その3 魔動機の秘密
今日の朝食のテーブルには、タダシもいた。
二人で一緒に食べ終わり、ご馳走様をして、すぐに席を立った俺たちは搭載艇に急ぐ。今日は、キラ侯爵領にギランが管理している群竜の牧場を見に行く約束をしていた。
◇ ◇ ◇
乗り込めば、搭載艇の速度なら、すぐに魔王国が見えてくる。
操縦室で朝のコーヒーを飲んでいるうちに、眼下にはキラのオヤジの屋敷が、そこに魔動機が置いてあるのが見えた。
とすれば、ギランはまだ屋敷にいるのだな。俺は、搭載艇を魔動機の横に着地させるよう、タローに命じた。
古の魔人を乗せたという、この飛行機械。厚い円盤の中ほどを更に少し膨らませたような、簡素だが美しい形状をしている。
ウィルとホム爺は、せっかくのこの機体に余計なものを取り付けて、洗練された輪郭を台無しにしていたものだが、キラ侯爵家に渡されたこの魔動機は標準仕様のままらしい。
円盤の上面の縁には、同心円状に嵌め込まれた魔石が、太陽光を反射して輝いている。だが、光は跳ね返しても、陽光に僅かに含まれる魔素は、捕捉されて魔石に充填されているはずだ。
もっとも、あの魔動機には今や小型ボットが搭載されているのだから、魔素の不足で飛べなくなる恐れはないわけだ。魔石は常に最大充填だろう。
「先生、あの魔動機はいつ見ても美しいですね。」
「そうだな、魔人の美意識を感じる。あの魔石の配置が、簡素な船体をぐっと引き立たせているよな。」タダシとそんな話をしていたら、タローが声をかけてきた。
「そう言えば、ジローに報告していなかったことがある。私のボットを乗せた魔動機は、他の魔動機と連携できることが分かったのだ。」
「連携って何だ? 一緒に動けるってことか?」
「直線距離にして1kmほどにいる魔動機ならば、私のボットがそれを感知し、操る事ができる。先日、ウィルの魔人号と、このキラの魔動機が並んだ時に、互いに感応していることが判明したのだ。」
「ふーん、ボットを乗せた魔動機同士だから、当たり前だろ。結局は、両方ともお前が操るんだからな。」
「いや、そうではない。私のボットの有無にかかわらずだ。範囲内にいる標準仕様の魔動機複数が互いに感応できる、一機で他を動かせるということだ。」
「つまり、船団が組めると言うことか?」
「そのような使い方もできるな。」
へえ、これは便利だ。と言うよりも、複数の船で行動するときには、あって然るべき機能かも知れないな。
「その魔動機が互いに感応する距離が、もっと長ければいいのにな。」
「残念ながら、その仕様だ。」
「そもそも魔動機を動かせるのが、魔人を除いてはホムンクルスや、ボットを通じたお前だけだもんな。」
「残念ながら、その仕様だ。」
「探査ボットには限りがあるし、な。」
「そうだな、これ以上のボットの喪失はできれば避けたいところだ。」
ですよね~。
「船団は兎も角として、」とタローが続けた。
「ウィルと話し合ったことがある。つまり、五百五十二年前に消息を絶った魔人が乗った船のことだ。」
「そうか! 近くに行けば、感知できると言うことだな!」
「もし、魔人が乗った魔動機が、魔素が尽きて動かなくなったのだとしても、円盤上部の魔石が太陽光を浴びてさえすれば、僅かでも魔素充填は進んだはずなのだ。」
「五百年も陽を浴びれば、確かにな。」
「壊れていなければ、乗り捨てられた十機の魔動機はおそらく休眠状態で待機していると考えられる。」
「じゃあ、高度1kmで飛んで探せばいいわけだな!」
「その高度では、直下しか感知できない。例えば500mの高度で飛べば、地表を1.73kmの幅で探索ができる。つまり2×√3だな。」
そうなるのか? よく分らん。俺は生き物係だからな。
(続く)




