模擬実験
キュベレの警告から、一ヶ月が過ぎていた。
魔人スルビウトの里にある自動機械は、既にボット経由で繋がって、タローの演算能力は飛躍的に高まった。本人が言っているのだから、間違いなかろう。
そして、タローは既に小惑星を見定めていた。太陽とは反対側から接近する、この星への衝突コースを持つ小惑星が一つ、見つかったのだ。
どうやら、火星の向こうの小惑星帯が起源らしい。キュベレの敵対勢力が、あの時に打ち出したのだ。直径は10kmほど。タローの推測は正しかった。
「今から二か月後にこの星に届く。この星の生態系を破壊するには、十分な大きさだ。」朝の連絡会議で、タローが報告した。
今日の俺は、三人の嫁を伴っている。南の里からはウィルとスルビウト、魔王国からは魔王様、そしてキラ侯爵と息子のギランが遠隔で出席していた。
「この星に落ちるまでの三ヶ月間、奴らはキュベレをどこかに隔離したわけか。」そんな事を、瞬時にやってのけたのだ、敵は。俺は今更ながらに、超種族の恐ろしさを感じた。
「そんなものが落ちてきたら、私たちはどうなるのでしょう。」サナエは怯えている。どんな結果になるかは、嫁たちにはまるで想像がつかないだろうな。
その質問にはタローが冷静に答えた。「まず爆風が、地上で吹き荒れる。地面にぶつかった衝撃は、凄まじいものになるからだ。風は、大木を根こそぎ吹き飛ばすくらいの強さだろう。そして、海に落ちれば津波が来るぞ。これも想像を絶する高さになって、地表を洗い流すだろう。」
「落ちた場所から遠ければ、生き残れるのでしょうか?」
「いや、残念ながら見込みはない。その後の大火災で、植物も動物もほとんどが死滅するからだ。」
「大火災の塵で、光どころか太陽からの熱も地表には届かなくなる、つまりこの星全体が何年も冬に閉ざされるということだよな。」それくらいなら、俺だって知っている。
「この塵が降り終わった後は、今度はおそらく星全体が温暖化して、長い夏が続く。植物が勢いを盛り返して、動物たちが再び姿を現すのは数万年後の話だ。最後には、また人類に似た生き物が出てくるかもしれないがね。」と、タローが続けた。
俺も付け加えさせてもらおう。「この星の魔素が、既に少ないことが問題だな。おそらく進化の過程で魔素が必須の魔人や竜種は、もう現れない。」
「壮大なやり直しになって、竜族や魔人のいない、奴らが好む星が生まれるのだ。」最後をタローが締めくくった。
「まるで、見てきたように言うではないか。」
「うん、スルビウト。俺の母星でも、過去に何度かの小惑星の落下があったことが判っていてね。どこの星でも繰り返し起きることなんだよ、これは。」
「私たちは、危ない星を見つけたら積極的に排除していた。母星ではできたことだが、私の搭載艇が一機だけでは無理なのだ。」
「この星だって過去に何度も落ちているはずだけど、今回はそれをキュベレの敵対勢力がわざとやるって話さ。」
「落下の模擬実験動画を作った。見るかね?」
俺は一度見ているから、知っているぞ。見せない方がいいかもしれない、と思っていたのにカレンが声を上げた。
「見ておこうではないか、どのような災害になるのか、知っておきたいものだ。」と、答えてしまった。相変わらず勇ましいな、この嫁は。その姿勢は評価したいんですけどね。
「では、お見せしよう。」タローが、画面いっぱいに動画を広げた。
漆黒の宇宙に浮かぶ青く美しい星に、岩石が回転しながら迫っていく場面だ。タローめ、恐ろしく精密に画像を作っていやがるのだ。これも、強化された演算能力の賜物か?
「このような岩が、毎日合わせて百トン以上も落ちてくる、と言ったら信じるかね?」タローは、なかば楽しそうに説明を始めた。
「ほとんどが塵と呼んでいい大きさだ。だが、たまには大きなものもある。そしてこれは滅多にない大きさの、直径10kmの鉄を主成分とする小惑星の場合だ。」
それは、見るも恐ろしいものだった。
大気圏を落ちるうちに赤熱した巨大な岩が、薄黒い煙を引きながら地表にぶつかる。たちまち土煙が高く上がり、衝撃波が周囲に広がっていく。
衝突地点では地殻が深くえぐれて、大規模にマグマが露出する。爆発で飛散した岩石は、灼熱して飛び散り、そして再び地上に降り注ぎながら、大火災を巻き起こしてゆっくりとその範囲を広げていく。
爆心地の周囲では、動物も植物も、地上にある全てが吹き飛ばされ、或いは瞬時に燃え上がった。山を燃やし、海を干上がらせながら、その死の波は禍々(まがまが)しく伝わっていく。
大火災は全球を爆心地の裏側まで広がり届いて、やがて火は収まるが、その結果この星は焼け焦げて、灰色の厚い雲に包まれて、宇宙に浮かんでいた。
先ほど勇ましい言葉を吐いたカレンを、俺は盗み見た。毛皮のせいで青ざめているのか判らないが、少なくとも口をポカンと開けて眼を大きく見開いて固まっている。
「こ、これは、私の剣技では、どうしようもありませんな。」うん、ちゃんと感想が言えるのは、褒めてあげたいよ。
(続く)




