迎撃作戦1
「と言うことになる。地表に落下させたら、私たちに未来はない。」冷静なタローの声が、憎らしい。
「手の施しようがないではないか!」キラのオヤジが、魂消た声を出した。
「そう、この星で待ち受けていたのでは、どうしようもない。つまり、この星に触れる前に対処が必要だ。」タローが言って、画面を切り替えた。今度はこの星と接近する小惑星を、遠くから俯瞰した画像だ。
「衝突コースにある小惑星を、搭載艇の重力子ビームで弾く。浅い角度でビームを打ち、小惑星の軌道を変えるのだ。僅かでも変えられれば、落下は防げる。」
画像が動いた。小惑星から遠くに位置する搭載艇から、ビームが小惑星の下を叩く。何度か小刻みにビームを当てるうちに、小惑星は徐々に軌道を変えて、この星をかすめてそのまま飛び去って行った。
「これで、衝突は避けられるんだな。」ウィルが喜んだが、タローは冷静だった。
「奴らが、これを観察していないという保証がない。軌道がずれたと分かれば、その場で修正してくる可能性がある。」
「またビームを打てばいい。」
「それでも、また軌道を修正してくるかもしれない。」
なるほど、それでは埒が明かないぞ。
「強引に落下させてくるのではないのか?」スルビウトが尋ねた。
「おそらく、彼らにもそれはできない。これだけの大きな慣性質量を一気に動かすのは、難しいだろう。だからこそ彼らは、手頃な小惑星を衝突コースに乗せ、時間をかけて徐々に加速させてきたのだと考えている。」タローが、また画面に動画を出して説明してくれた。
「お主の船のビームとやらは、もっと強力にならんのか?」
「残念だが、重力子ビームは最大出力の想定だ。これ以上の威力は出せない。」
「ふうむ、その時が来てみなければ判らんのう。」
「もう一つ心配がある。ビームで、小惑星を砕いてしまう恐れがある。」
タローは、動画を切り替えた。小惑星にビームが当たって、いくつかの破片がゆっくりと本体から分離していく。
「割れれば、どうなる。」
「破片に構ってはいられない。こちらは、大きな塊の対処に忙しいからな。つまり、破片はこの星に降り注ぐことになるだろう。遥かに軽微だが、地表に届けば何らかの被害が発生する。」
「地上から、この破片を迎撃する必要があるな。」
「ならば、我らの魔動機の出番じゃのう。あれは、強力な打撃力を秘めておる。」
「魔素を充填した魔石を打ち込むんですよね。」
「なんじゃ、知っておったのか。つまらん奴じゃ。」スルビウトは、ジロリとこちらを睨んできた。ありゃ、機嫌を悪くさせたかな?
「スロキューテニから聞きました。ですが、詳しいことは知りません。ご教授いただけますか?」ここは、下手に出てみた。
「そうか、知りたいか。ならば教えてやろう。」魔人の機嫌が直ったぞ。扱いやすい婆様で良かった。
「打ち出す魔石には、魔素を凝縮せねばならん。これは賢者にしかできぬことじゃ。この中では、儂とクレア、そしてジローじゃな。」なるほど魔素を詰め込める者は、限られることになるのか。
「ギランは魔力が高かったと思います。彼にはできませんか?」ボットを乗せて機動性を増した魔動機は三機ある。俺はタローと共に搭載艇で出撃するつもりだし、少しでも迎撃態勢を増強したい、と俺は考えた。
「この画面越しでは見極めがつかんが、以前の宴会で見かけた時には魔力は大きかったかのう。ならば習得できるかもしれぬが、」スルビウトはしばらく考えて、「あと二ヶ月ある。ギランは儂のところに来て、特訓をしてみるか?」と言った。
「願ってもないこと、是非お願いいたします。」ギランは張り切った。
「そうか、そうか、礼は卵で良いぞよ。」もしかして卵が狙いだったのか? でも卵で済むなら、安いものだよね。
「魔素の凝縮は、魔石を発射する直前でなければならぬ。詰め込んでも時間と共に緩んでしまうから、あまり多くは貯め置けぬぞ。」
なるほど、とすれば連続発射は難しくなる。
結局、ウィルの魔人号にはスルビウトとハルが、サホロ号にはクレアとホム爺が、そしてキラ家の魔動機には魔素の凝縮技術を習得できればギランとホムが乗って、降ってくるかもしれない破片に対処することが決まった。
迎撃で頼りになるのは、あとは大型の探査ボットくらいなものだ。外宇宙仕様なので、大きな重力子砲とレーザー砲を搭載している。ただ、大型ボットの残機は少ない。ここは、上位の竜種に貸し出している大型ボットを、一時的に搔き集めてくるしかないな。
竜たちには迷惑をかけるが、今は魔石を飲んでいるし、一日程度の魔素の供給停止は問題がなかろう。ただ、借りてくる理由をどう説明したものか、俺には悩ましかった。
(続く)




