その3 総力戦
カレンに負けじと、俺も片手剣に風属性をまとわせて剣を振る。左手には魔法の盾を素早く展開した。
そしてウォーゼルの加勢を得て、飛竜の二匹はその逞しい体幹の働きで、敵の群れに血路を切り開き攻勢に転じていた。
群竜も、ただ狩られるわけではない。噛みつき、強力な爪で引っ掻き、バサリと軽く羽ばたいては尾が横殴りに襲い掛かる多彩な攻撃を仕掛けてくる。
だが、体格で勝る飛竜の敵ではなかった。噛みちぎり、圧し掛かり、強力な尾で打ちのめしては、群竜の群れを叩き潰していく。押し寄せる敵には、効果的に魔法障壁を駆使していた。
まさに肉弾戦だ。俺は、飛竜の本気の戦いを初めて目の当たりにしているのだ。
と、押し寄せる群竜の後方に、巨大な稲妻が続けざまに降り注いだ。
多くの群竜が、その轟音と共に次々に弾き飛ばされて、燃え上がりながら宙に舞う。搭載艇から降りたクレアが、怒りに燃えて渾身の広域攻撃魔法を叩き込んでいるのだ。
これで形勢は逆転したな。
ここ最近のクレアは、光属性を体得したことで、下位の属性魔法が一段と強化されてきた。昔は彼女との魔法戦を征したこともあった俺だが、今ではもう勝てる気がしない。
群竜の数が減ってきて、ようやく芋洗い状態の混戦が解消されつつあった。敵との距離がとれるようになった俺は、魔法剣士の戦闘スタイルに切り替えた。
右手で剣を振るいながら、左手の盾を消すと、火の矢、氷の槍、石の礫などを駆使して、敵を翻弄し始める。
敵の直接攻撃を受けなくなった分、確実に相手を仕留める速度が上がった。上空に展開されたボットから、タローはおそらく魔素を降り注いでいるはずだった。これで魔素の払底を気にせずに、戦いを維持できる。
傍らでは、カレンの剣の舞だ。重い大剣を常用する彼女には軽すぎるだろう片手剣を、闇属性を流して更に軽やかに振るっている。その剣技の素早さと美しさに、俺は今更ながら眼を見張った。
そして、状況を決定的にしたのが、上空にタローが展開したボット群だった。
それぞれのボットからは、目には見えないが光速の重力子ビームが放たれ、群竜の一頭一頭を正確に射貫いていく。
連射はできないが、命中するたびにボッと体に穴を穿つ。或いは頭部を消し飛ばされて、群竜は徐々に、しかし着実に数を減らしていた。
ついに、最後に一頭が残った。
カレンは、うおおと雄叫び(雌なんだけどね)を上げて殺到すると、剣を横一閃! 竜の首を切り飛ばした。
ボットのビームに任せておけばいいものを、戦いの最後まで、獣人族の俺の第三夫人は戦闘狂だった。まあ、気持ちは判らんでもないけどな。
ボットを操作するタローも、そこは心得ていて、最後の一頭はカレンに譲ったのだろう。
◇ ◇ ◇
俺は、肩で息をしているカレンのもとに歩み寄った。
「これで、ようやくお前を治療してやれるな。」
カレンは、くるりと振り向くと、血を逆上せた美しくも昂った表情で、「やはりお強い、流石は私の選んだ旦那様です!」倒した竜の返り血と、自分の血と汗でグシャグシャの毛皮のまま、俺に抱きついてきた。(続く)