魔人の力2
隕石雨を待ち受ける地上では、大型竜種が分散配置されていた。
ここは低緯度にある大陸の中心部、山々が連なり鬱蒼とした熱帯雨林がどこまでも広がっている。
数百頭が集結していた。成熟して、魔力も充実した大型竜種たち。
格子状に配置された竜と竜との間隔は、およそ百m。そして上空には、十機の大型ボットが、やはり均等に配置されて浮かんでいる。これならタローの指示が、ボットから周辺の竜にも届く。
「竜たちには意気込んで集まってもらったが、もはやこの星の未来は守られた。小惑星を弾くことができた上に、魔人の力が私の媒介変数に組み込まれていなかった。」タローの言葉も弾んでいた。
「嬉しい誤算というやつだな。だがここの環境は、この星の生き物全体にとって大切だ。できるだけ守りたい。」生き物係の俺にとっては、この熱帯雨林は失いたくないこの星の財産なのだ。
膨大な量の酸素と二酸化炭素の、その消費と放出が均衡しているこの星の貴重な大気の緩衝地域であり、菌類などの微生物から昆虫、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の巨大な生態系が構築されている。言わば、この星の多様性を支える「地球の肺」なのだ。
火球が地面を穿てば、木々は薙ぎ倒され、熱波による大火災も広がる。衝突によって舞い上がる塵、そして火災による大量の煤は、何年もこの星の成層圏に漂って、気候変動をもたらすだろう。それは何としてでも回避したい。
◇ ◇ ◇
「今や、最悪の事態は避けられた。決して無理はするな!」タローは、ボットを通じて竜たちに伝えた。
「来るぞ! 上空に障壁を張れ!」タローの号令と共に、地上の竜たちは一斉に頭を上げて空を睨む。超種族によるこの星への攻撃。迫り来る火球に対する、この星の生き物のこれは最終防衛線だった。
地上から百メートルほどの上空に、白く輝く対物理障壁が巨大な範囲で幾重にも展開された。
遥かな過去に、魔人と共にこの星の進化の頂点に君臨した大型竜種。プライドが高く、孤独を好み、群れ集うことをしない白竜と黒竜、その二つの竜族が、今ここに集結してこの星を守ろうとしていた。
「一番大きな隕石が、直径三百mほどだ。まずは、これをどこまで砕けるかだな。」タローがそう言って、大型ボットの重力子砲を集中しようとした、その時。
「あの大きいのは、こちらに任せて下さい。」またもや、ハルの声が伝わってきた。
気付けば、スルビウトを乗せた魔動機が、俺たちの船についてきていて、急速に舞い降りると火球の上空から接近していく。
そこで、また土属性の魔法を使う気か?
その位置で波動を放てば、脆くされて砕かれた大小の石や砂が巻き上がり、魔動機を下から襲うだろう。それはあまりにも無謀な行動に思えた。
しかし、魔動機から放たれたのは土魔法ではなかった。
魔力が作用しているのは確かだ。しかし、俺にはそれが何なのか判らなかった。「スルビウトは、何をするつもりだ?」
見守るうちに、火球を取り巻く空間が歪んだ。そして、その火球の落下速度が、徐々に遅くなっていく。速度の低下とともに、火球の赤熱していた光も薄らいで、やがて隕石は赤黒い光を放つ岩として空中に静止した。
何と! 魔人は、この直径三百mもの岩塊を、地面から数kmの上空で、時空魔法で空中停止して見せたのだ。
すかさずタローが確認する。「スルビウト、どのくらい持ちこたえられる?」
「このまま他に何もせずにおれば、小一時間と言ったところじゃのう。」魔人が、そう答えてきた。
「では、三十分を頼みたい。この岩は、あとで竜たちを退避させてから、この場に落とす。その間に、他の隕石を叩くぞ!」
タローからの指示で、障壁の下に浮いている大型ボットからは、目には見えないが隕石を砕く重力子ビームが、そして砕いた破片を蒸発させるレーザーの白熱の矢が、一斉に放たれた。
広がる濃緑色の大地。それを覆うのは、幾重にも重なった白銀に輝く巨大な盾。迫りくる赤熱した火球とボットとを結ぶ、無数の白熱の糸。
その数km上空には、赤黒く威容を誇る巨大な岩塊が空中で静止し、その黒い影を白銀の盾に落としていた。やがて、衝撃波を伴って火球の雨が盾に殺到した。
空間が、衝撃と地響きと光に満ちた。
永遠に続くかと思われたこの地獄も、実際には十五分ほどの攻防に終わり、急に辺りが静まり返る。
いくつかの隕石は盾を貫いたが、大きく速度を落として地面に落ち、小さな衝突孔を形成した。そして、竜たちの被害は皆無だった。
(続く)




