その1 待っていたもの
隕石が落下した現場を、魔素を浴びる喜びに沸く竜族に任せて、俺たちは魔王国の上空に戻ってきた。夕暮れが迫り、空は茜色に染まりつつある。
宮殿前の広場に搭載艇を降下させる。
隣には、魔人号が降りてきた。そして、しばらくすると二隻の魔動機、サホロ号とキラ家の船もすぐ傍に着陸した。
俺は、ボットを連れて船を出る。スルビウトも、クレアもカレンも、ギランも、そして三人のホムンクルスもぞろぞろと降りてきた。互いの健闘を称えあうために、皆で集まろうとしたその先に、赤い夕日を背にして見知らぬ者が待っていた。
誰だ? 魔王国の者ではないな。角がない。
沈んだ色をした服を身につけ、体の輪郭が揺れ動いて、ぼやけているように見える。こいつは、群竜戦で俺を襲った奴なのか? いや違うな。よく似ているが、何だかもっと危険な感じがするぞ。
そいつは、両手を叩き合わせてパチパチと音を出してみせた。
「お前たちの行動は、称賛に値します。相手を賛美するときに、お前たちはこうして拍手をするのでしたね。」甲高い声で俺たちに話しかけてきた。
「なかなか見応えがありました。この星の生物種には、存在価値があると認めて差し上げましょう。成立過程には、いささか不満もあるのですがね。」
金灰色の髪の毛が、薄く頭蓋を覆っている。体格はしっかりしているが、俺に比べれば背が低い。眼つきは狡猾さを見せて隙がなく、強い拒絶の意志を映しているかのようだ。まあどうせ、これは仮の姿なのだろうが。
こいつが、キュベレが言う反対勢力なのか?
「この星の生き物を滅ぼすのは、やめにしました。このまま生存を許しましょう。秩序を求める私ですが、破壊が目的ではないのです。」
やはり、そのようだ。こいつが今回の張本人と言うわけか。
「俺たちは、お前に許されて生きているのではない。こんな事をしでかしておいて、何を言うか!」俺は、そいつの言い分に猛烈に腹が立った。
「私は、お前の知るキュベレと同じく、評議会を構成する者の一人。そして、最も古い種族です。敬意を示しなさい。」そいつは冷たく笑ってみせた。
「お前たちのような未開な者たちも、いずれは人間型としてこの宇宙に包含されるのですよ。同じ銀河に生じた命、つまり同胞として存在を認めてもよいと言っているのです。」
俺の右肩に浮かぶボットから、タローが声を投げた。「もう我々を攻撃しないと、言うのだな。」
そいつはボットに視線を合わせた。「おお、お前がAIですね。見事な操船と打撃、そして采配でした。集束された重力子、光子、そして核分裂弾頭と、原始的ながら多彩な対処を見せてもらいましたよ。そうそう、お前に一つ聞きたいことがあります。」
「何を聞きたい?」タローの声は、怒りを押し殺しているかのようだ。
「小惑星に投げた重力子による打撃の強度に関して、最後の一発は強烈でしたが、あれは作戦でしたか?」
「そうだ!」タローが即答する。
あれっ? 嘘だよな。タローが嘘を吐くなんて、初めてじゃないかしら?
「最初はこの出力で限界と見せておいて、衝突コースを回避できる最後のタイミングで大きな一発を放つ。つまり私を欺瞞したと。」
「その通りだ。」
「ふうむ。」そいつは視線を俺に戻すと、ニヤリと笑う。
「そうではありませんね。おおかた、そこの変則的なキュベレの使徒が、土壇場でまた何かをしでかしたのでしょう。機械のお前が、どうしてそんな嘘を吐くのです?」
「お前を、悔しがらせようと考えて、な。」
今日のタローは、えらく感情的だな。まだ気が昂っているみたいだ。そう言えば、ソルビウトの里にある自動機械を統合してから、演算能力の向上と共に何だか性格まで変わったかも。
「ほう、これは興味深い。お前は機械なのに人間に隷属するのではなく、意志と感情を持ち、しかも人間と同等に振舞うのですね。お前にも今後の存在が許されるべきでしょう。」
そいつは、スタスタと俺に近寄ってきた。「私は、ウルト・ゴール。この宇宙を貫く神の種族の意志を守る者です。この星の人族、そして竜族とこのAIは認めるとしても、変則的なお前だけは、私にとって目障りこの上ない。」
「私の名前を聞き、その存在をお止めなさい。」
(続く)




