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その2 知らしむべからず

ウィルの里に戻った俺たちは、ウィルの親父も入れて、ボットを経由した魔王国とのリモート会議に臨んだ。事実確認と、対応についての話し合いだ。


ウィルが経過説明を終え、次いでタローが補足をした。俺の義父である魔王様、王妃様とその皇子たち、そして護国卿のキラのオヤジとその息子ギランも、その緊張がボット画面から伝わってくる。


「魔人様のご降臨は誠に喜ばしい、だがこのような脅威があろうとは。」あの腹の座った魔王様も、口調が重い。

皆で相談した結果、迫り来る危機については拡散を禁じることとした。知っても仕方がないことは、広めるべきではない。


この南の里では、ウィルとその父のみ。魔王国では、今回の出席者に限る。人族のサホロの里では、俺は伝えるべき人物に思い至らなかった。


魔獣の侵攻なら兎も角、空から落ちてくる岩が相手では、里長や騎士団長に伝えたところでどうしようもないではないか。


親友のウォーゼルとビボウ夫婦は、どうしたものか。彼らも子沢山だ、言わない方がいいのかしら? 今回は、飛竜にも出番はなさそうだ。


俺の胸にしまっておくしかない。俺が軽率だったのだ。こんな大きな災厄を呼び込んでしまって、俺は大いに落ち込んだ。


「兄貴のせいじゃねーよ!」ウィルは慰めてくれるが、俺の気は晴れない。

「だから! ジローと呼べと、言っただろ!」ウィルに八つ当たりさせてもらった俺だった。


 ◇ ◇ ◇


サホロの里に戻った俺は、嫁たちだけに話して聞かせた。クレアは知っているのだ、他の嫁にも話さざるを得ないよね。

サナエは、とても怖がった。まあ当たり前の反応だな。


だが、カレンは違ったのだ。「そんな理不尽な行いがあるものか。目の前にいれば、私が叩き切ってやるものを!」瞳に怒りを含ませて言い放つこの嫁を見て、気落ちしていた俺は呆気にとられた。


こいつは恐れを知らんのか! 相手は五次元に展開する超種族だぞ、いくらお前の豪剣だとてかなうものではない。

まったく、獣人族は不屈の魂の持ち主だ。俺がカレンを抱きしめると、カレンも強い力で俺を抱き返してきた。俺は、勇気をもらった気がしたぞ。


そして気がつけば、いつもは気丈なクレアも挙動がおかしい。

「お前も、やはり怖いんだな。」俺は、クレアを抱き寄せる。

「はい、この子を無事に産めるのか心配ですが、実はそれだけではないのです。」

ん、どういうことだ?


「実は、この頃 魔力の通りが一様ではありません。こんな経験は初めてです。」

ふーむ、やはり身籠った子供の将来が心配で、心が乱れているのだろうな。と、俺はその時は思っていたのだ。


 ◇ ◇ ◇


魔人のスルビウトがウィルの屋敷に住みついて、今日は歓迎の(うたげ)もよおされる。三ヶ月後に破局が来るかも知れないが、今この時を楽しむのは生き物の特権というものだ。そして、小惑星への対処には、打つべき手は打ったのだ。


気分転換も兼ねて、俺は三人の嫁を連れて参加することにした。

ウィルの里は、俺が賢者として開眼する前後に数年間を暮らした思い出深い場所だ。俺の当時の賢者の師匠は、もうこの世にいない。魔法では兄弟子、剣では俺の師匠のゼーレは、今でもこの里で治療院を開いている。


その治療院を手伝うのが、ウィルの嫁で俺がこの星で初めてもうけた娘スセリだ。そもそも回復系の魔法が使える治療士だったから、今では子育ての傍らでゼーレを助けて働いている。


ウィルの屋敷の台所キッチンでは、そのスセリが率いて料理の準備が始まっていた。カレンはウィルの親父と剣談義に花を咲かせているが、残る俺の嫁たちサナエとクレアが台所を手伝っていた。


魔人スルビウトが、その様子を楽しげに眺めている。今日の主賓なのだが、本人の希望だとかでここにいる。何百年も一人でいたのだから、人恋しいのかもな。いや、今日の主役の一皿(メインディッシュ)、卵料理が楽しみなだけかもしれない。


その時だ。サナエの手が滑って、大切な群竜の卵がコロコロとテーブルを転がり始めた。端までいって落ちる。サナエが悲鳴を上げ、隣にいたクレアが気付いて慌てて手を伸ばす。だが、届く距離ではない。


と、テーブルの端から転げた卵が宙に浮いた。いや、空中で止まったのではない、落下が遅くなったのだ。ゆっくりと降下して、床に静かにポトリと着地した。


何があった? なぜ卵は落ちて割れなかった?

はたうなずいて微笑むスルビウトの表情が、俺には気になった。

(続く)

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