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その2 湖の底

さっそくタローは、このサホロ号を北の山に飛ばした。そして今日で二日目、魔動機はあっさりと発見された。タローの言った相互連携機能とやらは、価値があったのだ。


俺は治療院の自室で、ウィルとホム爺は南の里に、キラ侯爵とホムは魔王国にいて、ボットを介した遠隔会議(リモート)でタローの説明を聞いている。


「岸辺からかなり離れた湖底に、十機揃って沈んでいるのが感知できた。整然と並んでいるぞ。」そう、タローは説明した。


タローは搭載艇から探査ボットを吐き出して、青く澄んだ湖水に沈めた。徐々に潜らせて、水深30mほどで湖底に到着するのを、俺たちは画面で確認(モニター)していた。ここまで降りれば、届く陽の光はほんの僅かだ。


ボットが投げた探照灯(サーチライト)に、薄暗い湖底にひっそりと並ぶ魔動機が浮かび上がって見えた。


「船内は浸水していて、自重が増している。それに魔素量の不足で、このままでは浮かないな。現地にいるサホロ号の魔石は最大充填だ、魔石を交換してみよう。」


タローによれば、魔動機には魔石の射出機構があるらしいから、交換作業自体は簡単に進むのだそうだ。こちらは一機、湖底には十機だが、均等に割り振って湖底に沈む船の魔石を置き換えた。タローの計算では、浮かぶくらいは可能らしい。


 ◇ ◇ ◇


魔石の交換を終え新たな動力源を得た船は、揃ってゆっくりと湖面に姿を現した。タローは、船をそのまま湖水から数mまで上昇させる。内部に侵入した水をザアザアと吐き出しながら宙に浮かぶ十隻の魔動機は、なかなか壮観だった。その機体表面は、長年の湖底の土砂の堆積で汚れ、茶褐色に染まっていた。


おおかたの水を吐き終わった船を、タローはそろそろと湖の岸辺に移動させる。

「船内の水を排除した。これからは船内を乾燥させながら、ナノマシンによる各部の清掃と修復を進める。外側の汚れは、私のボットで清掃作業を開始する。」


これは俺たちも、現地へ集まるべきだろうな。

俺の提案に、皆が賛成した。特に二人のホムンクルスは、かつてのご主人様への期待が表情に現れていた。だが南の里は遠く、魔人号では北の山まで時間がかかり過ぎる。


「俺の船で迎えに行く、待っていろ!」俺は急いで、搭載艇でサホロの治療院を出発した。


 ◇ ◇ ◇


俺たちは小一時間で現着した。

間もなく「よーし、とりあえず船内に入れるぞ。」作業を進めていたタローの声で、俺たちは手分けして魔動機に乗り込む。

船内は湿っぽいものの、荒れてはいない。水浸しだったが、内部機構は五百年経っても死んでいないらしいから、魔人の技術はたいしたものだ。


乗り込んだ船の稼働記録を調べていたタローは、例のメールを送信した記録をみつけた。「これから地下に潜って魔素の濃い場所を探す、か。その後に、魔人たちが船に戻った形跡はない。最後の目的地に向けて、ここから旅立ったのだな。」

だが、魔人たちの行方への手掛かりは、とうとうその日は見つからなかったのだった。


次の日の朝が来た。

湖畔から青い水面(みなも)を眺めていた俺は、ふと緑の木々が繁る中の島に目を止めた。そう言えばあそこは調べていなかったな。中の島は湖の一部だと考えていたし、そもそもあの島は小さすぎる。


眼を横に移せば湖の北に(そび)える山は、頂上が崩れたような形だ。あれは溶岩ドームだろう。あのような山体を作る溶岩は、粘り気があって流れにくい。そして、下から押し上げる力で、時には割れて崩れて山体崩壊(さんたいほうかい)を起こす。その溶岩が熱いままだと、それは火砕流(かさいりゅう)ということになる。


多分、あの崩れた方向に火砕流が走ったのだろうと考えたところで、俺は思いついた。その火砕流が、川をふさいだかもしれない。その川は、行く手を塞がれてやがて湖を作ったのかもしれない。


魔人がここに来た頃は、湖などなかった。川の(ほとり)に置かれていた魔動機を、()き止められて徐々に水位を増した川が、湖と化してこれを飲み込んだのだ。そして、なおも拡大する湖は、近くにあった単独峰の麓を飲み込んで中の島とした。


あの中の島は小さすぎて、探索対象ではなかった。

だが、魔人が来た頃には、あの島は川を麓に流す小規模な独立峰だったのだろう。独立峰の多くは成層火山だ、マグマが上昇してできたあの山には、魔素を噴き出す洞窟が存在したのかもしれない。


俺は、この思い付きを頭の中でタローに伝えた。

「なるほど、魔動機が整然と並んでいたのも、そうして水没した結果であれば(うなず)ける。中の島は盲点だったな。」


さっそくタローが、探査ボットを中の島に向けて飛ばすことになった。

(続く)


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