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その5 卵の供物

ここで、キラのオヤジが魔人の前に進み出た。

「魔人様、私の家系は、いただいた加護を継承して『竜の守り』を召喚できます。」そう言うと、懐から群竜の卵を一つ取り出してみせた。

魔人の反応は予想外だった。何と! 突進(ダッシュ)して、キラの手から卵を受け取ったのだ。


「おお、これは! 大好物なのですよ。実物を見るのは、何年振りでしょう。」

これまでの魔人の威厳が吹っ飛んでしまったな。この喜びようには、俺たちも驚いた。

「よ、喜んでいただければ、何よりです。」キラのオヤジも、魔人の勢いに少し引いていた。


「野生化していた群竜を、飼い慣らしました。卵も、肉も、美味しくなって、我が家では牧場を大きくしているところです。」

「そうですか、それは、それは。」魔人は、舌なめずりしそうな様子だ。


やはり魔人も生き物だったか。魔素だけで生きていけるとか聞いた覚えがあるけれど、食べ物への執着は、ちゃんと残っていたのだな。生き物係の俺としては、少し魔人が身近に感じられて嬉しいぞ。


ウィルが俺に向き直る。「ジローの兄貴! キラ殿と相談していたんだ。兄貴のストレージに、魔人様専用の場所を作ってもらって、肉や卵をお供えしたいんだが。」


えっ、魔人の世界からでも、俺のストレージには手が届くのかしら? 疑問を感じた俺は、思わずキュベレを見やる。


意を察したキュベレが言う。「大丈夫よ、あの亜空間は時間も流れていないから、いつどこの並行した時空からでも繋がるわ。もちろん魔力が必要だけど、このスロキューテニにはその心配はいらないものね。」


「今の牧場の生産量ではいささか些少ですが、まずは卵を一日十個ほどお供えしたく、ゆくゆくは肉の生産も軌道に乗ることと考えております。」ようやく立ち直ったキラのオヤジだったが。


「おい、待て、キラ殿。」そう言って遮ったのはタローだ。「ここは向こうの一万倍の速度で時間が流れているのだ。こちらでの一日は、向こう側では数秒だ。そんなペースで送ったら、いくら頑張って取り出しても、ストレージが卵で溢れてしまうぞ。」なるほど、確かに。まあストレージの中は時間経過がないので、賞味期限もないんだけどね。


「ああ、溢れんばかりの卵とは! 何と幸せな事なのでしょう。でも、確かに多すぎるようですね。」魔人は、まだ興奮が続いている。


「キラ侯爵家には、常にストレージの中に卵を入れておくこととして、魔人様が使われた分だけ補充するのは如何でしょう。」結局、ホム爺のこの提案でけりがついた。


俺は、スマホを取り出して魔人の写真を撮り、ストレージのユーザー登録を完了した。これで魔人は、いつでもキラ侯爵家が捧げた卵や肉を受け取れるわけだ。

「なるほど五次元ポケット、キュベレが使徒に与えた贈り物(ギフト)ですか。便利なものですね。」魔人は喜んで、魔族からの捧げものを受け取るようだった。


◇ ◇ ◇


いよいよ、魔人たちを送る時が来た。

魔人は、二人のホムに話しかけている。ホム爺とキラ家のホムは、このままここに残ることを魔人が認めたようだ。


「お前たちは、これからは魔族を助けて働きなさい。お前たちには、この星に残していく全ての私たち装置への接続権限アクセスライツを与えましょう。お前たちの判断で、この星に住むものたちのためにこれを使っても構いません。」


「キュベレの使徒ジローには、私から差し上げるものがありませんね。代わりに、役立つかもしれない知識を授けておきましょう。」

へえ、何を教えてくれるのかな? ちょっと期待してしまう。


「貴方は、あの階段の愚者(スケアクロウ)を倒したと、ホムから聞きました。根源開放の魔術を使いましたね。流石は賢者です。」

はあ、その通りです。倒す必要はなく、踏み越えるだけよかったのだと、後でホム爺に嫌味を言われましたけどね。


「あのような高濃度に魔素をたくわえた対象物は、同じ方法で破壊できて、重い元素の質量を解放できるのです。」

はあ、だから何? ただ踏みつけて進むだけで良かったんですよね。


「あの召喚獣の魔素を溜め込む力。私たちはそれを応用して、貴方も知っているあるものを作り上げました。」

えっ、俺も知ってるって? 魔素を溜め込むといえば、「魔石のことですか?」そうか、魔石はあの銀色のスライムに学んだものだったのか!


最大充填フルチャージの魔石を、魔素を凝縮した状態で打ち出せば、着弾した場所で質量を解放させることができます。」

ええっ! それって超小型の核ミサイルってことじゃねーの。タローが言っていた魔石の射出機構って、このために存在したのだな。これは、とんでもないことを聞いてしまったぞ。


◇ ◇ ◇


送還の時が来た。

「お別れです、ご主人様。」

魔人が頷く。ホム爺が泣きそうな顔で印を結ぶと、魔人スロキューテニと二十人の子供たち、そして八人のホムの姿は消えうせた。

俺も、これで長年の肩の荷がおりた。横では、ウィルも感慨深げだ。17前にここに来て、今ようやく念願がかなったわけだ。


「じゃあ、私も行くわね。」毎度、用事が済めば、すぐ消える奴め。

「女神様、これで私たち魔族も、少しは魔人様への恩返しができたような気がします。有難うございました。」ウィルとキラのオヤジが、最後の礼を言う。


「キラ侯爵、よかったらあの卵、私もストレージから取り出してもいいかしら。あんなに魔人が喜んでいたんだもの、食べてみたいわ。」

「はあ、どうぞ。いつでもお持ちください。」

「そう、嬉しいわ。」そう言い残して、キュベレは見えなくなった。


この超種族も生き物だったか。魔人と同様に食べ物への執着を見せた女神が、少し身近になった気がした。


卵が取り持つ(えにし)か。これはギランの手柄だなと、俺は考えた。

(魔人編 了)

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