その2 嫁たちの反撃
無造作に、俺に近づいてくる超種族。
「ジロー、離れよ! そいつは危険じゃ!」スルビウトが、素早く火の矢を投げた。だが、魔人の投げた魔法は、スルリとそいつの体をすり抜けてしまった。
超種族は、魔人に向きを変えた。「何と野蛮なことを! 魔人よ、一人残ったお前は見逃そうと思いましたが、やはり目障りですね。」体がフッと消えたかと思うと、次の瞬間にはスルビウトの横に立っていた。
スルビウトが白く輝く障壁を張る。しかし、超種族はその障壁ごとスルビウトに殴りかかった。純粋な暴力、物理的な力だ。
スルビウトが、後方に殴り飛ばされた。
魔人はうずくまり、打たれた腹に淡い光を集めている。闇属性の回復魔法を使っているな。大きなダメージを受けたようだが、生きている。しかし、婆様に暴力を振るうとは、こいつ許せん奴だ。
すると、次の瞬間、そいつは俺の前に立っていた。
俺は、ストレージから取り出した剣を握っている。すかさず風属性で刀身を励起させる。
「そんなものが、私に通じると思っているのですか。」殴り掛かってくる相手に、俺は思い切り剣を振るった。俺の剣は、間違いなく相手の体に届いている。だが、スカスカと手応えがない。あの群竜の時の、あいつと同じだ。
「私は、多くの次元に属しているのですよ。ここにいて、ここにはいない。お前では、私に触れることさえできません。」
俺は物理障壁を張った。しかし、そいつは俺を、その盾ごと殴り倒した。
ものすごい衝撃で、俺の頭はくらくらした。
俺をもう一度殴ると、こいつは俺の上に覆い被さり、ぎりぎりと首を締めあげてきた。純粋に物理的な暴力しか使わない奴だ。
俺は首を締めあげられて、気が遠くなってきた。
ああ、これで俺もお終いか。こんな訳の分からん奴に、俺は殺されるのか。
すると遠くから、スルビウトの声が聞こえた。「クレア、時空魔法じゃ!」
圧し掛かる相手を排除しようと、俺は必至に足で蹴り上げていた。それまでは掴みどころがなかった相手の体が、不意に俺の足にかかって、相手を蹴飛ばすことができた。
何とか立ち上がり、すかさず剣で切りかかる。今度はザックリと手応えがあった。
ぼやけていた奴の体の輪郭が、今は、はっきりと見えている。
周囲を見渡せば、クレアがこちらに向けて手を伸ばしている。時空魔法で、奴を停止しているのだ。ほかの次元にも展開していると言ったこの超種族を、今は俺たちのこの次元に捕まえている。
「カレン、今です!」クレアが叫ぶと、
「はい、姫様!」近衛騎士に立ち戻ったカレンが応えて、背負った大剣をスラリと抜くや、刀身を鈍色に励起させた。
「旦那様の敵っ!」カレンは、動きの止まった超種族に駆け寄って大剣を振りかぶると、「鋭っ!」と振り下ろしたものだ。
ぎゃっと、奴の悲鳴を聞いた気がした。
そいつは、カレンの大剣を脳天から食らって、唐竹割りに真っ二つになった。
そして、ぐずぐずと地面に崩れ、二つの原形質の塊と化す。血が出るわけでもない。ただ、二つに切り分けられたのは確かだ。カレンさん、相変わらずの腕前です。
「旦那様! 雷撃魔法!」ここでクレアから飛んだリクエストにお応えして、俺は渾身の雷撃を見舞った。
俺の横から、もう一つの魔法が飛ぶ。振り返ると、怒れるギランがそこにいた。
茜色した空から、バリバリズシンと雷が続けざまに落ちる。周囲の空気がキナ臭くなって、その塊からは有機物が焦げた鼻を突く臭気が漂った。
なおもビクビクと脈動するその焼け焦げたものを、カレンが大剣で突き刺すと、そいつは動きを止めた。
そして、キュベレが実体化した。
(続く)