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その2 判読

復元された文字らしきものが、ボット画面(ディスプレイ)に大写しにされた。この場でこれを読めるのは、ホムだけだ。


「ところどころ不明な部分もありますが、大筋で理解ができました。」搭載艇にいるホムが、読み取った内容を披露し始める。


「我々は、二百名余りで出発した。」とあります。

「魔素の不足と食料の確保に苦しみ、最初の冬の厳しさで半数を失った。」

「二度目の冬を迎える前に、この洞窟に辿り着いた。」

「しかし、満足すべき魔素量ではなく、しかも地震による洞窟の崩落におびやかされ始めたとあります。どうも、追いつめられた様子ですな。」


俺はため息が出た。「そして、魔人たちは最後の手段をとったわけだ。」

「火山活動に阻まれて、この世界を諦めたのだな。」タローが、冷静(クール)に言葉を継いだ。


「この数字が示すところが、ホム爺が向かった、ご主人様たちがおられる世界でしょう。魔人の技法を使えば、私にも(ゲート)を開けるはずです。」とホムが言う。


もはや魔人は、この世界にいないらしい。そして、彼らが渡った世界を繋ぐのが可能となれば、俺たちは大急ぎで魔人の里に集まろう。眠れる魔人の子達を、大人たちの元に送り届ける時が来たのだ。


 ◇ ◇ ◇


俺たちは、搭載艇で魔人の里に向かった。

例の白い塔を頼りに、地下深くに船を降下させる。船を降りた俺たちは、中央神殿前の広場に集まった。


もう一人のホムが、俺達を待っていた。キラ家のホムをあの洞窟に向かわせる前に、タローが念の為にもう一機を起動して、ここに待機させておいたのだ。二人のホムは、さっそく手の平を合わせて記憶更新(アップデート)する。


キラのホムが進み出る。「では、さっそく試してみましょう。魔人の子らを起こすのは、その後ですな。」ホムの頭の中には、もう例の数字があるらしい。目を閉じると次元の魔法を念じたようだ。


と、目の前に輝く(ゲート)が出現した。その向こうに緑の草原のような光景が見通せた気がした。だが、すぐに輝きは薄れ、門はフッと閉じてしまった。門が開いていたのは、ほんの数秒だった。


フウと大きなため息をついて、ホムが印を解いた。肩で息をしている。

「どうした、ダメか。」キラのオヤジが問いかけると、ホムは驚いた顔のまま振り向いた。本当に表情の大げさな奴。


「とても重いのです。私には、門をこれ以上保持しておくことができませんでした。ゴーレムやスライムの召喚とは、比べ物にならない抵抗を感じます。」

ふーん、五次元座標にもいろいろ違いがあるものなのか?


「お前に無理ならば、私ではますます届かぬな。ホムの魔力を使い果たすとは、思いもしないことだ。ホム爺は本当に、この一瞬で門を潜ったのか。」キラのオヤジの疑問は、尤もだった。


「ホムよ、洞窟の奥までどれくらい潜ったのだ?」ここで、タローが尋ねる。

「水深は50mといったところですかな、地上の六倍ほどの水圧を感知しておりました。」と応えたホムが、またもや大袈裟に驚いた顔で「あっ!」と叫んだ。


「そうでした、水の中にいたのでしたな。とすれば、あの場所で次元の扉を開けたなら、あっという間に水圧で押し出されたことでしょう。」

なるほどホム爺は、向こう側を確認する余裕もなかっただろうな。と俺は考えた。


「ご主人様に会いたい一心で、扉を開いてしまったのでしょう。ホム爺が戻らなかったことを知らなければ、私もそうしていたに違いありません。」ホムは、がっくりと肩を落とした。


 ◇ ◇ ◇


いずれにせよ、これでは魔人の子らを送還するどころか、向こうの様子を伺うこともできない。手詰まりだ。


困った俺は、十数年前の出来事を思い出していた。

魔人の子らの存在を知って悩んだ俺たちは、この場に女神キュベレを呼んだのだ。


ウィルに声をかける。「あの時のキュベレは、『魔人の行方は、自分の目で確かめろ。』と言ったよな。」あの時にここにいたのは、俺とゼーレ兄とウィル坊、そしてホム爺とタローだったっけ。


「女神は、魔人の行方を俺たちに知らせることはしなかった。だが今、俺たちは何とか辿り着いた。一応、自分の目で確かめたことになる。」


「女神はいつも、指図はせず見守るだけだ。私たちが、自分の考えで行動するのが大切なわけだ。とすれば、もう一度ここで話を聞いてもいいのかもしれない。」俺の考えを、タローが代わりに言ってくれた。


どうせ、このままだと撤収せざるを得ないのだ。

俺はスマホを取り出すと、キュベレに向けてメールを打った。お時間があれば、お越しいただきたくと、いつもの文面だ。


しばらくして、いつものように神々(こうごう)しく女神キュベレが姿を現した。

(続く)

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