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防衛戦3

機関室のドアを開けた。

ここはAIタローの本体と重力機関(エンジン)があり、そしてこの船の心臓部:融合炉が収められている、この船の最重要区画だ。


その融合炉は今までにない高出力を求められて、筐体きょうたいが喘ぐように振動していた。プラズマからの中性子が漏れ出ないように、温度に応じて重力場は自動的に強化される仕組みだ。それが今は限界に達している。


俺は、その中心部に魔力を絡めてみた。そう言えば、この船の中で魔法を使うのは、これが初めてだよな、多分。

強力な磁場と重力場のバリアで、中性子を抑え込んでいるのが感じ取れる。そして、つかまえた! 磁力の壁の内側に、荒れ狂う中性子を捉えることができたのだ。


俺は、魔力を徐々に押し込み始める。何度もギランと練習した、あの魔石に魔素を凝縮するときの感覚だ。

「タロー、どうだ?」

「重力場バリアの負荷が減少した。プラズマ温度が上がり始めた。」

「まだ持ちこたえられる、どうだ?」

「素晴らしい! 出力が一桁上昇した! この融合炉で、ここまでエネルギーが生成できたのだな!」


上手うまく行ったな。思った通りだ。

融合炉を、理論的に最大の運転環境に持ち込めたのだ。生成エネルギーは最大化して、おそらく副産物として発生していた魔素は、極限まで少なくなったろう。だが、俺たちには魔素は不要だ。


「タロー! 重力子砲の設計安全率は!」

「この船の全ての機器の安全率は、千%に設定されている。」

「と言うことは、重力子砲にこれまでの十倍のエネルギーを投入しても、耐えられるってことだよな。」


「理論上は、そうなる。しかし、融合炉から供給されるエネルギーは、一桁以上だ。重力子砲が、入力に耐えられない可能性がある。」

「お前に任せる! 耐えられると思う最大出力で、打ってみろ!」


「感情的で、且つ極めて曖昧で、命令として不適切だ。」

「悪かったな、俺は生き物係だからな。」

「だが、やってみるしかないな。失敗しても悪く思うなよ!」お前こそ、AIらしからぬ発言じゃねーか、と俺の方こそツッコミたい!


ドスンと、今までにない衝撃が来た。

そして、数秒が過ぎて「もういいジロー、融合炉の出力を下げる。操縦席に戻れ。」冷静さを取り戻したタローが、俺に声をかけてきた。


慌てて操縦室に駆け戻った俺が見たもの。目前の小惑星が白熱して割れ、破片を巻き散らかしながら、回転していた。

大きく二つに割れてれていく、そして大小の破片が俺たちの星に向けて、落下しつつある。


「ギリギリの瞬間タイミングで、軌道かららす事ができた。もう奴らには、修正ができないだろう。」

落ち着いたタローの声にも、安堵がにじんでいた。


「強力な一撃だった。奴らにしてみれば、不意を突かれたのだし、対応するには力不足だったようだ。お前の手柄にしておいてやろう。」


「時間軸の未来も見える奴らなんだよな、何故失敗した?」

「私たちを見くびっていたのだろう、そこまで本気で関わっていなかったのかも知れない。」

「油断したな。俺たちを甘く見やがって!」


「或いはこれは仮説だが、そもそも私たちの存在が、この世界では変則的イレギュラーなのかも知れない。つまり奴らにしても、私たちを未来観測の要素に完全には組み込めていない可能性がある。」


「ここには存在しないはずの重力子砲を、タローがぶっ放すからだろ。」

「私だけではないぞ。ジローが咄嗟とっさひらめきで、魔力を駆使して融合炉に理論上の最大効率を出させたりするのだからな。こんな予測不能の事象が積み重なると、奴らには未来が見えなくなるのかも知れない。」


なるほど、竜族の復活も、今回の魔人の登場も、奴らには因果律を乱す不愉快な出来事なのだろう。だからと言って、奴らの原理主義とやらに、こちらが付き合う必要はない。


ともあれ、辛うじて、第一防衛ラインは機能したのだ。

俺たちは、回転しながら軌道をはずれ遠ざかっていく、二つに分離した小惑星を見送った。


「重力子砲の自己診断回路に警告アラートが出た。自動修復を始めたが、しばらくの間 ビームは打てないと考えてくれ。」

やはり反動が来ていたか、だが悔やんでも仕方のないことだ。


俺たちは、小惑星がもう軌道を変えないことを確認すると、星に引かれ始めた破片を追って、大気圏に突入することにした。

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