迎撃作戦2
残された時間が、日々刻々と過ぎていく。
クレアとギランは暇さえあればウィルの里を訪ね、スルビウトの教えを受けていた。何度かは俺も付き合ったが、その甲斐はあったのだ。
クレアは、対象物の動きを遅くする停滞から、更に上位の停止の魔法も習得した。対象物の周囲の時間に作用すると言うのだから、これは凄いことだ。ただし、対象物の慣性質量と展開する範囲に応じて、魔素の消費量は増える。ちなみに、停滞より停止の方が高度なのは、言うまでもない。
今や俺の親友となったギランも、魔素の凝縮は俺並みにやれるようになった。そもそもキラのオヤジより魔力も大きかったギランだ、護国卿の血筋は伊達ではない。
クレアとギランは、共にスルビウトの下で学ぶうちに、打ち解けたようだ。かつてのクレアは、ギランを物足りなく感じて嫁ぐのを断ったそうだが、今では彼の誠実さと優しさを好感していた。
「私は、あの方を見誤っていたようです。今にして思えば、あの時に嫁いでも良かったのかもしれません。」クレアは、そんな事を俺に言った。
「それだけお前が大人になって、人を見る目ができたということだな。だが俺にしてみれば、お前がギランを振ってくれて良かったぞ。」
「まあ、旦那様。」クレアが抱きついてきた。そう言ってもらいたかったんだよね。
◇ ◇ ◇
衝突の前日の朝が来た。
小惑星は、順調?にこの星に接近し、正確に衝突コースを保持したままだ。残すところ300万km、手を伸ばせば届きそうな位置にある。速度は秒速33kmもあると言う。
このままだと、この星の一番大きな大陸の中央部に落ちる。大気によって減速するものの、それでも衝突時は秒速20kmとタローは計算した。
大陸中央部とは、実は都合がいい。
竜族に貸し与えていた大型ボットをかき集める際に、タローはその理由を説明せざるを得なかった。そうしたら一大事とばかり、大型の竜種が防衛のために集まってくれることになったのだ。
竜族の大型種 黒竜族と白竜族は、かつて魔人と共にこの星の頂点に君臨した最強種であり、その魔力は極めて高い。彼らは魔法で飛翔するので、空中にいるときは難しいが、地上からは強大な魔法を打てるのだ。
小惑星そのものの落下には、敵うものではない。しかし、破片が落ちてきた場合には魔法による物理障壁を展開して、地上への直撃を緩和することが期待できる。
そして破片が海ではなく陸地に降り注ぐのであれば、その大型竜種 合わせて千頭あまりを、地上に配置できるのだ。
◇ ◇ ◇
俺たちは、午後になって最後の作戦会議を持つ事にした。
今回は遠隔ではない、出撃の拠点となる魔王国の城にある大会議室に、一堂に会していた。
魔王様による魔人スルビウトへの歓迎の挨拶から、会議は始まった。
そうか、実際に会うのは初めてだったか。この腹の太い魔王様も、魔人の前では緊張を隠さない。魔人とは、魔族にとっては神にも等しいらしいからな。
返礼に、スルビウトが立ち上がった。
「魔王殿よ。歓迎の言葉に感謝する。そして、このような事態となったが、儂にはこの決戦の勝利が見えておる。」
「明日の戦いには、魔族と人族に魔人の知恵と竜族の力が加わる。この星に生きるものにとっての総力戦じゃ。そして、それは我らの生きる意志そのものの発露である。」
「必ず災いを退け、その後で改めて皆で美酒を酌み交わし、旨い卵を食べようではないか!」
この星の総力戦か、良いこと言うじゃないかスルビウト。俺もちょっと感動したぜ。卵は余計だったけどな。
そして会議ではいつもの通り、持ち込んだ大型ボットの画面から、タローが司会進行の役目を果たす事になった。
「明日の作戦を、もう一度確認しておこう。」画面の動画などを駆使しつつ、タローが説明を始めた。
(続く)




