その4 捜索談義
キラ侯爵邸に到着だ。
屋敷では、キラ侯爵の家族が全員で俺たちを迎えてくれた。ギランの傍らには、執事を気取ったホムも立っている。
ギランは長兄だと聞いていたので、もう一人の若い男は弟か、初めて見る。そして笑顔が可愛い娘は、妹と言ってたな。彼女とは、タダシと行く牧場でいつも会っていた。侯爵夫人は、ふくよかで品があり愛想もいいが、しっかりとキラのオヤジを尻に敷いていそうな貫録があった。
一刻も早く群竜を見に行きたい様子のタダシ、早く俺たちに群竜を見せたいギランだったが、侯爵夫人に朝のお茶を誘われてしまっては、これは断るわけには行くまい。
流石に侯爵家だけあって、立派な応接室に通されて豪奢な椅子に座らされると、召使が香り高いお茶を入れてくれた。キラのオヤジによれば、広く魔王国内で愛好されている侯爵領産の銘品なのだそうな。
会話のネタに困った俺は、搭載艇の中で話していた魔人の船の話を、キラのオヤジに振ってみた。
「はい、ウィル殿からも聞いておりました。魔動機を使えば、他の魔動機の存在を探知できる。かつて魔人が乗り捨てざるを得なかった船を、探索できるかもしれないと。」
なんだ、キラのオヤジも聞いていたのか。では話が早いな。
「ですが、魔動機はホムンクルスが動かすしかありません。キラ侯爵家もウィルも、ホムたちはお忙しいのでしょうね。」俺は、考えていたことを口に出した。しかも、魔王国もウィルの南の里も、探索区域となる北の火山地帯とは距離が離れているのだ。
「サホロの里にも、魔動機があれば良いのですがね。」そう言ってみた。
得たりとばかり、ギランの後ろに立っていたホムが、満面の笑顔で一歩前に出た。
「標準仕様の魔動機では、高度が稼げず、速度も遅いのです。ここはひとつ、タローにボットをもう一機ご提供いただけないでしょうかな? 魔動機そのものは、魔人の里にあるものを喜んで差し上げますが。」
やっぱり、そうなるか。まあ、覚悟はしていたけどな。俺は頭の中で、タローに相談した。
「どう思う?」
「止むを得んな、しかしこれで小型探査ボットの残機は五機になる。これ以上の供出は避けたいところだ。」
「分かりました。俺も、眠れる魔人の子らを助けたい。ご協力しますよ。」と言って、横に連れて来ていたボットに声をかけると、ボットにタローの顔が浮かんで現れた。
「では私の船から、小型ボットを一機、ウィルの里に向けて射出しよう。向こうで魔動機を一機用意しておいてもらうよう、私からウィルとホム爺に連絡しておく。」
キラの奥様とギランの弟と妹が、驚いた顔をした。キラとギランは群竜戦で共に戦った仲だ、タローの正体は知っている。しかし、この家族には初めての経験だったようだ。
「まあ、これは何でしょう? 人族の魔法なのですか?」
「魔法ではありません。科学技術といって、魔力がない人族でも使える機械なのですよ。」
「キカイとは、何でしょう?」
「何かの仕事をさせるために、人間が作った仕組みの事ですね。」
「中に、人が入っているのですか?」
「いいえ、この機械は私の船と繋がっていて、船には私の兄貴分の機械があるのです。」そろそろ、このお馴染みの説明も、口に出すのが億劫になってきたな。
キラのオヤジは慣れたもので、ボットのタローに話しかけた。
「タロー殿、どうやって探しますかな?」
「私のボットを同化させた魔動機で、目標にしたと思われる活火山を中心にして、高度500m以下で螺旋状に探索を始めます。数日あれば、この北の島全域を精査できるでしょう。」
「それで見つかれば良いのですが、」と言うホムは、あまり期待していないらしいな。
「見つからなかったときは、どうする?」別にタローを苛めるつもりはないが、これまでも飛竜たちが十年以上も探し回ってくれていたのだ。魔動機は地上では見つからない予感が、俺にはあったのだ。
「地上の探査が終われば、次は水中です。」タローが続けた。
「長い年月の中で押し流されたり、地形の変化で水没した可能性が高いと考えています。」ああ、タローもそう考えていたのだな。
「もし失われた魔動機が、例えば湖の底にあるとすれば、私の操る魔動機で水面を進み、直下を観測するしかありません。魔動機は潜水ができませんので探索範囲は狭まりますが、幸いにして周辺にいくつかある湖は、最大深度がそう深くはありません。」タローの話からも、水底の探索がどうやら本命になりそうだ。
キラのオヤジと俺、そしてホムが、ジローと魔人捜索の話ばかりしているので、そろそろギランとタダシがじれてきた。
「父上、ジロー殿は、今日は群竜を見に来られたのですよ。」
「先生、捜索の相談ならボット経由で、いつでもできるじゃないですか。早く群竜を見に行きませんか?」
そんな二人を、ギランの妹が笑顔を浮かべながら観察している。この二人、似た者同士だと思っているのだろうな。俺も、そう思うよ。
(続く)




