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その2 戦闘狂の嫁

急行する船の中で、タローが状況を説明してくれた。

「商隊が、多数の敵集団に襲われている。いまから15分前の事だ。私は見たことがない生き物だが、恐らく以前ウォーゼルが話していた群竜だろう。」


商隊には、タローがリモートで動かす中型ボットが同行している。馬車を牽く馬代わりだし、偵察もこなす役割がある。


このボットは、外気圏に浮かべた中継機を経由して、リアルタイムでタローと繋がっているから、船のAI:タローは瞬時に現地の状況把握ができる。

しかも、感覚共有子機が俺の脳髄の下に埋め込まれているせいで、俺とタローは常にやり取りができるのだ。


「群竜だと! おのれ、蹴散らしてくれる!」いつもは温厚なウォーゼルが、操縦席のディスプレーから吠えた。あいつは、この船の後ろにある特別室にいて、そこに置かれたボット経由でタローの話を聞いているのだ。


「カレンが怪我をしたと言ったか?」

「うむ、騎士の一人を庇って、肩を噛みつかれた。片手が使えないので、剣を振るうのに難儀をしているようだ。」


カレン愛用の武器は、両手持ちの大剣だ。これに闇属性をまとわせ、剣速も素早く振り回して、相手を圧倒するのが彼女の流儀なのだ。片手では、俺が贈ったあの重い大剣を思うように振れまい。「間に合ってくれ!」俺は、心の中でそう念じていた。


クレアは緊張を込めた眼で、そんな俺をキッと見つめてきた。クレアにとって、カレンは一緒に育った心の友だ。その友の危機に、この嫁の沈黙の中には激しい怒りがあった。カレンを傷つける敵は、容赦しない。その決意が、ビリビリと伝わってくる。


「あと2分で現場に到着する。ウォーゼルはジローを乗せるなら、外に出る準備だ。その後に、私はボットを射出して援護する。」タローの指示が飛んだ。


「ジローよ、エアロックの横に出るから、私に飛び乗るのだ!」ウォーゼルは、気がいているようだ。今はまだ早い、この船は最高速度で飛んでいるから、とても飛竜が追い付ける速度ではない。落ち着いて、現場に着いてからにしてくれよ。


「現場上空だ、行動開始!」タローの合図で、俺はエアロックを開いた。

ここは大気圏内だし、十分に高度が下がっているから気圧の違いもない。エアロックの内側と外側の扉が同時に開くと、もう外には飛竜が浮かんでいた。


俺はウォーゼルの両肩に足を乗せ、首に跨ると、彼の頭から生えた両の角に手を置いた。いつもの俺の騎乗スタイルだ。

「いくぞ!」ウォーゼルが急降下する。振り落とされまいと、竜の首に体を密着させた。


見下ろす形になった商隊は、野営をしていたのだろう。

暗闇に赤々と燃える焚火を中心に、馬車を背にしてビボウとカレンが右と左に分かれて、迫る敵から馬車を守っていた。


群がる敵、あれが群竜なのか。数えきれないほどの個体数だ。

他に二人いたはずの騎士の姿は見えない。ビボウは、その太やかな体で近づく敵をなぎ倒し、カレンは片手で大剣を振るって敵を退けていた。


とたんに周囲に光が満ちた。

既に夜を迎えていたが、タローが上空にありったけの探査ボットを放出展開させて、戦闘現場を明るく照らしたのだ。


ウォーゼルは、彼の妻ビボウの横に着地するや、目前の敵に向けてブレスを吐いた。バタバタとぎ倒される群竜。これで少し時間の余裕が生まれたな。


ウォーゼルから飛び降りた俺は、肩から血を流しつつも片手で大剣を振るう嫁のカレンの横に立った。抱きとめたカレンの毛皮からは、血と汗が匂い立っていた。


「来てくれたか、旦那様!」カレンは持っていた大剣を置くと、「片手剣と盾を所望しょもうする!」と叫んだ。

「お前の治療が先だ!」と言ったが、血走る眼でギロリと睨まれる。


「今は時間が惜しい、まずは敵の数を減らす事です!」そう言い放った目には、爛々(らんらん)と闘気が燃えている。おお、戦闘モードの獣人カレンだ。これは逆らわない方が身の為だな。


俺はストレージから素早く片手剣と手ごろな盾を取り出すと、怪我をして握力を失った嫁の左手に盾を装着してやった。


片手剣を利き腕に握ったカレンは、

「こんな軽い剣で戦うのは、久し振りだ。」ニンマリと不敵に笑うと、「切り込むぞ! 旦那様!」と言うや、剣を闇属性の波動で鈍色にびいろ励起れいきさせた。


猛然と正面の竜に襲い掛かり、これを切り払う。いつもは見せない、片手剣による軽やかで鋭い剣技。荒ぶる美しき鬼神。

こいつめ、俺の嫁は相変わらずの戦闘狂だった。(続く)


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