迎撃作戦3
タローの作戦説明が続いている。
「まず、私とジローが搭載艇で宇宙空間に出る。そして、この星に落ちてくる小惑星を待ち構える。」
「この星を背にして、浅い角度で小惑星にビームを当てて、軌道修正を試みる。この外気圏の更に外の宇宙空間が、第一の防衛ラインとなる。」
演算能力が飛躍的に増したタローの模擬実験によれば、母船に比べて貧弱な搭載艇の重力子砲でも、小惑星の軌道を変えてこの星への落下コースから弾き出すことは可能であるはずだった。判り易く示される動画に、出席者の目は釘付けだ。
「小惑星は、打たれて割れるかもしれない。あまり大きな壊れ方をすると、これは手に負えなくなるのだが、破片程度であれば対処は可能だ。」
「破片はこの星の重力に引かれて、大気圏に落下するだろう。これを空中で迎え撃つのが、ボットを同化させて機動性を増した魔動機だ。」
魔石に魔素を凝縮させて打ち出すと、着弾して根源開放の魔術、つまり超小型核ミサイルによる核爆発を引き起こす。
「これが第二の防衛ラインと言うわけだ。」動画では、破片を魔動機が迎撃する光景が映し出される。
破片が大気圏に突入すると、切り裂かれる大気がプラズマ化して、地上からは火球として観察される。それを迎撃するこの画像は、まるで目の前で起きているかのように、精密で現実的だった。
「ここで砕かれれば、小さなものは落ちるうちに燃え尽きるが、大きなものは隕石として地上に届く。或いは低空で爆発すると、衝撃波を発して地表を叩くから注意が必要だ。
これを地上で防ぐのが、大型竜種の魔法障壁と、大型ボットによる重力子ビーム、或いはレーザービームの砲列だ。」
「これが最後の防衛ラインとなる。」タローが、説明を締めくくった。
動画では、ほとんどの火球は地上に達する前に燃え尽き、或いは障壁に跳ね返されて砕け散っていた。
しかし、いくつかの火球は白く輝く障壁を貫いて、地面に激突する。高く土煙が上がって、地面には小規模ながら円形の窪みが数多く穿たれた。だが、大火災が広がるわけではない。焼けた岩石が飛び散るのも僅かで、その被害は局所的なものに留まってはいた。
「おい、タロー! これで竜族に被害はないのか?」俺は、心配になって発言した。この様子では、竜族に死者が出かねない。
「竜族が張る障壁は巨大なものだ。だから、竜族は密集しているわけではない。従って隕石が竜を直撃する割合は、極めて低い。」
「だが、竜と言えども隕石が当たれば、無事では済まんだろう!」俺は食い下がる。
「確かに、死ぬこともありうる。しかし、彼らはそれでも良いと言ったのだ。」
「今、この星の大型竜種は、全て魔人の作った魔石を飲み込み、我らが配ったボットの魔素を浴びることで生きている。それに恩を感じて、彼らはこの星のために最終防衛ラインに志願してくれたのだ。」
そうだったのか、俺には返す言葉がなかった。
「今見せた動画は、大袈裟でもなければ、過小評価もしていない。計算結果からもたらされた、一番ありうべき光景だ。もちろん、第一防衛ラインで小惑星の軌道が変えられることを前提としているが、地表に円形の窪みをまったく作らぬ可能性はない。」そうタローは締めくくった。
そうか、現実は厳しいな。すべてが上手く行っても、地表にいくつか落ちる隕石は防げないのだな。
すると、スルビウトが手を上げて発言を求めた。「タローよ、儂の時空魔法は、お前の模擬実験とやらに含めておるか?」
「いや、時空魔法は私にとっては未知の媒介変数であるため、考慮に入れていない。」タローが冷静に返答した。
「ふふん、ならばよし。少しは事態を好転させる事ができるかもしれんぞ。まあ、期待せずにおればよいわ。」
明日の予定を確認して、会議は終わった。
今夜は酒を飲まず、軽い食事を済ませたら、体を清めて早めの就寝が吉と出た。
会議室から退出するときに、スルビウトがクレアに何やら耳打ちするのが見えた。




