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その5 野焼きの弔い

カレンの治療が終わった。

血に汚れ、傷ついた甲冑を諦めて、カレンは旅に着用する編み上げブーツに厚手のローブを身にまとった。この甲冑は、里の鍛冶屋に持ち込んで、修繕してもらう必要があるな。


もう真夜中になろうとしている。これからどうしたものかと考えていたら、タローが伝えてきた。

「騎士団が、ここに向かっている。クールツ団長以下十名が、あと一時間ほどで到着する。」事情を話したタローが、騎士団に置いてあるボットを道案内に使って、彼らをここまで連れてくるらしい。


ならば、死んだ騎士たちを弔ってやるとしようか。

俺たちは、周囲から燃やせそうな木の枝を集め始めた。周囲から集めた木の枝を、水属性魔法で脱水して風属性魔法で乾かす。魔法が使える俺とクレア、ウォーゼルとビボウで、せっせと作業していたら、騎士団が到着するころには大きな薪の山ができあがっていた。


駆け付けた騎士団のクールツ団長は、気丈にも無残な仲間の死骸を見つめていたが、騎士の中には余りにも凄惨な有様に、目をそむける者もいた。この死体を見せたことで、この先の群竜の運命が決まったのかもしれないな、と後日の俺は考えたものだ。


乾かした木の枝を、井桁いげたに二つ組み上げる。

中心を空洞にするのは、火の吹き上がりを良くするためだ。

人の背丈ほどに組み上げたら、その上を平たく整え、何台かのボットがマニピュレーターで遺体を持ち上げて、それぞれの井桁の上に一人ずつ安置した。


クールツ団長が、皆を代表して別れの言葉を述べた。

終われば俺が団長に合図をして、この弔いの組み木の下に魔法でこしらえた小さな火球を投げた。


火は、乾かした枝に燃え移り、瞬く間に二つの井桁は高く炎を吹きあげた。

野焼きの弔いだ。


「山野に倒れた騎士の中には、弔いもなく捨て置かれる者達もいる。ジロー先生のお陰で、こいつらの魂は俺達がしっかりと見送ることができた。」クールツ団長は、そう言って目に涙を浮かべていた。そして傍では、カレンも涙を溜めてうな垂れていた。


 ◇ ◇ ◇


群竜の死骸の始末は明日にして、俺達は眠ることにした。

駆け付けた騎士から数名が名乗り出て、馬車の周囲を囲んで夜警に立ってくれた。

俺はカレンを伴って船に戻り、クレアは馬車で休むと言ってくれた。


俺の船の中、シャワーを浴びて出てきた俺は、操縦室のベッドに腰を下ろすカレンの肩を抱きしめた。「お前を失わずによかった。」


「死ぬのは怖くありませんでした。ただ、一匹でも多く道連れにしようと思いました。」俺に肩を抱かれたまま、カレンは言葉を吐いた。


「血みどろのまま旦那様にしがみついた私を、嫌いになられましたか?」何だ、クレアに言われたことを気にしているのか。


「お前は、よく戦った。お前に落ち度があったと、俺は誰にも言わせはしないぞ。」カレンをぐっと抱きしめる。


「お前は強い、そして常に立ち向かうことを俺たちに教えてくれる。戦うお前は美しい。お前は素晴らしい俺の嫁だ。」


カレンは、俺を求めてきた。

あの激しい戦いの後で、生きていることを実感したいのだ。その気持ちはよく分かる。


果てて、疲れに飲み込まれるように眠りに落ちた嫁を、俺は一晩中静かに抱きしめていた。

この、健気で脳筋の嫁を守る事ができて良かったと、心底から俺は思ったのだった。


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