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・・・ 評議会法廷

「容疑者を検挙した当該恒星系の管理者キュベレ、その容疑者二名の直属の宗主(そうしゅ)にして、これを弁護するウルト・ゴール。双方の意見陳述は終わった。これより陪審の者たちから、判決への意見を求めたい。」評議会の代表者が、(おごそ)かに告げた。


円卓を囲んで人の形をした揺れる影、しかし代表者の本体はここにはない。五次元展開(エンライト)を果たした人間型超種族(ヒューマノイド)によって組織される評議会。その筆頭種族の長老でもある彼は、法廷が設営されたこの時空間にその存在の一部を投影しているにすぎなかった。


評議会の代表者ともなれば、多忙の身だ。この法廷を維持しながら、いったいいくつの仕事を同時にこなしているものやら。彼と同じ種族に属するキュベレは、そう考えて溜息を漏らした。


そのキュベレは、存在主体をこの時空間に置いている、いわゆる生身(なまみ)での出席者の一人だ。そして、容疑者の弁護人として名乗り出たウルト族のゴールもそうだ。ともに他の出席者と共に、机を囲んでいる。


但し、生身(なまみ)とは言っても、三次元生物の目からすれば、輪郭が揺れ動く体が、空間に浮かんでいるように見える。他の次元にも同時に属しているためだ。


そして容疑者の二人は、勿論のこと生身(なまみ)であり、彼らは揺れ動かずに明瞭な人型を見せている。他の時空への展開を許されず、この時空間に拘束されているのだ。容疑は、地球現地人類の殺人未遂であった。


この二人はウルト族を宗主に持つ、つまりウルト族によって展開(エンライト)を果たした従属種だ。彼らもそしてウルト族自身もこの評議会に所属するが、キュベレたちとは大きく異なる点がある。


キュベレたち現在の評議会の筆頭種族は、その進化の過程で自らが生み出した人工知能:超AIと融合することで展開(エンライト)を効率的に成し遂げた。しかしウルト族とその従属種は、更に遠い過去から長い時間をかけて有機体の進化のみで展開(エンライト)に辿り着いた、この銀河でも最古参の人類種なのだった。


評議会は、過去にはウルト族とその従属種を中心に構成されていたと言う。しかし、新興勢力たるキュベレの種族が、機械力を自らの進化に利用することで急速にその地位を高め、今や総合的な能力ではウルト族を遥かに凌駕するに至った。評議会内部での力関係(パワーバランス)が変わりつつあるのだ。


今回参加している陪審員は二名、遠隔出席(リモート)の彼らもまた、異なる進化を辿った人類型超種族(ヒューマノイド)であり、法廷はこれで出席者の全てだ。裁判の場として極めて小規模なのは、評議会にとっての本件の重要性がそれほど大きくないからである。


 ◇ ◇ ◇


代表者の問いかけに応えて、揺らぐ人型の影:陪審員Aが述べる。「地球人類ジローの殺害未遂容疑については、容疑者の殺意は明白である。この直接的かつ物理的な干渉行為は、明確に評議会規約に違反する。ただ、我らには感知できない手段によって、結果として被害者はその死を免れた事実がある。よって被告は禁錮刑の有罪、当該恒星系への今後の立ち入りを禁止した上で、刑は執行猶予付きの判決が妥当である。」


陪審員Bも「私も全く同意見だ。」とだけ言った。


「検挙人が指摘した当該惑星の当該地域への地殻構造への干渉、それに伴う現地動物群の氾濫誘導の疑惑については、どう考えるか。」加えて代表者が陪審員に(ただ)した。


「状況証拠に過ぎず、立証は困難と判断する。」と、陪審員A。

すると陪審員Bも「私も全く同意見だ。」とだけ言った。


代表者の影は、法廷をぐるりと見渡したようだ。「私を含めた評決権限者三名のうち、二名の意見が一致した。よって被告は有罪とし、今後の当該恒星系への立ち入りは禁じられる。また被告を禁錮刑に処するが執行猶予を付するものとし、その期限は評議会規約に照らして追って通知するものである。」

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