魔人の力1
小惑星から分離した複数の破片は、今や外気圏から熱圏に落ちつつあった。
大気が濃くなってきて、破片の持っていた固有速度には、大気との衝突による減速が生じ始めていた。
徐々に大気が濃くなってくると、破片が押し退け衝突する大気の分子が、圧縮熱を帯びてプラズマと化す。
破片は、火球となって落下を続ける。地上から見上げれば、見事な流星雨として観測されはじめたことだろう。
「平均で秒速20kmまで落ちたな。落下予測地点は計算通りだ。」タローは、上空から観測を続けながら、魔王国近くの地上から十数km、対流圏で待ち構える三隻の魔動機に、破片の位置情報を伝えている。
20kmとは、まだまだ早いな。これでは、数十秒で地表まで届く。
魔動機は、ボットが同化したことで移動性能が上がっているが、この対流圏辺りが高度の限界だ。
そして、横移動の速度は、例によって最大でも時速20km。ウィルの魔人号だけは、ホム爺の改造で少々速度が上がっていたが、それでも相手が秒速で降ってくる隕石では、これは止まっているに等しい。つまり、その場から迎撃するしかない。
タローによれば、大きな破片は幸いにして四つだ。残りの小さなものは、多くは大気中で燃え尽きるか、地表に落下しても数m以内との計算だ。もちろん、この大きさでも落ちた地表はタダでは済まないのだが、
外気圏から急速降下しつつ、タローは大気の底:対流圏でこれを待ち受ける三隻の魔動機と連携しながら、迎撃の瞬間を計っていた。
この船の重力子砲は、もう期待できない。頼みは、魔動機から発射される魔石だ。俺の操縦席の前面ディスプレイには、上空から俯瞰した隕石と魔動機の位置が示されている。
そして、一番大きな隕石が、魔動機の位置からは離れすぎていた。
「こいつは、魔動機では届かない。もう少し地表に近づいたところで、大型ボットからの重力子砲を集中するしかない。」少しでも地表の損害を減らすべく、タローは残りの二つの隕石に、迎撃の集中を指示したのだが、
「あの大きいのは、こちらに任せて下さい。」これはハルの声なのか? 声を聞いた途端、ディスプレイ上では一隻の魔動機が、急な加速を見せた。
何故、あんなに早く飛べる? 俺は魂消たが、「スルビウトの時空魔法だな。」タローの声で納得させられた。
魔人の時空魔法は、卵の落下を遅くするだけではなく、逆に早める事もできたのだ。スルビウトの乗った魔動機は、素晴らしい速度で一番大きな隕石を迎撃できる位置についた。
そうか、あのおそろしく鈍い、優雅な飛行体と思えた魔動機は、時空魔法が使える魔人が乗ってこそ、本領を発揮する乗り物だったのだ。
「撃て!」タローの号令で、三隻の魔動機から魔石が射出された。
魔素が凝縮された魔石は、着弾とともに根源開放の魔術が発動する。つまり小型の核爆弾として機能するのだ。
それまでも明るく輝きながら落下を続けていた隕石に、突如として白熱する光点が現れた。隕石は砕かれて、さらに細かな破片を飛び散らせる。これらがそれぞれプラズマをまとい、火球と化す。
辺りは光に満ち満ちて、周囲には恐ろしくもまた絢爛たる光景が広がった。
次いで二弾目の装填だ。大きさの残る隕石を、できるだけ叩いておく必要がある。
魔素の凝縮には、ある程度の時間がかかる。隕石の落下速度から考えて、もう一発が限界だろうと俺は思った。
ところが、スルビウトの船からは、まさに次から次と魔石が射出されているではないか! 強力な魔人の魔力がなせる業だ。
一番大きかった隕石は、たちまちのうちに白熱する光の中で粉砕されていく。
そして船は、その降り注ぐ隕石雨の直下に、すいと移動した。
そんな位置では直撃を受けるぞ! 俺が叫ぶ間もなく、ディスプレイにはその船を中心にして、大きな波紋が、まるで空間を揺らすように広がっていく。
「あれは何だ?」
「お前の方が詳しいのではないか、あれは土属性の波動だろう。」タローの声で、またもや俺は納得した。魔人は、魔動機の上空に、広く強力な土属性魔法を放ったのだ。
降り注ぐ隕石雨は、波動に触れてさらに細かな塵となり、次々に消滅していく。
「スルビウトめ、見せつけてくれるな。」タローは、いささか楽しそうだ。これが魔人の力ということか。
その時、ようやく残りの二隻の魔動機から、二弾目の魔石が放たれた。クレアもギランも、頑張ってくれている。
それぞれが命中して火柱が立ち、隕石が砕け散る。
「よ~し、想定より隕石のサイズを小さくできた。魔人の手柄だな。最終防衛線を発動と行くか。」
タローはそう言って、搭載艇をなおも落下地点に向けて加速させた。
(続く)




