でたった今 九人目の子供が生まれたばかりだ。母船が難破してから、五十年以上が過ぎたのだ。

俺の頭の中で、いろいろな思い出が渦を巻いた。


画面が切り替わった。

背景には乳白色の壁の色、これは母船の操縦室ブリッジだな。五人のクルー、俺の仲間たち。懐かしい顔が揃っていて、俺は涙が出た。


オルが笑顔で話しかけてきた。

「ジーなのね、久し振り。元気だった? 生き物係さん。」

(おしまい)

お読みいただいて、有難うございました。


この次のお話は、クレアの産んだ最初の子「ワタル」が主人公です。16年後くらいです。

そして、その次のお話は、今生まれたばかりクレアの三番目の子「ミヒカ」が、最初に産んだ子が主人公です。これは35年後くらいです。


宜しければ、またお付き合いください。皆様に、長寿と繁栄を! 拝

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