その1 滅ぼす手段
ボットから響くタローの声は、あくまでも冷静だった。
「この星を滅ぼす手段なら、見当がつく。おそらく小惑星の衝突を狙ってくるぞ。」
なるほど、そう来るか、確かにな。この星の人類を竜族も含めて根こそぎにするには、一番手っ取り早いかもしれない。おっと、タローと俺だけが納得していても仕方がなかったな。俺は深呼吸をしてから、周囲に説明を始めた。
「この星の周りには、まあ岩の塊と言ってもいいものが、沢山浮かんでいるんだよ。たまに落ちてきて、空で燃えるのが流れ星だ。だけど、大きな岩だと燃えきれずに、地上まで届く場合がある。大きさによっては、これが大災害を引き起こす。」
「落ちてくる速度にもよるが、直径数kmあれば地上の動植物に壊滅的な打撃を与えることが可能だろう。」タローが付け加えてくれた。
「空に浮かぶ岩を動かして、落とすと言うのか。」スルビウトは、目を剥いた。二体のホムンクルスも、そっくり同じ驚きの表情だ。なるほどホムたちの豊かな表情は、このスルビウトの種族が創造したからなんだな。俺は変に納得させられた。
「キュベレは、地球の衛星にするために月を運んだと、私たちに自慢していた。月の直径は3,500kmだから、それに比べたら直径数kmの小惑星を動かすなど、超種族にとっては簡単な事なのだろう。」
「ジロー兄貴の科学技術で、防げないのかよ。」
「どうなんだ。タロー!」丸投げした。俺には判らん、生き物係だからな。
「小さなものなら私の船の重力子ビームで、排除できる。だが、意図して落としてくるのなら、小さくはなかろう。まず、手に負えないと考えるべきだ。」
「少しでも見込みがあるなら、やってみようぜ。」ウィルは、いかにもウィルらしい事を言ってくれる。
「幸いにして、この星を取り囲むように外気圏に大型ボットを配置してある。今後は、接近する小惑星の監視に努めるとしよう。」タローが、すかさず返事をしたが、
「そのためには、私の演算能力のかなりの部分を取られる。この星の重力を織り込んだ小惑星の軌道計算は、少々厄介なのだ。」なるほど、能力が上がったタローでも難しいか。
「ならば、ここの自動機械をお前と接続すればよいではないか。そもそも、そのためにここまで調べに来たのじゃろう。」スルビウトが、そう言ってくれた。魔人はそこまで知っていたか。そうさせてもらえば、話は早いです。
俺たちは部屋を出て、この神殿の中心部に案内された。
馴染みのある制御装置が壁に収められている、いや少し大きいようだ。さっそくタローは、連れてきたボットを装置の近くに据えた。ここの自動機械と接続するのだ。これで、小型ボットは四機を残すのみとなる。
スルビウトはハルに何やら命じている。自動機械側に、ボットの同化を開始するよう指示をしたようだ。
「こちらも、浸潤してくるナノマシンを受け入れ、接続を早めるための自動修復手順を起動しよう。」タローも作業を始めた。
先日、サホロ号で同じことを経験したばかりだ。数日で、ここの自動機械の演算能力はタローのものになるのだろう。
◇ ◇ ◇
ここでウィルが、魔人に提案をした。「スルビウト様、こうなればここに留まる必要もありません。私の里にお移りになりませんか。里にもボットが置いてありますから、魔素に不足はありません。」
ホム爺もニッコリと笑って、魔人を誘った。「歓迎いたします。群竜の卵料理で、おもてなしを致しますぞ。」
「なに! 群竜を飼っておるのか! 大好物なのじゃ。」スルビウトは大喜びだ。やっぱり、魔人には群竜の卵だな。「これは、行かずばなるまい!」そう言って、魔人はアタフタと支度を始めた。
もしかしたら、あと三ヶ月でこの世界の終わりが来るのかもしれない。
長生きをしてきたこの魔人にも、死ぬ前には旨いものを食べさせてやりたい。
俺はそう思ったよ。
(続く)




